6. 冬休み:初詣①
20151014 大量発生していた誤字脱字修正しました。誠に申し訳ありません。
どうも皆様、あけましておめでとうございます。
今年も無事に年を越すことができました。《暗殺者》にロックオンされたり、理事長が《冥王》の手下だってわかったり、色々とあった年だけどなんやかんやでなんとかなってきた。
文化祭の時に感じた《冥王》の気配は気になるところだけど、今年も気合いを入れて《冥王》対策に取り組んで、あとは一年後の受験シーズンに向けてしっかり勉強して、私の理想のアニメ、マンガ、ゲーム三昧の人生へ向けて一直線に突き進むのみだ!
今年と来年は人生の山場だからな。神社でもしっかりお祈りしておかないと。
「奈美!今年こそは晴着を着てもらうわよ!!」
一階から母上の気合いの入った声が聞こえる。新年早々気合いを入れる場所間違いすぎ。娘一生懸命人生のことを考えているっていうのに、自分だけ着ると浮くからって、私にまで晴着を着せようとしているなんて……。巻き込まないでほしいよ、まったく。
ただ、去年も断ってかなりぶーられられた手前、今年まで断るのはうまくない気がした。仕方ないのでわが身を捧げて大人しく着付けされることにする。
「これで完璧ね!」
「すごくよく似合ってるよ」
「ありがとう、真くん」
鏡の前で何度も何度もくるくる回りながら、母親は自分の姿を入念にチェックし、父親はそれを歯の浮くようなセリフで褒めまくっていた。新年早々からお熱いことで。邪魔をしないように空気を読める娘はさっさと表に出て待っていましょうかね。
「先行ってるよー」
下駄をはいて玄関を出ると、外はとても寒かった。さすが元旦。そして着物って重ね着してる割に結構寒いんだよね。両親に気を使ってさっさと外に出てきちゃったけど、間違った選択だった気がする。
「奈美」
玄関に出戻りだー、と思って踵を返したところで後ろから名前を呼ばれた。物凄く聞き覚えのある声に、反射的に振り返る。
家の門の前に立っていたのは、《暗殺者》だった。
「よっ。あけましておめでとう」
いやいやいや、暢気に新年のあいさつしてる場合じゃないよ。
「な、なんでさっちゃんがいるの?」
「一緒に初詣に行こうと思って、迎えに来た」
迎えに来たじゃないよ。そんな約束してなかったじゃんか。てか、さっちゃんがここにいるのはまずすぎる!クリスマスの時はせっかくうまく誤魔化せたっていうのに、こんな家の真ん前にいたら両親にさっちゃんを見られちゃうじゃん!い、急いで追い払わねば……!!
「ゴメン、初詣は家族と行くか―――――」
「お待たせ―って、あら、奈美、その子は……?」
げえぇぇ!!い、一歩遅かった……。お母さん出てきちゃったし、思いっきりさっちゃんのこと不思議そうに見てるよ!てか、いつもは人が呼ぶまでお父さんとイチャイチャしてるくせに、なんでこんな時だけ出てくるの早いんだよ!!?
いや、見られてしまったものはもうしょうがない。ここはあたりさわりない説明をして誤魔化すしかない。なんて言えばいいかな……近く住んでる後輩でたまたま通りがかったから挨拶してた、とかどうだろう?うん、いけるな!
「こ、この人はっんッふがっ!!」
ただの通りすがりの後輩なんですって言い訳を繰り広げようとしていたら、《暗殺者》に後ろから口を塞がれる。何すんじゃ!?と思いながら手をどけようとするけど、着物を着てるせいでうまく抵抗できない。
「はじめまして。俺、小夜時雨隼人と申します。奈美さんとは普段から特別親しくさせてもらってるので、今日はご両親にも挨拶をと思って伺いました」
「まぁ!」
ちょぉ!!!な、何それ!?特別親しくとか言ったらすごい意味ありげに聞こえるじゃん!確かに普段から身を守ってもらってるからある意味間違ってないけどさ、でもうちの母親が聞いたら絶対勝手に脳内変換して違う意味で解釈しちゃうでしょうが!それを証明するかのように、なんかすっごい嬉しそうな顔して笑ってるんですけど、あの人!!
「わざわざありがとう。でも、あなたがのご家族のほうはよかったの?新年なら色々とあいさつとかで忙しいんじゃない?」
「いえ、俺にとっては奈美さんのご両親に挨拶するほうが重要ですから」
や、てか……今私の口を塞いでしゃべってるのは誰?普段先輩に対してもひたすら素っ気なくしてる不躾代表みたいな態度取ってるくせに、現在物凄く礼儀正しく好青年のようなセリフをいけしゃあしゃあと吐いてるこの人は誰!!?
「あなた、聞いた!?奈美にまさかこんな素敵な彼氏がいたなんて!さすが私の娘ね!!」
「あ、あぁ……」
あーーーー……ほら、思った通り。勝手に彼氏認定してるし。かなりの興奮状態なのか、母親は着物姿でその場でピョンピョンと飛び跳ねだす始末。父親はなんかイマイチこの状況を飲み込めてないのかちょっときょどってるし。
てか、飛び跳ねたりきょどったりしてないで、娘が羽交い絞めにされて口塞がれてるところにお願いだから疑問をもって!!
「小夜時雨君、だったかしら?ここまで来てくれたんだし、せっかくだから奈美と2人っきりで初詣に行ってあげて」
「え?いいんですか?」
「毎年家族で行ってるし、たまには彼氏と行くのだっていいじゃない、ねぇ、あなた!」
「あ、あぁそうだな……」
「ありがとうございます」
私の意見は無視ですか。結局発言の機会も得られないまま終了ですか。こうなったらどうやって否定したって、うちの母親が聞く耳を持たないことは目に見えてるからいいんですけどね。父は母に頭が上がらないからここで反対したりしないってことも想像ついてたよ。全部面白想像通りでほんと悲しいよ。
「よかったな、奈美。一緒に初詣に行っていいって」
やっと私を解放して嬉しそうに笑って見せる《暗殺者》。うさん臭さ80%増量中。全部計算してたっていうのがまるわかりなんですけど。絶対、両親と鉢合わせするつもりでここに来たよね!?なんでそんなことしてくれちゃったんだよ!!?
って、《暗殺者》に文句を垂れまくろうと思ったら、後ろからやってきた母親に拘束された。
《暗殺者》から若干距離をとって、顔をぐぃっと近づけてくる。その顔は途轍もなく生き生きとしていた。……それ見ただけで、げんなりなるわ。でも一応抵抗は試みる。
「ちょっと奈美!あんないい子を捕まえてたなら、なんで言わないのよ!!」
「捕まえてません。勝手に寄ってきただけです。てか、彼氏じゃないからね」
「ふふふ、やっぱり血は争えないってことね。クリスマスパティーに気合い入れていったのもそういうことだったのね!!怪しいと思ったのよー」
「違います。もう一回言うけど、彼氏じゃないからね」
「照れなくてもいいじゃない!礼儀正しい子みたいだし、何よりかっこいいし、お母さん大歓迎よ!逃さないように全力で頑張りなさい!!」
……むしろ、逃れられるように全力で頑張ってるところなんですけどね。最後のセリフは言葉にする気力も湧かない。ものの見事に私の試みは無駄な抵抗という結果で終わった。
そんな失意の娘のことなど露知らず、ご機嫌MAXで笑顔を浮かべ母は未だに戸惑ったままの父と腕組んでさっさと神社へと向かってしまった。
あーーーー、終わった……。これから当分このネタで母親から根掘り葉掘り聞かれるんだ。掘るほどのことなんてなんっもなのに、そこに宝があると信じ込んだ冒険者のごとく、あの人は何かを見つけようと飽くことなく問いかけ続けてくるんでしょうよ。考えるだけでめんどくさいよ。
それもこれも、ぜーんぶ、誰かさんの意味わからん企てのせいだ。
「さっちゃん……」
「ん?」
「……狙ってやったでしょ?」
「何が?」
「何が?じゃなあぁぁぁい!!こんな時だけ猫かぶりやがってーーーー!!!」
笑顔で恍けてみたって無駄なんだよ!普段散々無愛想で態度でかいくせに、なんなんだよ、さっきの猫っ被りは!?それもアサシンスキルの1つだっていうのか!?猫かぶっていい人ぶって近づいて、ブスリとやっちゃう感じなのか!!?
「んなわけないだろ」
「……じゃあ、何が目的なの?」
「もちろん、今のうちにいい印象で挨拶してたほうが後々のことが楽だろ?」
……なるほど、つまりはそういうことか。両親を巻き込んでまで、私で遊び倒してやろうって魂胆か。ほんっとこの人質悪いよ。極悪だよ極悪!こんな極悪人と神社に行っても、神様にお願いごと聞き入れてもらえる気しないんですけど!
「大丈夫だって。もし本当に神なんてもんがいるなら、俺が脅して絶対奈美の願い事かなえさせてやるから」
自信に満ち溢れた満面の笑みで《暗殺者》は言う。そして私は確信した。
……やっぱこの人正真正銘の極悪人だ。




