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3. クリスマスパーティ②




 結局《暗殺者》が上機嫌な理由は不明なまま会場に到着。去年と同じ要領で生徒手帳を見せて、プレゼントを渡してクロークへ。一足先に荷物を預け終わった《暗殺者》のところに戻る。



 コートを脱いだ《暗殺者》は予想と反してかなりふつーの格好をしていた。



 黒いスリーピーススーツに、細めの青紫のネクタイ。1つボタンのジャケットのボタンもしめて、靴下もちゃんと履いてる。もっとカジュアルにくると思ってたから、こんなにフォーマルなのは意外だ。あ、でもちょっとスーツの生地が特殊かな?ちょっと光沢のあるタイプ。そのおかげで堅苦しすぎるってことはないかも。

 じぃっと《暗殺者》の姿を観察する。下から上に視線を上げていったら、最後にぱちっと視線が合った。ちょっとドキッとしてたところに、《暗殺者》は目を細めて笑い返してくる。


「そのドレス、奈美にすげぇにあってるよ」

「あ、ありがと……。さっちゃんも、似合ってるよ」


 最近全然平気だった《暗殺者》のキラキラビームを感じた気がした。口元が引きつるのを感じながら、何か笑顔を返す。邪念に惑わされるんじゃない。キラキラして見えるのは会場のせいだ。精神統一だ、邪念を振り払うんだー!

 ……ただ、一個気になることがある。なんでさっちゃんがつけてるネクタイ、私のドレスと同じ色なんだろう。青が深めの紫でそうそうない色だし、偶然被ったとは考えにくいんだけど……まさか、心読まれた?


「《聖女》にドレスの写真見せてもらったんだよ」


 心の中で不思議に思ってたら、それを読み取ったらしい《暗殺者》がご丁寧に説明してくれる。謎が解けたのはありがたいんだけどね、今考えてること読み取ってくれなくてもよかったんだけど。



「このクリスマスパーティって、カップルで同じ色のもの見つけるのが慣習になってるんだってさ」



 さらにニコニコしながら笑いかけてくる《暗殺者》。さいですか。あーーーー……ここでツッコむのは逆効果だよな。こういう時は流すに限る。


「そうなんだ。そういえば、去年真白と《勇者》もそんなことしてたよ」


 いいながらさっさと会場に入る。後ろからぶーたれる声が聞こえてくるけど無視だ無視。てか、今思い出したけど、確かにこのドレスを買いに行ったとき、真白がドレスだけの写真を異様に取りたがってたな。あれはそういう理由だったのか……。 

 真白に謀られるなんて……きっと事実をといつめたら、いたずらっぽい笑顔を浮かべて「ごめんね」ってすっごい可愛く謝ってくれるんだろうな。真白、かわいすぎる。それを想像しただけで、私は真白のことを許してしまうよ。


 ウェルカムドリンクをもらって、ひとまず腹ごしらえに向かう。よく見たら去年と違う料理が結構並べられてた。さすがお金持ち私立学校。毎年この規模のパーティを開催するだけでなく、出てくる料理まで変えてくるなんて、なんて気前がいいんだ。ルンルン気分で皿をとろうとしたら後ろのほうで会場の入り口で驚きの声が次々とあがる。


「なんだ?」

「さあ?」


 隣で同じく料理を取ろうとしていた《暗殺者》と顔を見合わせる。ちょっと気になるのでお皿を置いて、人が集まっている最後尾から騒ぎの先を覗き込む。



 会場のほぼ全員の視線をくぎ付けにしていたのは、真白と《勇者》と《魔王》だった。


 な、なななななんと……真白さん……まさか、《勇者》と《魔王》を両手に伴って現れるとは!!!!



 え、全然そんなこと聞いてないんですけど!?てか、真白が来ている赤ワインレッドのドレスに合わせて、《魔王》は赤ワインレッドのシャツ来てるし、《勇者》は赤ワインレッドのネクタイ締めてるし!!

 ……ちょっと、私驚きで開いた口が塞ぐことができません。


「さっちゃん……あれ、知ってた?」


 あまりの衝撃でひくひくする口元なんとか動かしながら《暗殺者》に問いかける。見ると《暗殺者》もなんてこった、って感じで眉間にしわを寄せて真白達を見ている。まあ、そんな心情になるよね。


「いいや。ったく、昇だけじゃなくて《勇者》まではべらすとは……ビッチ《聖女》決定だな」

「こら!真白に対してなんてこと言うの!」


 確かに、やってくれたな、とは思ってるけどさ、ビッチなんて言葉を真白に使おうなんて、この私が許さないよ!!!ところが、《暗殺者》はその言葉を訂正せずに大きな大きな溜め息をつく。


「ほんとのことだろ?こりゃ《冥王》云々関係なく、女どもに叩き潰されるぞ?」


 うん……実は私もまさにそれを心配してただけどね……。ほら、井之上様なんてとうとうかみしめていたハンカチを破いてしまったし、木戸なんて持っていたグラスを握り割ったよ。怪我してないといいけどね。

 そして、周りから聞こえてくるたくさんのささやき声。その中に嫉妬や敵意が混じってるのは火を見るよりも明らか。さすがに《勇者》と《魔王》を両手に伴ってくるなんて……ファンクラブの人たちにとっては喧嘩売られてるとしか思えないよね。

 色々と事情を知ってる私からしてみたら、何となく気持ちはわからないでもないけどさ。だって、3人ともすっごくすっごく楽しそうに笑ってるんだもん。


「《冥王》のことでこっちは気を張ってるってのに、あいつら暢気すぎ」

「まぁ、《勇者》も《魔王》も最終的に和解したのは思い出したみたいだけど、《冥王》のことはまだちゃんと思い出せてないみたいだし……。今は前世で過ごせなかった3人での時間を楽しんでるんじゃない?」


 また大きなため息をついた《暗殺者》についつい3人をフォローするようなことを言ってしまったのもそのせいだ。



 多分、今見てるのは過去に実現されることのなかった場面。



 《勇者》と《魔王》は和解して一緒に《冥王》を倒した。だけど、その時には《聖女》は《冥王》の手にかかって殺されちゃってる。だから、今みたいに3人で心の底から笑い合うってことは一度たりとも過去には起こりえなかったはずだ。



 きっと、こんな時間を過ごしてほしいと《創造主》も思って、みんなを転生させたんじゃないかな。



 《冥王》のこととか、《勇者》・《魔王》ファンクラブの皆様の動向とか、不安要素はたくさんあるんだけどさ……、今日くらい暖かい気持ちで見守っておくべきだよね。



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