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2. クリスマスパーティ①




 文化祭以降、特にこれといった事件も起きないまま登校最終日、つまりクリスマスパーティの日となった。こんなに静かな日常は久々だったからなんだか不気味にすら感じたくらいだ。文化祭の時に《冥王》の気配を感じて気合いを入れてたから、余計にそう思うのかもしれないけど。



「あら、今年はちゃんとドレス着ていくのね」



 玄関でブーツを履いていたら背後から母が声をかけてくる。去年は出がけに色々とお小言をもらったから、できれば気づかれないうちに出ていこうと思ってたんだけど……今年も捕まってしまったか、チッ。

 ただ、背後から聞こえてきた母の声は去年よりも多少は満足げだった。それもこれも私の格好のせいだろう。去年は最低学年だったし、どんなもんかもわからないから勇み足でかなりカジュアルな格好で行ったけど、そっちのほう若干浮きかねないということを学んだ。

 学園一の人気者で真白は別として、絹島さんも他のクラスメイト達もばっちり決めてきていたし、雰囲気としては誰かの結婚式に近いような感じだった。ってことで、私もそれなりのドレスを今年は購入した。といっても、Aラインのすっごいシンプルなやつだけど。


「髪がもうちょっと長ければアップにしてあげるのに。伸ばさないの?」

「短いほうが楽だから、これでいいの」


 さすがになにもなしっていうのはアンバランスだから、ドレスの色に合わせた花飾りをつけてるけどね。これくらいで十分だろう。


「んじゃ、いってきまーす」


 ブーツをはき終わったらそそくさと家を後にした。長居してまた余計なこと言われたら面倒だしね。きっとまた、去年と同じでいい男が云々って話を始めるに違いない。両親には悪いと思うけど、早いうちに孫は期待しないでねって伝えておいたほうがいいかもしれないな。



「奈美」



 考え事をしながら歩いてたら、待ち合わせしてた《暗殺者》に先に声をかけられた。


「ごめん、まった?」

「いや、俺も今きたとこ」


 そう笑った《暗殺者》は何故かこっちをじぃっと見てくる。


「……何?」

「いや、奈美のドレス姿見るの楽しみだなと思って」


 まぁ、確かに今はいつも学校に来ていくコート来てるから、どんな服きてるかなんてわかんないもんな。

 でも、それはこっちも一緒だ。たまに見る《暗殺者》の私服は奇抜ってわけじゃないけど、ちょっと独特の色遣いをしてくる。それがおしゃれなのか残念な組み合わせなのかは私には全く理解できないが、今日は学校の行事なのであまり目を引くような格好じゃないといいなぁと願わずにはいられない。



「奈美ー!忘れものよ!!」



 うげぇぇぇ!!!!こ、この声は母上!!あの人にさっちゃんといるところ見られるのはまずすぎるんだって!!


「さっちゃん、ちょっとあの電柱のところに隠れてて!」

「は?」

「いいから!ちゃんと隠れ身の術つかってよね!」

「……」


 角の少し奥にある電柱にさっちゃんを押し込んで、家に面してる道に戻る。上着も着ずに家を飛び出してきた母は、駆け足で私のところまで近寄ってきた。


「ど、どうしたの?」

「だから、忘れ物」


 そういって、持ってきた小さな紙袋を差し出す母親。今の反応からしてどうやらさっちゃんといたのはばれてないみたいだ。こんなこともあろうかと、念のために角を曲がったところでいつも待ち合わせにしてたんだよね。よかったよかった。



 ……それはよかったんだけど、母上よ、わざわざこれを持ってきてくれたのか。



「これ、今日持っていくクリスマスプレゼントでしょ?」

「あ、あー……う、うん、そうそう。ありがとう」


 本当は持っていかないのを直前で決めたプレゼントだったんだけど、色々と説明をするの面倒だから受け取っておくことにする。母から受け取るとすぐにもともと持っていた大きめの紙袋に突っ込んだ。


「それより、なんでその角から出てきたの?バス停に行くにはまっすぐでしょ?」

「え!?あ、うん……ちょっとね」

「……」


 我が母親ながらなんか目ざとい。そういうところはスルーしてくれて全然いいとこなのに!そう思いながら適当にはぐらかそうとしたら、余計に訝しげな顔をされた。

 す、すごい怪しまれてる。子供にそんな疑いの眼差しを向けるなんて、教育上よくないぞ!子供がぐれちゃうぞ!や、そんなこと言ってないでここは急いで話題を変えないと……。


「てか、ほら、そんな格好で外いたら風邪ひくよ!早く家の中に入ったほうがいいって」

「……まあいいわ。それより、今年こそいい男をゲットしてくるのよ!」

「が、がんばります……」


 薄着で出てきたから寒いのは本当だったんだろう。身体をさすりながらも去年と同じような小言を言い残して、母は家へと入って行った。



 ……ほんっと危なかった。



 いい男ゲットしてこいなんて言ってる我が母上にさっちゃんと一緒にいるところを見られたら、即行で色々感くぐられるに決まっている。なまじさっちゃんの顔がいいだけに、母はきっと大喜びで勘違いをしてくれるだろう。ハイテンションの母に絡まれるのは面倒くさいし、それが勘違いだっていうならなおさらだ。



「あれ、奈美の母親?」


 

 母親の姿が完全に見えなくなると、電柱の陰から出てきたさっちゃんが話しかけてきた。さっちゃんがうちのほうを向くのに合わせて、私もそっちを向く。


「そうそう。うまく隠れてくれてありがとうね」

「顔は見えなかったけど、声が似てた」

「え?そうかなぁ。自分じゃよくわかんないや」


 自分の声って聞こえ方が違うっていうしな、なんて思いながら《暗殺者》の顔を見上げる。



 その顔を見て、思わず顔が引きつった。


 

「……さっちゃん」

「ん?」

「なんでそんな機嫌よさそうなの……?」

「別に、さっきと変わってないけど?」


 いやいや、絶対の絶対にそんなことないよ。確かにさっきも機嫌悪いことはなかったけど、なんか今明らかに楽しそうっていうか嬉しそうっていうか……。笑顔のうさん臭さがいつもの5割増なんですけど?



「ほら、早くしないとバス間に合わないぞ」



 うさん臭い笑顔のまま《暗殺者》は私の手を引いて歩き出した。歩いてる間も、なんかいつもより若干足取りの軽い《暗殺者》。どう考えたって、さっきよりめっちゃ機嫌いいじゃん。地雷ポイントもいまだ未知数だが、機嫌が良くなるポイントも同じくらい謎すぎる。




 ……なんか、変なことたくらんでるわけじゃないよね?




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