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34. 文化祭準備②




 放課後。文化祭に向けての最初の生徒会。この日は生徒会メンバーの役割分担をした。そのあと、係りごとに分かれて簡単なミーティングをする。

 若干予想はしていたが、今回も物資調達班の班長になったのは、あののほほんな先輩だった。そして、私は生徒会長直々に物資調達班のメンバーに強制任命された。私に逃げ場は残されていない。今回も例のごとく、社畜のように働けということですね。了解です。

 物資調達班が本格的に忙しくなるのはクラスごとの出し物が決まってからだから、なるべく早く決まってくれるように祈りましょう、という班長の締まらない締めをもって、今回の生徒会はお開きとなった。 



「奈美」



 げんなりとした気持ちで生徒会室を出ると、廊下で待っていた《暗殺者》が声をかけてきた。大体の終わる時間は伝えてあったけど、まさか生徒会室の前で待ってるなんて。律儀というか……意外と心配性なんだよね、さっちゃんて。


「ごめん。待たせて」

「いいよ、謝らなくて。俺が好きで待ってるんだし」


 近寄りながら謝ると、笑顔とともにそんな返事がくる。昼休みの時はかなり不機嫌そうな顔をしてたけど、今浮かんでる笑顔はいつものうさん臭いやつだ。多少は機嫌が直ったのかもしれない。

 せっかく機嫌が直ったところなのに、文化祭準備期間の間は真白と帰る、とか言ったら、またアサシンモードONになっちゃうんだろうなぁ。待たせるの悪いなっていう、私なりの気遣いなんだけど、そんな言い分がこの《暗殺者》に通用するとは思えない。これから生徒会の時間もどんどん長くなってくるから待たせるのは本当に申し訳ないんだけど、さすがにアサシンモードONで睨まれるのは怖いから、言うのやめとこう。


「なんだよ、その顔」

「いや、うーん……。待たせて悪いなぁと思って……」

「別に、奈美を待ってるの嫌じゃない。待ってる間課題とかしてるし、ちょうどいい」


 おぉ……、《暗殺者》から”課題して待ってる”なんて言葉が出るなんて。出会ったころのジャラジャラさっちゃんと比べたら、すごい会心のしようだな。思わず目を見開くくらい、びっくりしちゃったよ。


「さっちゃん、真面目になったね」

「……全部、奈美のせいなんだけど」

「え?」


 《暗殺者》の声が急に小さくなったせいで、うまく聞き取れなかった。首を傾げて顔を見上げると、なぜかまた昼みたいな機嫌の悪そうな表情で見下ろされる。……なんで?


「なんでもない」


 ふいっと顔を逸らしながら、さっさと歩き出す《暗殺者》。

 えっとー……私、また何か地雷踏みました?出会ったころと比べたら大分変ったとはいえ、謎が多いところは相変わらずだ。特に地雷ポイント。私の命にもかかわってくることだから、そろそろ把握しておきたいんだけどなー……。

 や、てか、さっきの聞き取れなかったのは、さっちゃんが急に声小さくするからで、私のせいじゃないし。もし私がちゃんと聞けてなかったのを怒ってるんだとしたら、それはお門違いってもんだよ。


「あのさ」

「ん?」


 心の中で《暗殺者》に対する文句をつづっていたら、歩き出したと思った《暗殺者》が振り返る。思考を止めて顔を上げたら、そこには普段はあんまり見せない、真面目な顔のさっちゃんがいた。何事だ?と思って、無意識に構える。


 

「修学旅行の時のこと、ごめん」



 ……えっとー、修学旅行の時のこと、といいますと?勝手についてきたー……ことじゃないよね。そんなの全然悪いとも思ってないような感じで現れたし。最初流鏑馬嫌がったことでも、忍者コスも追加でお願いしたのを断ったことでもないだろうし……。

 ……この場合、十中八九、最後の夜の出来事だよね。ま、最初から何となくはわかってたけど。


「あぁ……あれね」


 わざとらしく、今わかった的な感じで返す。だって、そうでもしないと、まるで私があの時のことをすごく気にしてるみたいじゃないか。私はもう、全くもってあの時のことなんか気にしていないんだ。だって、邪念はきれいさっぱり払われたんだから。

 だから、こっちは余裕をもって、謝ってきた《暗殺者》に対応するべきだ。



「いいよ、あの時はなんかこっちも悪かったから」



「は……悪かった?」


 驚いたような顔で尋ね返してくる《暗殺者》に、なるべく気の抜けた笑顔を返す。


「ちょっとのぼせてたのか知んなけどさ、なんか体に力がうまく入らなかったんだよね。うまく暴れらんなくてごめん」

「……あいつが言ってたこと、聞かないのか?」

「ん?……あー、《吟遊詩人》が言ってたさっちゃんの過去の恋愛遍歴のこと?まぁ、それは予想通りっていうか、知ってたし」

「………………」

「いやー、それにしても、あの時は《吟遊詩人》が来てくれて助かったよね」

「……」

「悪ふざけするな、って言ったって聞かないんだろうからもう言わないけどさ、あぁいうガチっぽいのはもうやめてね」

「……俺、ガチだったんだけど」

「あぁ、うん。わかったわかった。あ、今から走ればバス間に合うよ」


 返事をしながら時計を見たら、そろそろバスが来る時間だったことに気付く。この時間帯になると、バスの本数が極端に少なるから、次のを逃すと30分は待たないといけないんだよね。ここまで待ってるだけでも退屈だったろうし、急いでそのバスに乗ったほうが《暗殺者》にとってもいいだろう、と思いながら顔を上げる。



 そこには、朝よりも、お昼よりも、さっきよりも、さっちゃんは機嫌の悪そうな顔を浮かべていた。



 機嫌悪いっていうか……あれは、なんか、悔しそうな感じ?アサシンモードと違ってどす黒い殺気はないんだけど、なんか……歯までくいしばっちゃって、さっちゃんらしくない顔だ。


「さっちゃん?」


 いつもと違う様子が心配で、思わず声をかけたら、《暗殺者》は拳を握りながら下をうつむく。


「……ぁいつのせいで……」

「え?」

「ふりだしに戻っちまったじゃねぇか……」


 下をうつむいたままブツブツつぶやきだした《暗殺者》は一向に顔を上げようとしない。


「おーい?」

「……」


 声をかけながら、《暗殺者》の顔の前で手をひらひらと振ってみるけど、それすら視界に入っていないみたいだ。

 うーん……これ、登山の時みたいによくわかんない状態になっちゃってるな。あの時も、独り言を始めて、こっちが声かけても全然反応してくれなかったし。別に私は急いで帰る用事とかないからいいんだけど……このまま放っておくわけにもいかないし、どうすればいいんだ?

 困り果てながら《暗殺者》の前に立ち尽くす。



 と、突然顔を上げた《暗殺者》は、くるりと踵を返して、私に背を向けて歩き出し。



「え?ちょっと!?」


 慌てて声をかけながら追いかけて顔を覗き込む。



 げっ……アサシンモードONになってる……!



 うつむいている間に《暗殺者》が何を考えていたのかは、さっぱり見当がつかない。ただ、さっきのさっちゃんらしくなかった表情はきれいさっぱり消え去って、そこには進行方向を鋭く睨みつける《暗殺者》の凶悪な表情が浮かんでいた。その目は、まるで獲物を狙ってる猛獣さながらで、視線が合っていないのに、私の背筋にも悪寒が走る。


「ど、どこに行くの……?」


 恐る恐る尋ねると、《暗殺者》は廊下を進む足を止めずに、鋭く答える。


「《吟遊詩人》のとこ」

「え?なんで?」


 どうして《吟遊詩人》の名前出てきた?と首を傾げていたのもつかの間、さらに目つきを鋭くした《暗殺者》が凍り付きそうな声色でつぶやくように言う。



「やっぱ、あいつの息の根は止めておくべきだ」



 うえぇぇぇ!!?なんでそんな物騒なこと言ってんのーーー!?っていうか、今まで見たことないほどの恐ろしさでアサシンモード発動中なんですけど!?《吟遊詩人》、一体さっちゃんに何したんだ!!!?




 

 この後、職員室に突入していこうとする《暗殺者》を決死の覚悟で止める羽目になった。



 さっちゃんがなんであんなに怒ってたのかは最後までわからなかったけど……。



 ともかく、明日朝一で《吟遊詩人》に命を狙われていることを忠告しに行ったほうがよさそうだ。




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