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39. 文化祭2日目②

遅刻しました。すみません。

 





 数分後



「「「「「おおぉぉ」」」」」

「圧巻、だね」

「これは絵になるなー」

「ちょ、写真写真!」

「昇……かっこよすぎ……」

「あぁ!押井が倒れた!!」

「これ、井之上様に連絡するべき……?」

「でも、そんなことしたらここに人があふれかえって大変なことに……」

「ここは、連絡してる暇がなかったということで誤魔化しましょう」

「異議なし」

「女の友情がもろいって本当だな……」

「今回の判断は正しいと思うけどな。全校生徒が集まってきたら、それこそ俺たちがゆっくり写真を撮れなくなる」

「確かにそうだ」

「ここはあんまり外には広めない方向で」



 いつの間にか集まってきていたクラスメイトたちが好き好きに感想を漏らす。しかし、そんな言葉さえ、私の耳には届いていなかった。



 だって、だってだってだってだって……、今、目の前に大好きなゲームのキャラクターたちが、勢ぞろいしてるんですよ!?



 《女騎士》が纏っているのは中世風の軍服。赤い上着に紺色のズボンは【セント・ファンタジア】の王国の騎士の正装だ。腰にはレイピアに似せた細身の剣を刺してもらってる。凛々しさあふれるその姿はまさに【セント・ファンタジア】に出てくる《女騎士》そのもの。もしかしたら再現率としては真白の次に高いかもしれない。


 続きまして《吟遊詩人》。彼の特徴はなんといっても大きな羽が付いた帽子だよね。フリルのついた白いシャツにカラフルな色のズボンにマントを羽織ってもらえば流離い感が増す。んでもってギターをもってもらえば完璧!ゲームのキャラクターよりはるかに明るい性格してるから、独特の哀愁は漂っていないけど、これはこれで良しとしよう。


 続きまして《魔術師》。彼に関しては再現率にはこだわっていない。なぜならゲームのキャラが白魔術属性だったのに対し、この《魔術師》は真黒属性すぎるからだ。ってことで、定番のトンガリ帽子にだぼだぼのローブを真黒な色で仕上げてもらった。オプションは魔術書(に見せかけたただの辞書)とモノクル。再現率ゼロだけど、黒魔導士の雰囲気でまくってていい感じ。


 続きまして《暗殺者》。この人もゲームとキャラとの乖離が半端ないけど、アサシン属性だけはちゃんと被ってるからね、気合いを入れて再現率を上げました。ベースは真黒なつなぎ。腰の部分を太いベルトを締めてそこにはありったけの暗器を仕込んである(設定で実際は何も入ってない)。首元は顔が半分隠れるようにスカーフと一体化してて、頭には耳垂れのついたバンドをつけてさらに顔つきがわからなくしている。再現率もさることもさることながら、「これなら仕事しやすかったと思う」という本人からのお墨付きもいただきました。


 続きまして《魔王》。ゲームの中の《魔王》が着てたは袖口が大きくて丈の長いコート。それを首元までしっかりしめて、したにはシンプルな黒いズボンに黒いマントといういでたちだった。それじゃちょっとつまらないってことになって、なぜか腹だしが採用された。男性のチラリズムは私にはよくわからないが、ファッション部にいた強烈な《魔王》ファンによってこうなった。角もつけようって話になったけど、さすがにかわいそうなので止めておいた。衣装は文句なく似合っている。


 続きまして《勇者》。実はこいつが一番悩んだ。なぜなら、【セント・ファンタジア】の《勇者》のデフォルトは鎧を着てるからだ。さすがに鎧は作れないよねーってことになり《勇者》のデザインを一から考えることになった。結果、すその長めのシャツを腰の位置でベルトしめて、ゆるめのズボンをブーツイン。肩当と胸当て、ひざ当て、額当てをつけて、青いマントというデザインになった。ちょっとパッとしないかな、なんて思ってたんだけど、本人が着たらちゃんと立派な《勇者》だった。


 んでもって、最後は《聖女》の真白さん。これがもう……再現率100パーセント。服はハイネックのワンピースにビーズの刺繍がしてあるという、シンプルな感じになってるんだけど、真白が醸し出す空気が《聖女》すぎて、ゲームから飛び出してきたんじゃないかと思うほどだ。白いベールをつけてはにかむように微笑まれれば、それは天からの贈り物と思えるほど幸せな気分になる。典型的なシスターって感じではないけど、こんなシスターが実際にいたら、どんな悪党も自らの罪をその場で悔い改めるに違いない。


 こんな感じで個人でも萌え要素満載だっていうのに、《勇者》・《魔王》パーティが【セント・ファンタジア】の格好をして目の前に勢ぞろいしているなんて……!!前世でも味わったことがないほどの萌えが今私のところに舞い降りてきている……!この世界に転生したことをこれほどまでに喜んだ瞬間は、記憶を取り戻し以来なかっただろう。

 なんで私がこの世界に転生したのかは定かではないけど、ともかく心の底からお礼を言いたい気分だ。ありがとう!この世界に生まれ変わらせてくれて、ほんっとありがとう!!!

 


「あ、平野も感動のあまり固まってるぞ」

「……目がこれでもかってほどの輝きを放ってる」

「もしかして、平野さんってこれがやりたくてコスプレ屋なんて案出したのかな?」

「それはあり得るな」

「オタクの情熱って本当にすごいんだねー」

「ここまで来ると感動さえするな」



 何!?誰がオタクだと!?確かに私はオタクだが、それを公にしたことはないぞ!てか、コスプレ屋の案出したのが私だっていうのもいまだに認めてないんですけどね!!

 てか、せっかく萌えにひたっていたとうのに、聞き捨てならない言葉が聞こえてきたから現実世界に戻ってきちゃったじゃんか!


「奈美」

「え?」


 今言ったのはどいつだー?とじと目でクラスを見渡していたら、後ろから控えめに声をかけられる。後ろを振り返るとそこにいたのは《聖女》様だった。 

 せ、《聖女》様から声をかけられるなんて……!!って1人で脳内遊びを繰り広げようとしていたら、それをとめるかのように《聖女》・真白が苦笑を浮かべる。


「早いとこ写真とったほうがよさそうだぞ。どんどん人が集まってきてるし」


 《勇者》のその言葉にはっとして廊下のほうを見てみると、確かに通り過ぎる人が興味津々で教室を覗き込んでいく。このまま放っておけば、そのうち人々が大挙してこの教室が混乱状態に陥ってしまうだろう。そうなる前に写真撮影を終わらせて、みんなには元の姿に戻ってもらわないとね。


「んじゃ、みんなそこに並んでね。真白がセンターで右が《勇者》で左が《魔王》」

「おい、平野。落ち着け。呼び方呼び方」


 《吟遊詩人》にそんなツッコミを受けるが気にしない。今はコスしてるんだからこの呼び方でもいいじゃんねぇ?《勇者》はブツブツと文句をいいなら、《魔王》は釈然としない表情のまま指定の位置に立つ。

 ふんっ、今は私のことをそうやって変人に向けるような目つきで見てるけど、後で絶対私に感謝することになるんだからね!


「んじゃ、撮るよー」


 まずは写真部かりた本格的なカメラで、次に私のデジカメで、そしてスマホでとって、最後はすぐに写真が出てくるポラロイドカメラで撮影する。スマホやデジカメも見れるけど、どうしても画面じゃなくて写真として、みんなにすぐに見てほしかったんだよね。


「はい、撮影終了ー。お疲れ様」

「はぁ……なんか無駄に疲れた」

「一体、こんなことするのになんの意味があったんだ?」


 がっくりと肩を落として文句を垂れる《勇者》と《魔王》。2人の間にいた真白が苦笑しながらなだめる。私はそんな3人じっと見つめながら、ポラロイドカメラから写真が出てくるのをまった。



 まだ、全部を思い出せてない3人。だけど、きっとこの写真を見たら……。



 出てきたポラロイ写真を確認する。一部違うところはあるけど、私が思い描いていたような写真が撮れていた。そのことにほっとして、改めて気合いを入れながら写真をもって3人のところに歩み寄る。


「はい。これが出来上がった集合写真」


 写真を3人が見れるように差し出す。文句を言いつつも写真がどんな感じか気になるのか《勇者》も《魔王》も顔を寄せて写真を見ようとする。


「どれどれ?」

「まぁ、結構よく撮れて……」

「あれ?……でも、なんか……」


 最初はなんとなしに写真を見ていた3人の表情がだんだんと変わっていく。じっと写真を見たまま硬直したように何も言わなくなってしまった。そんな3人の様子に私は心の中でガッツボーズをとる。



 実はこの写真の構図、前世でみんなが旅立ちの前に描いてもらった肖像画と同じだったりする。



 ゲームではサブイベントだったから、実際にそんなことがあったかどうかは事前に《暗殺者》たちに確認した。そしたら、確かに彼らが《冥王》を倒しに行く前にもそんなことがあったらしい。《勇者》と《魔王》が和解したばかりの頃の思い出深いイベント。それを再現すれば、きっと《勇者》と《魔王》は仲間だったってことを思い出すだろうと踏んでいた。



「そっか……そう、だったよな」

「あんなに手間取って誤解を解いたっていうのに、生まれ変わっても誤解し合ってたなんて」



 思惑通り、《勇者》と《魔王》はすっかり2人で戦った頃のことを思い出したのか、ちょっとはにかむような笑顔を浮かべて顔を見合わせている。その様子をみて、《吟遊詩人》と《女騎士》は微笑み、《魔術師》と《暗殺者》はやっとかという感じで呆れたようにため息をついていた。うんうん、これで《勇者》と《魔王》は完全に和解だな。

 ただ、私が本当に期待してたのは2人の和解じゃない。全部思い出してなくても、前みたいにお互いを毛嫌いしてる状況は解消されたんだから、そのままにしておいても問題はなかった。

 私が2人の和解以上に期待していたものそれは……。



「真白?」



 《勇者》と《魔王》が写真から顔をあげてもなお、真白はじぃっと写真を見続けていた。目を見開いて、ピクリとも動かない。その反応に思わず期待しながら、真白の言葉を待つ。



「奈美……私……昔もこうやって、みんなで並んで写真……ううん、絵を描いてもらった気がする……」


「「「「!」」」」



 やった!真白が前世のことを思い出した!!!なんだかうれしくて、思わず胸が熱くなる。前世の真白にとっても、きっと《勇者》と《魔王》が和解した時のことは大切な思い出だったのだろう。その記憶が、《冥王》の妨害を弾き返したんだ!


 真白の反応に喜んだのは私だけではなかった。《魔術師》も思わずという感じで相好を崩し、《吟遊詩人》は安堵したように大きく息を吐く。《暗殺者》だけは憮然とした表情のままだったけど。


 ともかく、これで《冥王》の思惑を完全に阻止できる!!





 ……そう思った時だった。





「うっ……」


 真白が突然頭を押さえてしゃがみこんだ。


「真白!?どうしたの!?」


 慌てて真白の顔を覗き込むと、顔を歪めて苦しそうなうなり声を上げる。


「なんか……急に、頭が痛くなって……」

「無理はさせないほうがいいと思うよ。それで倒れられたら元も子もないでしょ」


 背後から《魔術師》が言う。急いで真白から写真を取り上げると、私はその背中をさすった。


「ひとまずあっちで休もうか」

「その間に俺たちは着替えを済ませよう」


 《勇者》と《魔王》も心配そうに真白の近くにしゃがみこんだが、私が見ているからということで、2人とも《吟遊詩人》の指示にしたがって着替えに行った。



 みんなが着替えている間も真白は苦しそうに顔歪めて、下をうつむいていた。




《勇者》たちの衣装の描写に手間取った。言葉で服を説明するのって難しいですね。

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