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11. 《魔術師》の家②




 落ち着くためにと《女騎士》が入れてくれたハーブ―ティを飲む。お茶まで美味しくいれられるなんて、ほんと《女騎士》の女子力は高いよね。

 あれ?てか、さっきまで本当にいっぱいいっぱいで気付かなかったけど、《冥王》の話を《女騎士》の前でしちゃっていいのかな?もしかしたら全部思い出したとか?まぁ、今はいよいよ話が始まるところだから、ここは空気を読んで後で聞くことにしよう。


「そもそも、なんで《冥王》が降臨したかって話から始めるけど、それで文句ある?」


 一応断るような《魔術師》の問いに反対する人はいなかった。真白が倒れた《冥王》が降臨しちゃうっていうのはゲーム通りで前々から知ってたことだけど、実際に目の前で起こったことの説明がないと色々と整理がつかないからね。


「《冥王》が降臨した一番の原因は警戒してた通り、《聖女》が倒れるような状況に追い込まれたからってことで間違いないよ」

「真白が意識を失ったから《冥王》の封印が解けたってことか?」

「封印は解けてない。ただ、《聖女》の精神が激しく揺さぶられることによって《冥王》の封印に何らかの影響を及ぼし、《冥王》が外界に接触する隙が生まれた。変脳は近くで青い光を見たんでしょ?」

「うん、地面がガクンと揺れて、裏庭の奥のほうで一瞬何かが青く光ったように見えた」



  頭の中であの時の光景の一部を再生しながら答える。あの時はちゃんと認識できてなかったけど、間違いない。地面が大きく揺れたすぐ後に裏庭のもっと奥のほうで確かに青い光が一瞬光ったのを見た。しかも、あの光が見えた方向には……。



「学園の裏庭に大空石たいくうせきがあるでしょ。光を発したのはあの石だよ。実はあれ、《冥王》の封印の大事な要の1つなんだ」

「そうだったのか?」


 驚いたように聞き返す《吟遊詩人》。学園にいた時間は一番長いから余計に驚いたのかもしれない。

 てか、私もそんなこと知らなかった。【今キミ】ではそんな設定なかったけど……。でも、エンディの場所になってるし、あそこが《冥王》の封印と何かしら関係があるっていうなら、あの場所で【今キミ】の主人公のキスを受けて《冥王》が復活するのもなんか納得できるかも。


「そんな大事な場所なら、どうして先回りして守らなかったんだ?そうしたら今回のことだって防げたかもしれない」


 憤りをあらわにして《女騎士》が《魔術師》に問い詰める。確かに、あの場所が結界の要だとわかっていたら、真白が倒れること以上に気を配ることもできたかもしれない。


「大空石については僕と《創造主》だけが知る極秘事項だったんだ。だから、下手にあそこを警戒して《冥王》側に封印の要だと勘付かせるわけにはいかなかった。ま、結果的には《冥王》にそのことはすでにばれてたわけだから、完全にしてやられたってことだよ」


 不敵に笑ってるけど、あんな言い方するってことは《魔術師》も今回ばかりは完敗したって思ってるんだろう。良かれと思って取った行動が裏目に出てたんだから、無理もない。


「ここまでの話をまとめると、《聖女》である真白君が大空石の近くで気を失ったから、封印にずれが生じて《冥王》が降臨したってことでいいのか?」


 すこし脱線しそうになってた話を《吟遊詩人》が修正する。こういう時にまとめ役がいるのってすごい助かるよね。何度も疑ったことはあるけど、やっぱ教師なんだなと改めて思わずにはいられない。


「ただ単に気を失ったくらいじゃそうはならなかったよ。どうやって結界に影響を及ぼすほど《聖女》の精神を揺さぶるつもりなのかとは思ってたけど、まさかこんな手で来るとはね。なかなかにひどい光景だったらしいじゃん」


 言いながら視線をよこしてくる《魔術師》。ちょっと見たかった、みたいな顔してるように見えるのはさすがマッドサイエンティストとしか言いようがないよ。

 ……なんて思えるほどには、あの時のショックは薄らいでいる。まだ思い出すたびにちょっと頭ピリピリするけど、大丈夫。直接見た時よりは遥かにましだ。

 余計なこと思い出させるんじゃない、って目で《暗殺者》が《魔術師》を睨んでくれるのはありがたいことに変わりないんだけどね。

 


「そして、それを実行したのが《王子》の生まれ変わりの御堂だった……」



 神妙な顔つきで《吟遊詩人》が言う。《冥王》の降臨がもちろん一番の衝撃事項ではあるけれども、《王子》の敵確定も私としてはかなりきつい。リリィの死体にも全神経ガンガン揺さぶられたけど、手を真っ赤に染めた《王子》もやばかった。あんな状況で笑ってるていうのが特にやばい。キラキラエフェクト常備のくせに、血みどろもお好みなんてお腹黒いどころのさわぎじゃないよ、ほんと。


「やっぱ全部わかってて恍けてやがったんだな、あいつ」

「そこを詰め切れなかったのも、こちらの敗因の1つだな」


 《暗殺者》が舌打ちをして、《女騎士》は唇をかみしめている。2人とも悔しそうな顔してるけど、多分どこかでみんな《王子》が《冥王》の手下なんてありえないって思い込んでたんだと思う。

 私のは希望的観測だったんだけど……多分、みんなの場合は同じ転生者としてそれはあり得ないって判断だったんじゃないかな。あえて以前の記憶を残して転生させてくれた《創造主》に感謝こそすれ反旗を翻すなんて、普通の感覚じゃありえない。《王子》も、王様と同じで《勇者》たちを恨んでたっていうなら、それは必然的に思えるけど……。そのあたりの事情は、きっとみんなも知らないんだろうな。

 それを証明するかのように、みんな黙りこくってしまった。しばらくまた沈黙が続く。そんな中、私は《冥王》がなんで降臨しちゃったかって経緯が分かったからちょっとすっきりした気分だった。

 ……すっきりといっても、全く爽やかな感じではないんだけど、ひとまずのどのつまりがとれたとかその程度の気休め。



 現実として《冥王》は降臨しちゃったわけだから、爽やかな気分になんて到底なれないよ。



「《王子》と共謀して、《冥王》はまんまとこの世界に降臨した。これで、真白が《冥王》を選んだら、世界が崩壊する……ってことか?」



 またも沈黙を破ったのは《吟遊詩人》だった。それを聞いた《魔術師》が大きく息を吐いて答える。


「正確には、《聖女》が《冥王》の望み通り封印を解いたら、だけどね」

「えらく冷静にいうな」


 確かに《暗殺者》の言う通り、《冥王》が降臨しちゃったっていうのに《魔術師》は冷静だ。いつもとより割増で表情が皮肉めいてるけど、それでも動揺の類は見られない。


「慌てたって状況が好転するわけないでしょ。大体、まだあいつの勝ちだと決まったわけじゃない。重要なのはこれからどうするかだよ」

「そうだな。真白君が保健医と恋に落ちない限り、滅亡エンドは回避できる」


 《魔術師》に同意しながら《吟遊詩人》と《女騎士》が表情を明るくしながら言う。


「ともかく《聖女》を保健医から遠ざけるしかないだろうな」


 《暗殺者》も表情は変わらないけどそう言って《吟遊詩人》たちの調子に便乗する。

 みんな切り替え早いよね。さすがは前世でも《冥王》と直接対峙しただけのことはある。精神的強さというか、ストレス耐性もチートレベルとかほんとうらやましすぎるよ。



 私なんて、事情知ってたくせにみすみす《冥王》の降臨を許したやっちゃった感で、心穏やかじゃなくて大変なのに。



 頭大混乱の時はそうでもなかったんだけどね。でも、落ち着いて現状が何となくわかるようになって、その次に襲ってきたのは重圧感だった。《冥王》が降臨したらやばいってわかってた、それを阻止できなかったことに対する罪悪感。容赦なく襲い掛かるそれに、私ぺちゃんこになりそうなんです。



 このまま《冥王》の思うままになって、世界が滅亡しちゃったら……。



「どうした、奈美?」

「や、まだショックが抜けきれないというか……」


 隣で黙りこくってる私を変だと思った《暗殺者》が声をかけてくる。誤魔化すみたいに答えたのは、言葉なんかにしちゃったらいよいよ押しつぶされて精神的にやばいことになりそうだなととっさに思ったからだ。結構私ぎりぎりなんですよ、今。


「……」

「直接《冥王》と対峙したんだ。無理もない」


 答えた後もじっと見てくる《暗殺者》に《吟遊詩人》がそんなフォローを入れる。ナイス助け舟。たまには空気読むよね、たまには。《暗殺者》的には黙ってろって感じだろうけど。




 なんて、適当なこと考えながらぐらぐらつく精神を誤魔化す。




 もう起こっちゃったことなんだから、気持ち切り替えて行かないとね。


 時間はかかるけど、こればっかりは自分でどうにかするしかない。


 ……ストレスに強くなる方法をまとめた啓発本でも買ってみようかな。




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