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37. 文化祭1日目




 文化祭1日目、出足からうちのクラスの客入りはなかなかだった。ま、うちのクラスは真白がいるってだけでかなりの宣伝効果あるから、特別なことしなくてもお客さんが来るのはわかってけど。

 午前中の待機当番になっていた私は、主に写真の現像の補佐をやっていた。現像事態は写真部の皆様に協力してもらってるんだけどね、フィルムを運んだり写真を運んだり、足りなくなった資材を補給したりとパタパタしていた。ちなみに、後ろには常にさっちゃんが引っ付いていて、色々と手伝ってくれている。本当は自分のクラス手伝ってほしいところなんだけどねー……今更だし、もうここはしょうがないと割り切るしかない。


「奈美、私も写真の現像とか手伝うよ」

「だーめ。何回も言ってるでしょ。こっちはさっちゃんも手伝ってくれてるし、大丈夫だよ」


 教室でただ立っているのは申し訳ないと、真白は何回も私を手伝おうとしてくれるけど、それは断固として拒否している。気持ちはすごく嬉しいんだけど、真白はうちの看板娘ですからね。常に教室にいて待ってるお客さんたちの目を楽しませるのが最大のお仕事なのです。

 ちなみに、今日真白が来ているのは見事に多数決でトップに躍り出た、セーラー服姿である。中学の時はセーラー服だったから、私は見慣れてるし、なんて思ってたんだけど、久々にみた真白のセーラー服姿は中学の時とは違った印象ですごくときめいた。中学生が着るのと高校生が着るのとでは訳が違うんだな、っていうのを思い知った瞬間だったよ。


「繁盛してるみたいだねー、よかったよかった」

「あ、絹島さん。お疲れ」


 少し暇になったから、お客さんの誘導をしている真白を眺めていたら、後ろから声をかけられた。振り返ってみると、今回の出し物の功労者である絹島さんがそこに立っていた。


「お疲れー。こんだけ繁盛してくれてるなら協力した甲斐があったってもんだねー」


 教室の中を見渡しながら満足げに頷く絹島さん。ご満足いただけているようで、ほっとする。快く引き受けてくれたとはいえ、かなりの無茶振りしたのは間違いないしね。


「ホント協力してくれありがとう。次期ファッション部部長の絹島さんの協力あってこそ、うちの出し物はなりたってるよ」

「うちとしても服展示する場所が増えるのはありがたいことだからね。お互い様よ。……それにしても」

「ん?」


 さっきまで上機嫌だった絹島さんの顔が曇る。つま先から頭の先までじっとりと観察されたかと思うと、つまらなさそうにため息をつく絹島さん。なんかすごくご不満な様子だけど……どうしたんだ?


「なんで平野さんは普通の格好なの?」

「え?」

「ほら、ほかのクラスの人たちはサンプル代わりにみんなコスプレしてるじゃない。なのに、平野さんだけフツーの制服」

「あー、そういうことね。私は現像室と教室行ったり来たりしないといけないし、こっちのほうが動きやすいから」


 絹島さんの顔が曇った理由がわかった。確かに、この教室の中でコスプレしてないのは私とさっちゃんくらいだ。クラスの何人かからもすすめられたけど、その申し出は丁重にお断りさせてもらった。

 絹島さんに伝えた理由もあるんだけど、自分がコスプレしてもそんなに萌えは生まれないっていうのを去年散々味わったからねー。自分がするのはもういいかなぁっていうのが正直なところだ。それよりも、私は他の人たちがコスプレしてるのを見て楽しみたい派だ。現に、こうして教室を眺めることで非常に楽しませてもらっている。


「それこそ、宣伝がてら着とけばいいじゃない。てか、来てもらわないと困るんだど」

「え?困るって?」

「平野さんが着るだろうと思ってわざわざ猛獣使いコス、用意したんだから」


 なんですと!?そんな話全然聞いてないし……てか、なんで着るだろうって勝手に決めつけられてるんだ!

 茫然としている私を放って、絹島さんはコスチュームがかけてある場所へと移動して何かを探し始める。お目当てのものはすぐに見つかったのか、一着の衣装を持つと、またこちらへ戻ってきた。満面の笑顔で。


「あったあった。これよ」


 ……いやいや、それを私が着るって、無茶でしょうよ。心の中でそっこーツッコミを入れる。私でなくとも、みんながそろってそういう反応をすると思うよ。

 だって、絹島さんが持ってきたのは、サーカスなんかで出てきそうな猛獣使いが着るやつだった。背中をひもで縛るタイプのビスチェで、背中も肩も丸見えだし、身体のラインははっきり出るし、おまけにレースを何枚も重ねたスカートはぎりぎりお尻を隠すような長さ。セットでついてるのはニーハイブーツと、セクシーを突き詰めた衣装だ。


「リアルメイド猛獣使いって呼ばれてる平野さんにはちょっと露出度高すぎかもしれないけど、去年はメイドだったわけだし、今年は猛獣使いよりってことで」


 いやいや、絶対これただ面白いからって私に着せようとしてるよね?これを着て、見事にちゅんちゅくりんで似合ってない私をみんなで笑おうって魂胆ですよね!!?身を挺してまで笑いを取りに行こうなんて、私はこれっぽっちも思っていませんよ!?


「ってことなんだけど……ちょっと飼い主さん借りて行ってもいいですか?」


 私の反応は丸無視した絹島さんは、私の隣にいた《暗殺者》に問いかける。実はずっと私の隣にいたんですよ、この人。



「俺は奈美のペットじゃねぇよ」



 《暗殺者》が鋭い目つきを向けた途端、絹島さんはびくりと肩を震わせる。いつもの《暗殺者》と比べたら、ただ見下ろしただけって感じなんだけど、もともと目つき悪いからねー、これだけでも睨まれたみたいに見えるわな。


「これっ、いきなり人を睨まない!」

「……」


 諌めるように言うと、面倒くさそうな顔をしてぷいっと顔を逸らした。全く、本当に他人に対する態度がふてぶてしすぎる。今は学生だからいいけどさ、このまま大人になっちゃったらどうなるのかと、なんか余計な心配まで最近しちゃうよ。

 《暗殺者》とのそんなやり取りが終わると、絹島さんはまだ少し怯えたよ顔をしながら耳打ちしてくる。


「えっと……そういう感じなの?」

「まあ、どっちかというと私のほうが脅されて言うこと聞かされてるっていうか……」

「猛獣使いに見せかけて主従関係逆なんて、おいしいわね」


 うん、今さっき睨まれて怯えてたのに、萌えポイントにはちゃんと反応するんだね。やっぱこの人とは何か通じるものを感じるよ。

 脅される立場としては、全然おいしいなんて思えないけどね。傍からみたら、楽しくて仕方ないだろうね。私も傍観する側でいたかったよ、ほんと。



「あと、悪いけど、奈美にそれは着せられないな」

「え……?あの、どうして?」



 後退りながら尋ねる絹島さん。そりゃ、《暗殺者》に歩み寄られたら怖いよね、気持ちはよくわかるよ。このままだとかわいそうだと思って間に入ろうと思ったら、その前に《暗殺者》が素早い勢いで絹島さんが持ってた衣装を取り上げた。かと思う、その衣装をじーっとみて、眉間のしわを深くする。なんで不機嫌そうにしてんだろうなー?と思ってたら、《暗殺者》はまた絹島さんに視線を戻した。 




「奈美のそんな格好見ていいのは、俺だけだから」



 あ、さっちゃん、持ってた衣装をポイっと放り投げおった。そんなことしたらファッション部の次期部長である絹島さんにどつかれるぞ。ファッション部の衣装に対する愛情をなめちゃいかんのだぞ。


「…………」


 あれ?てっきり激怒すると思ってたのに、なんか絹島さん固まっちゃった。今のさっちゃんはそんなに怖い目してなかったと思うんだけど。や、てか絹島さんも怯えてるって感じじゃなくて、なんかさっちゃんを見ながら目をキラキラ輝かせてるんだけど……何が起こった?


「絹島さん?……どうしたの?」


 あまりに心配だったので、思わず声をかけると絹島さんからがっちり肩を掴まれた。


「平野さん!なんで言ってくれなかったの!?」

「へ?」

「もー、そういうことなら、もっとそれに合わせた衣装つくったのにー」


 ……なんかよくわからないけど、絹島さんは何やら思い違いをしていたらしい。それが今判明して後悔してる……って感じだろうか?正直、私にも彼女が何を言いたいのかさっぱりわからないので、推測でしかないけど。


「こうしちゃいられないわ!今浮かび上がってきたアイディアを急いで形にしとかなきゃ!ってことで、私は部室に戻るわ!じゃね!!」


 愚痴を言ったかと思うと、ぐっと拳を握って瞳をキラリと輝かせた絹島さんは、颯爽とA組の教室を去っていった。こういう時のことを、嵐が去った、っていうんだろうな。そうに違いない。


「あれ、奈美と同じ属性?」


 絹島さんが去って行ったほうを見ながら、《暗殺者》が尋ねてくる。その問いに、思わず薄笑いを浮かべてしまった。


「そう認めざるを得ないかな」

「奈美みたいな面白い奴そうそういないと思ってたけど、似たようなのはいるんだな」

「だから、人を珍獣みたいに言うのはいい加減やめてくれない?」

「ほんとのことだろ?」

 

 ほんとのことって、どういうことだよ!すごく楽しそうに笑いやがって。心の底から楽しんでるのが伝わってくるから、余計に癪な気分になるわ!


 …………ん?てか、さっちゃん、絹島さんに興味もった?まぁ、確かにキャラ被ってるとこあるし、方向性は違うけど、妄想壁で言動が意味不明ところや、萌えポイントに敏感なところなど、共通点は多い。

 さっちゃんが退屈さからちょっと変わった私に興味をひかれているとしたら、似たような特徴を持つ絹島さんに対しても同じような思いを抱くかもしれない。《冥王》のことが落ち着いたら、絹島さん紹介してあげたら、さっちゃんの興味ももしやそっちに傾いて、私から離れくれたりして……。



 なぁんて考えてたら、隣からどす黒い殺気を感じた。



 ひえぇ!と心の中で叫びながら殺気を感じるほうを見ると、そこにはいつものにっこり笑顔、ただし後ろに黒い空気をいっぱい背負った《暗殺者》の顔あった。



「俺が興味あるのは奈美だけだからな」



 うげっ、心読まれてたんか!え、笑顔なのに……すごい不機嫌なのがわかるのはなんでだろう……?や、てか、笑顔で闇背負うとか、新たな技をどこで身に着けてきたんだ!?


「ご、ごめんって!勝手に余計なこと考えないから、そんな怒らないでよ!!」

「……」


 必死に謝ったら、なぜかがっくりと肩を落とす《暗殺者》。奈美は全然わかってないとか、1人でグチグチ言いだしたし……。

 闇が吹き飛んでくれたのはいいんだけどさ……、なんでそんなあきれ返った顔して見られないんだよ。私、呆れられるようなことなんもしてないんですけど。最近こんなことが多い気がするんだけど、一体なんなんだろうねー?



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