4. クリスマスパーティ③
「やぁ、平野君に小夜時雨君。こんばんは」
真白たちが起こした騒ぎが多少おさまってきたかなーってところで後ろから声をかけられた。振り返ると声の主である《女騎士》と、彼女と腕を組んだ仏頂面の《魔術師》の姿があった。
「こんな行事におまえが参加してるなんて意外だな」
私が思っていたことと丁度同じことを《暗殺者》が口にする。すると《魔術師》はさらに眉を寄せた。
「来たくて来たわけじゃないよ」
もしかしたら《女騎士》に無理やり引っ張られてきたんだろうか?よく見れば《魔術師》の胸にあるスカーフと《女騎士》のドレスの色が同じクリーム色だ。そして《女騎士》はすごくうれしそうな笑顔を浮かべている。《魔術師》から反感を買いそうだから、その点についてはスルーするけど。
「奈美!翔子!」
《魔術師》たちとの挨拶が済んだところで、今度は入り口のほうから声をかけられる。さっきまでこの会場の注目の的になっていた真白だ。その後ろを《勇者》と《魔王》も追いかけてこちらに近寄ってくる。
「こんばんは、真白君。今日の君は一段と輝いているね」
「ありがとう。そういう翔子も、いつもと雰囲気違ってすっごくきれいだよ!」
「ふふふ、こんな時くらい頑張っておかないとね」
真白に褒めらて《女騎士》はほんのりと頬を赤く染めていた。今日はドレスを着ていることもあって乙女度割増みたいだな。これが全部《魔術師》を想ってのことだっていうのが、いまだに信じられないけど。
「児玉君も小夜時雨君のスーツ姿もすごく素敵だね」
ニコリと笑う真白。こんな輝くかわい笑顔で褒められたら、普通の男子たちは天まで舞い上がられるくらい幸せな気持ちなっちゃうよね。……だというのに、褒められた当の《暗殺者》と《魔術師》ときたら、
「どうも」
「こんな堅苦しい服、早く脱ぎたいところだけどね」
この反応ですからね。真白がほめてくれたっていうのに、なんなんだその反応は!特に《暗殺者》!めっちゃ面倒くさそうな顔してそうそうに顔を逸らしているんじゃないよ!!
「平野は去年とだいぶ雰囲気が違うな」
《暗殺者》のことを睨みつけていたら、いつの間にか傍まで来ていた《魔王》に声をかけられた。と、同時に去年のクリスマスパーティでの出来事が頭の中によみがえってくる。
去年はテラスで黄昏てた《魔王》と遭遇して、めちゃくちゃ凹んでたところを励まして、そのお礼にってピアスをもらったんだよね。そのピアスは今も机の引き出しにしっかりと保管してある。
そういえば、あの時なんか意味わかんないくらい《魔王》に対してドキドキしちゃってたよなー……なぁんて思い出したら、1人で勝手に恥ずかしくなってしまった。
「あ、うん、まぁね」
おかげでちょっと挙動不審な感じになる。そんな私態度を《魔王》は特に気にした様子はなく、《勇者》との会話を再開する。変に思われなくてよかった。
「……なんかあったのか?去年」
と、思ってた矢先に隣にいた《暗殺者》が目ざとく聞いてくる。《魔王》はスルーしてくれたのに、なんで《暗殺者》にじと目で睨まれなきゃいけないんだよ!
「いや、ちょっとしゃべっただけだよ?」
「ふーん……」
明らかに怪しむような目で見られてるんですけど……。別に、《暗殺者》に話して都合の悪いことは何もないから言ってもいいんださ。ただ、できればドキドキしてたのを思い出して余計な羞恥心に苛まれるのは遠慮したいし……てか、真白のコスプレ写真を《魔王》に譲渡したのを真白と《勇者》に知られるのはあんまりうまくないだろう。ってことで、急いで話題変えだ!!
「そ、そういえば真白!その胸に挿してるのって、もしかしてリリィの羽?」
真白の胸にあるコサージュ、そこにつけられた黄色い羽を指しながら尋ねる。真白の視線がこちらに向けられたことで、《暗殺者》はそれ以上の追及を諦めたみたいだ。ほっとしている私に、真白は嬉しそうに笑いながら答える。
「そうだよ。抜けちゃったのを取ってあったからつけてみたんだ」
「リリィ?」
《女騎士》が首を傾げて尋ねる。
「うちで飼ってるインコの名前」
「へー、真白君はインコを飼ってるのか」
「うん。私が家に帰ると玄関でお出迎えしてくれるんだ。頭が良くて、すごくかわいいんだよ!後で写真見せるね!」
一生懸命にリリィのかわいさをアピールしようとする真白。その笑顔はこっちまで顔を緩めてしまうほどかわいらしい。
真白はリリィを溺愛してるからなー。リリィの話になると、真白は特に無邪気な笑顔を浮かべるんだよね。黄色い鳥と戯れる真白は《聖女》過ぎて、初めてその光景を見た時は思わず拝みそうになったくらいだ。
「すごく、楽しそうだね」
うげぇぇぇ!!!こ、この声は!!!
振り返ったら案の定、そこに《王子》が立っていた。相変わらずのキラキラエフェクト満載の笑顔でこちらに近づいてくる。周りの女子生徒の何人かは《王子》の存在に気がづいて黄色い声を上げていた。《王子》が浮かべる笑みにみんなうっとりと頬を染めている。私には不気味な笑みにしか見えないんだけどね……。
「御堂先輩!」
「こんばんは、真白さん。いつも君はきれいだど、今日は特別に美しいね」
「あ、あの……ありがとうございます」
そして真白の前に立つなりAnother Dimension発動。もうお決まりのパターンだから驚いたりはしないけどさ……この人ごみの、しかも《勇者》も《魔王》も近くにいるのにこの遮断感。天晴と声をあげたくなるほどの技の切れだわ。
てか、文化祭からあんまり時間がたってないのに、また登場かよ。こっちは《王子》が《冥王》の手先かもしれないって疑いまくってるところなのにまた現れるなんて。こっちに探りを入れるチャンスを与えてるようなもんだ。
探らせる隙なんて与えないっていう余裕があるからなのか、それとも《王子》は《冥王》と関係ないからなのか……。キラキラエフェクト満載の笑顔からは残念ながら何も読み取れない。
「あいっかわらず感じの悪い奴だな」
《王子》の必殺技の前になす術がなかった《勇者》が悪態をつきながら真白から距離を取る。一緒にこちらにやってきた《魔王》も肩越しに《王子》を睨みながら《勇者》に尋ねる。
「知り合いか?」
「一昨年生徒会長をしてた卒業生だ。いちいち喧嘩売ってくるような態度が気に食わない」
「……確かに、一瞬睨まれたな」
《勇者》にだけでなく、《魔王》にも同時に喧嘩を売るとは……《王子》ほんと怖いもんなしだな。
「よかったら、後で僕と踊ってくれるかい?」
「もちろんです!」
「楽しみにしてるよ」
当の本人は自分で作り出した真白と2人だけの世界を堪能中。キラキラエフェクト全開の笑顔で真白に優しげに笑いかける。ダンスに真白を誘う姿なんかまさに王子様ーって感じで絵なってる。
異次元で繰り広げられるやり取りはひたすらメルヘンチックなのに、私の精神は異様に消耗されていく。それもこれも、あの《王子》が腹黒すぎるからだよ。おまけに《冥王》の手先かもしれない疑い上昇中。心穏やかでいられるはずがない。
「もしあいつが《冥王》についてるなら、厄介だな」
「やっぱ、さっちゃんもそう思う?」
隣で警戒心MAXで《王子》を睨みつけさっちゃんの言葉に、薄ら笑いを浮かべながら同意するしかなかった。




