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2. 入学1日目②




「このクラスの担任をすることになった和澄わずみ 恭也きょうやです。担当は音楽。1年間よろしくな」



 うん、ここもゲームと一致してんな。



 教壇に立って爽やかな笑顔を浮かべている担任を見て、心の中で呟く。



 教壇に立ったこのA組の担任は《吟遊詩人》の生まれ変わりだ。



 《女騎士》同様、ゲームの中と微妙に名前が違っている。そしてさらに、見た目や雰囲気も違っていた。

 ゲームの中では物静かで影のある人だったんだけど、この人はなんか底抜けに明るくて翳りなんて全然見当たらない。いや、そりゃ、誰しも悩みの1つや2つは抱えてるだろうから、もしかしたら見た目だけすっごい明るく振る舞って、心はヤミヤミなのかもしれないけどさ。

 ちなみに《吟遊詩人》の生まれ変わりであるキャラは、《勇者》《女騎士》と同じく自動的に出会うキャラの1人で、ゲームでは3年間とも主人公の担任になるはずだ。


 ゲームと全く同じじゃないけど、ゲームと似ている展開が繰り広げられている。そう考えるとこの世界は【ゲームの世界】っていうよりも、【ゲームをベースに作られた世界】っていうのが一番しっくりくる気がする。

 でも、そうなると《冥王》の存在があやふやになってきちゃうよな。ゲームはあくまでベースだから、全ての設定がこの世界に持ち込まれていない可能性もあるし。

 さっきも思ったけど、もしかして《冥王》とかいないんじゃない?キャラはいても、ただの人間で”世界滅亡エンド”は起きないとか。


「うーん……」


 思わず声に出して唸る。遠くで《吟遊詩人》が自己紹介を兼ねた出席をとる声が聞こえた。オタクであることはひとまず隠しておく方向で行こう、と決めて一旦意識を現実に戻した。






 入学式の後のホームルームは担任との顔合わせと、明日のスケジュールの伝達、そして購買部での教科書や体操服など購入の説明などだけですぐに終わった。ひとまず、この日は私がオタクであることはばれなかったようだ。

 中3の1日目が悲惨だったので、またなんか起こるんじゃないかとドキドキしてたのだが何も起こらなかった。よかったよかった。

 ほとんど空っぽのカバンを持って、席を立とうとする。真白を誘おうと席を見たら、そこに真白はいなかった。あれ?どこいったんだろう?と思って廊下を見ると、何やら担任と話をしている。


 なんかのイベント?でも、《吟遊詩人》と廊下で話すイベントなんてなかったはず……。ゲームをベースにした世界だから、ゲームの中の以外のイベントも起こるってことなのかな?

 まぁ、考えてみればゲームの中では日常のやり取りはスキップしているわけで、こうして実際の世界で担任と生徒が話をするなんて当たり前に起こることだよな。


 そんなことを考えてたら、話を終わった真白が帰ってきた。「おまたせ」とこちらにかけてくる真白はすごくかわいい。


「何の話してたの?」

「それがね……」




「私、生徒会に入ることになったの」




「え!?」

「毎年、新入生代表をした人と、その人が推薦した2人が生徒会に入ることになってるんだって。まだ入学したばかりだから仕事はそんなにないらしいんだけど……」


 そういった真白はちょっと困り果てているようだった。どうやら先ほど《吟遊詩人》と話していたのはその話だったらしい。答辞だけならと思って新入生代表を受け入れた真白は思わぬ大きな特典に戸惑っている様子だ。



 ちなみに、もちろんゲームでは主人公が1年目から生徒会へ入るなんて設定はない。



 真白さんのハイスペックさには本当に頭があがらん。まぁ、きっと真白なら今は驚いてはいるが、いざとなったらきっちり仕事をこなすだろう。なんてたってカリスマ性が半端ない。こんな綺麗で可愛くて優しい人になら、みんなついていきたいと思うはずだ。だから、真白が生徒会に入ること自体には正直何も心配していなかった。



 けど、生徒会に入るということは《王子》との出会いイベント発生確定である。



 隠しキャラである《王子》は昨年この学園で生徒会長をしていた人物、つまり今年はもう卒業してしまっている。そんな隠れキャラである彼と出会うための条件が”生徒会に入る”ことだ。

 ゲームだと生徒会に入るのはかなり難しい。全てのパラメーターが高くないといけないし、生徒会に入るメンバーは選挙で決めるので、全キャラとの好感度も友情以上でなければいけないという高いハードルが課せられてて、おかげで私はなかなか《王子》との出会うことができなかった。



 ところが真白さん。あっという間にそのハードルを越えて1年目、というか入学1日目ににして《王子》との出会いを確定させてしまった。



 うーん、この子どんだけハイスペックなんだろう。運も味方につけてるな。というか、きっとこの世界に存在する神様みんなが彼女の味方だ。



 なんて考えてたら、真白がおずおずと下げていた視線を上げて、私を上目遣いで見てくる。


「あのね、奈美にお願いがあるんだけど……」

「ん?」


 真白がこの顔をするのは、何かお願いがあることだということを私は知っている。以前は期間限定のお菓子情報をどこで手に入れるのか教えて欲しいとねだられた。理由もかわいすぎる。そして、私は超絶にかわいいこの顔に抵抗する術を知らない。



「奈美も、一緒に生徒会に入らない?」



 ……。


 ……もう一度言おう、私は超絶にかわいいこの顔に、抗う術を知らないったら知らない。



「いいよ」

「ほんと!?ありがとう!!!」



 そして、その後浮かべる満面の笑みがこりゃまた激烈にかわいいことも知っている私が、真白のお願いを断れるわけがないのだ。

 私、真白にチョロ過ぎるな。でもこれはきっと人類共通の特徴だと私は信じて疑わない。


 しかし、真白が推薦した人を生徒会に入れるとは言ってたけど……他の人に反対されたりしないかな?何せ私のスペックといったら平々凡々、”平”の”並”だから。「悪いけどこいつじゃ使えない」とか言われたら……さすがの私も泣いちゃうな。



 安請け合いをしたはいいものの、その後の周りからの扱いが心配すぎて、ビビリな私の胃はキリキリと痛んだ。



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