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5. クリスマスパーティ④




「学生の諸君、今日は寒い中集まってくれてありがとう。毎年行われているこのクリスマスパーティは――――――」



 会場の正面に設置された壇上の上で演説しているのはこの学園の理事長。去年はこぎれいなニコニコ狸親父くらいにしか感想を抱かなかったけど、あの人が《冥王》の手下だって知っちゃった今、ちょっと見方は変わってくる。こぎれいな腹黒ニコニコ狸親父ってところだろう。


「あの人が《冥王》の手引きをしてるなんて、ちょっと実感湧かないよね」

「そうか?俺としては妙に納得したけどな」

「なんで?」

「見た目が昔のまんまだから……」

「へー、王様ってあんな感じだったんだ」


 壇上の上にいるお腹の出た背の低いおじさんに、王冠とマントをかぶせてみる。うん、めっちゃ簡単に想像できた。きっと、人前では今浮かべてるみたいな人当たりが良くて、包容力のありそうな笑顔をずっとたたえてたんだろう。そんなことしながら、裏では何考えてるかわかんないなんて……《王子》の腹黒さはきっと家系的な遺伝なんだろうな。

 

「あいつが《冥王》の手下ってわかってるなら、あいつから色々聞き出せばいいんじゃないか?」

「相手は理事長だよ?しかも《魔術師》のテスト改ざんなんて手を使って来るような悪党と真っ向対立したら、即行で退学になっちゃうよ」

「別に俺は気にしないけど」

「気にしなさい」


 まったく、さっちゃんはこの世界をなめすぎだよね。高校退学なんかになったら、働き先みつけるのめっちゃ大変になるってわかってるのかね?

 まぁ、チート能力持ってるからなんだかんだで職を見つけてきそうだけど。修学旅行も流鏑馬のパフォーマーにスカウトされてたしな……。アサシンスキルを活用すれば裏社会なんかでも大活躍、てかむしろ牛耳るレベルまで行きそうだし……。

 いや、でも《冥王》関連でそこまでさせて本当に悪の道を突っ走っちゃったら、それはすごく申し訳ない気持ちになる。なんか私の責任っぽくない?そんなのごめんだ。自分のせいで人ひとりの人生が悪の道まっしぐらなんて、そんなことが起こったら私が自分の人生を謳歌できなくなっちゃうよ。それだけは絶対にだめだ!


「勝手に理事長になんか仕掛けたら、ほんと嫌いになるからね」

「……わかったよ」


 不服そうな顔で頷くさっちゃん。うん、これで私の健やかな人生はひとまず保たれたというものだ。



 なんて考えてたら理事長の演説が終わった。理事長の挨拶が終わると、あとは完全なフリータイムになる。会場には生演奏が流れ始め、一部の生徒たちはその音に合わせて踊り始める。お金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんはもちろんだけど、そうじゃない生徒もせっかくの機会だからってみんな踊ろうとダンスホールの周りに取り巻きを作っている。

 私はもちろんそれに加わる気はない。ただ、理事長の演説が始まる前に結構食べたからお腹いっぱいなんだよね。今はちょっと休憩中。少しお腹が落ち着いたら、さっき食べた激烈においしい生ハムをまた食べるんだ!


 ってことで、壁際で飲み物をちびちび飲みながらダンスホールの取り巻きを後ろから観察する。みんな好きな人と踊ろうと狙っているのか、後ろから見ているだけでそわそわしているのがわかる。今は真白と《魔王》が一緒に踊ってるみたいだけど、そのあたりには特に人が多く密集してるような気がする。

 曲が終わった途端、あの辺りでは物凄いパートナー争奪戦が繰り広げられるんだろうな。ご苦労なことだ。


「奈美は踊らなのか?」

「踊れないし、踊れても踊らない」


 隣で同じく取り巻きを観察していた《暗殺者》の問いに即答する。


「なんで?」

「どう考えたって私が立つような場所じゃないでしょ、あんなとこ。さっちゃんこそ、踊ってくれば?」


 今日も今日とて、ひたすら私にひっついて護衛してくれてた《暗殺者》。パーティとかに興味がないのはわかってるけど、やっぱ付きあわせて悪いなーって気持ちにはなっちゃうわけよ。なので、一応聞いてみる。


「今の奈美の言葉、そっくりそのまま返す」

「昔はよく踊ってたんじゃないの?」


 《暗殺者》たちの前世は王族とか貴族とかがいた時代だ。こういうパーティなんて日常茶飯事で開催されてたんだろう。あ、でも【魔族】だったなら、あんまりそういうのに縁なかったかな?なんて考えてたら、《暗殺者》が何故か自嘲気味な笑みを浮かべる。


「まぁな。人が密集してると仕事しやすかったし」

「あー……なるほどね」


 表情と言葉で色々合点がいく。うん、まぁ、こんだけ人が多かったらどさくさに紛れて……なんて、簡単だよね。暗殺稼業経験がなくとも想像に難くない。



「そこで納得するのが奈美の面白いところだよな」



 スーツに暗器を忍ばせてお偉いさんに迫っていく《暗殺者》の前世の姿を想像してたら、なぜかおかしそうに笑われた。何がどう面白いっていうんだ?納得する以外にどんな反応があるっていうよ?私にしてみればさっちゃんのその感性のほうがよっぽど面白いんだけど。

 くすくす笑う《暗殺者》を睨みつける。やっと笑うのをやめたかと思うと、《暗殺者》はジャケットの内ポケットから小さな袋を取り出した。リボンのついた綺麗にラッピングされた袋は明らかにプレゼントっぽい。それを、《暗殺者》は私に差し出してきた。


「はい」

「え?」



「クリスマスプレゼント」



 にっこり笑顔を浮かべて私の手にプレゼントを持たせる《暗殺者》。

 ……まじか。まさかプレゼントを用意しているとは思わなかった。カップル同士や友達同士でプレゼント交換する人もいるみたいだけど、そういうときは前もって示し合せとくのが普通のパターンだ。……こうしてサプライズでプレゼントもらったの、初めてかもしれない。うん、なんか、普通うれしいかも。


「あ、ありがとう」

「開けてみて」

「うん……」


 綺麗に結ばれたリボンを解いて、袋を開ける。中にさらに透明の小さな袋が入ってた。それを引っ張り出して中身を見て、びっくり仰天。



 中から出てきたのは、クリスマス限定デザインのグレイロードのネックレスだった



「これ……」

「前に飾ってあったの熱心に見てたから」


 《暗殺者》のその言葉に、そいうえばこの間、ばったり町で出くわして一緒にぶらぶらしてた時に、グレイロードのショップに寄ったのを思い出す。ダークシルバーのチェーンに紫色の石をあしらった蝶型のヘッドのネックレス。色の組み合わせとヘッドの形が気に入ったんだよね。

 特にこれが欲しいって口にした記憶はないけど、すごく好きだったから結構長い時間眺めちゃってたんだと思う。どうやら、それを目撃されていたようだ。……って、そうじゃなくて!!!


「これはもらえないって!」


 回想を終えて我に返って、慌ててネックレスを《暗殺者》に突き返す。そしたら心底不思議そうな顔をして首を傾げられた。


「なんで?」


 いやいや、なんでじゃないよ。以前も言いましたけれどもね、このブランドのアクセ、高校生が早々買えるお値段じゃないんですよ。これだって比較的安い価格帯とはいえ、5桁行くんですよ。そんな高いもんもらえるわけないでしょうが!てか、察してくれよ!そういうこと、直接的には言いにくいじゃないか!!


「俺、同じの持ってるから、もらってもらえないとそれこそ金の無駄になるんだけど?」

「……」


 そのうっさんくさい笑顔、確信犯ですよね?そんなこと言われたらもらうしかないじゃんか。もちろん、正直すごく欲しかったから物凄くうれしい。嬉しいんだけど、素直に喜ぶ気にはなれない。



 だって……こんなのもらったら、こっちだって渡さないわけには行かないじゃんか!



 や、でも、これは直前でやっぱりあげるのやめようと思って家において来ようとしたわけだし。……母上のいらぬ助け舟のおかげで今手元にあるのはあるんだけどさ。

 いや、でも値段的にも全然釣り合ってないし!大体、ものがまずい!やっぱ消え物にしとけばよかったんだよね……。

 でも、こんないいものもらっといてこっち何もなしとか……それは私のテイク&ギブ精神に反しているし……。それに、似合わないことは、ないと思うんだよね……。

  


「奈美、百面相してどうした?」


 色々考えるあまり、それが表情に出ていたらしい。本気で心配な顔で《暗殺者》が顔を覗き込んでくる。

 ち、近いわ!!あぁ、もう!なんか色々考えるのめんどくなった!もういいよ!せっかく買ったし、手元にあるし、四の五の考えずあげちゃえ!!



 やけくそ気味にハンドバッグに入れてあった小さい紙袋を《暗殺者》に突き出す。



「……はい」

「ん?」

「あげる。いつも助けてもらってるから、そのお礼!」


 さっさと受け取ってくれ!という願いを込めて、胸のあたりに紙袋を突きつける。なのにこっち願いもむなしく、《暗殺者》は心底驚いたって顔をしてこっちをじーーーっと見てくる。しばらくそんな膠着状態が続いて、やっとこさ《暗殺者》は紙袋を受け取ってくれた。


「俺に?」

「いつも引っ付いてくるのは、さっちゃんだけでしょ」

「……すげぇうれしい」



 そ、そんな普通にうれしそうな顔するんじゃないよ!!こっちまで照れるでしょうが!!



 向こうもそんな風に笑ったのは無意識だったのか、口元が緩みまくってるのに気付いてちょっと気まずそ手で隠しながら視線を逸らす。咳払いしていつもと変わらない表情に戻った《暗殺者》は笑いかけながら問いかけてくる。


「開けていい?」

「どうぞ」


 あげたもんですからね。ちゃっちゃと開けちゃってください。……どんな反応されるか間近で見るのは避けたい気もするけど、変に期待を引き延ばしてあとでがっかりさせるのもなんだし。イマイチな反応ならここで即行謝ろう……。



「ピアスだ」



 袋から取り出しピアスを手にのけって、それをじーっと見ながらつぶやく《暗殺者》。選んだのは中折れフープ型の藍色のピアス。輪っかの中心からは細長いひし形が垂れ下がってて、ちょっとそれが《暗殺者》の持ってる宝玉に似てるなと思ったから選んだんだよね。

 んで、肝心のさっちゃんの反応だけど…………………うん、さっちゃんの目がキラキラ光っているのは多分見間違いじゃないと思う。その様子からして、多分喜んでいただけているんだと思われ。さっちゃんがくれたものの半分以下の値段なんですけどね、せっかく喜んでくれてるから余計なことは言わないことにしておこう。

 なんて思ってたら《暗殺者》は右耳につけてたピアスをはずし始めた。そして私が上げたピアスをつける。ピアスをつけ終わるとちょっと首を傾げながら尋ねてくる。


「似合う?」

「……うん」


 なんか、むず痒いやり取りをしてしまったような気がする……。実際似合ってると思うし、さっちゃんが喜んでるから、普段のお礼としては申し分ない成果を上げたことになるんだろうけど……やっぱり消え物にしとけばよかったという感が否めないのは、このむず痒い感じが耐えられないからだよね……。



「ありがとう、奈美」



 や、だからね……明らかにいつもとは違う普通に嬉しそうな笑顔を向けられると余計にむず痒さが増すから、やめてくれ。


「あ、うん……ど、どうせなら両方つければ?」

「いや、片方は奈美が持ってて」


 さっちゃんの視線を自分から何とか逸らそうと思って適当なことを言ったら、意外な答えが返ってきた。


「え?でも、私があげたものだし、穴開いてないし」

「さっきのネックレス。ちょっとかして」

「……はい」


 言われた通り、先ほどいただいたネックレスを渡す。何するつもりなんだろうなーと思いながら《暗殺者》の手元を見ていたら、引き輪をはずしてネックレスにピアスを通す。そしてそのまま私の後ろに回って、ネックレスをく付けてくれた。首元を見下ろすと蝶々のヘッドと藍色のピアスがうまい具合に並んで下がっている。

 私の正面に戻ってきた《暗殺者》も私の首元をみて満足そうに笑う。

 


「これでお揃いだろ」



 こっ、こここここいつ……なんてかわいいことするんだ!!!?さすがは百戦錬磨のナンパ師!こんなことされたら大半の女子キュン死ぬんじゃないか?

 わ、私は大丈夫だけどね!ちょっとドキッとしたけどね、でも別にびっくりしただけだからね!これはキュンとかそいうんじゃなくて息苦しくなっただけで…………大丈夫、だよね?



「奈美?」



 い、いかん……またさっちゃんの周りにキラキラが見える……!これは悪い兆候だ!また邪念とらわれそうになっている!!しっかりするんだ私ーー!!


「……ちょっとトイレ行ってくる」

「え?」

「ついてこなくて良いからね!」


 言い捨ててからトイレに向かってダッシュ。洗面台のところまでたどり着いて鏡を覗き込んで、自分の顔が真っ赤になっていることに気付いて、肝が冷える。

 な、なんて顔してるんだ私……!プレゼントとお揃い攻撃くらいで心を乱されるなんて……乙女かよ!!しっかりしてくれってば、私の理性!邪念なんかに負けるんじゃなーい!!




 くっ……これは修学旅以来の危機到来かもしれない……。


 心をしっかり保つためにも、便座に座って瞑想してから会場に戻ることにしよう。




ちょっと長くなった。

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