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33. 文化祭準備①





修学旅行後の登校日、1日目。




「奈美」

「あ、おはよう」


 珍しく私より遅く来たさっちゃんに挨拶をする。修学旅行最終日はほとんど集団行動だったから、帰りのバスに乗り込むまで《暗殺者》と話す機会はほとんどなかったから、面と向かて顔を合わせるのは修学旅行の最後の夜の日以来だ。朝日を背に、相変わらずのにっこり笑顔。



 目の前に迫ってきたその笑顔を見て、思わず一歩後ろに引いてしまった。



「……なんで、一歩下がるんだ?」

「え?……何となく?」

「……」


 さっきまでの笑顔を引っ込めて、不機嫌そうに顔を歪める《暗殺者》。無駄に距離が近い気がして、という本当の理由は黙っておいて、笑い返しながら適当に誤魔化す。《暗殺者》がその返事に納得するはずもなく、鋭い目つきでこっちを睨みつけてくる。

 うん、でも、さっきの笑顔に比べたら、睨まれてるほうがまだいい。こんな風に見られてる分には、邪念にとらわれたりしないから。


「ほら、怖い顔してないで早く行こう。バス出ちゃうよ」

「……」


 不機嫌そうなまま何も言わない《暗殺者》を放って、さっさとバス停に向かって歩き出す。いつもなら、ちゃんと答えるまで問い詰めてきそうなところだけど、《暗殺者》はひたすら不機嫌そうな顔を浮かべるばかりで、特に何も言ってこなかった。

 ちょっといつもと様子が違うかなと思ったけど、そっちのほうが私にとっても都合がいいので、あえてツッコんだりはしない。座禅のおかげで邪念はきれいさっぱり振り落されてるんだけどね、あの時のことを蒸し返さないに越したことはないでしょう。

 ほとんど会話をしないまま、バスに乗り込んで、学校へと向かった。




 ■ □ ■




 その日の昼休み。今日もA組に集まって真白、《女騎士》、《暗殺者》とお昼ご飯を食べる。修学旅行のことを振り返ったり、今日の放課後から本格的に始まる文化祭の準備のことを話したり。いつものようにお昼の時間が過ぎ去っていると思っていたところに、真白がちょっと心配そうな顔を向けてきた。



「奈美、小夜時雨君と喧嘩でもしたの?」



 真白の言葉に思わずはしを止める。邪念は振り払ったつもりなんですけどね、不意にツッコまれるとやっぱり不自然な反応をしちゃうわけでして……。てか、なんで真白そんなこと聞いたんだろう?お弁当食べてる間は大体真白と《女騎士》としゃべってるのが普通で、《暗殺者》の口数が少ないのはいつものことなのに。なんか、変なところあったかな?


「特にしてないけど、どうして?」 

「その、ちょっと2人の距離が開いたというか」

「なんだか、今までのいい雰囲気が消えてしまっているから……」


 真白に続いて、《女騎士》も私と《暗殺者》の顔を交互に見比べる。

 ……なんか、聞き捨てならんこと言われてる気がする。いい雰囲気?ナンデスカそれ?


「いい雰囲気なんて、そんなのもともとありません。さっちゃんは自主的に私を守ってくれてて、私はそれに甘えて守ってもらってる身であって、それ以上でもそれ以下でもないよ」

「……」


 きっぱりと答えると、視界の端に見えていた《暗殺者》の顔がさらに歪んだように見えた。幻だということで、気にしないことにして、はしを動かすのを再開した。

 そんな私の様子に真白と《女騎士》は釈然としないような表情で顔を見合わせる。


「最初はうっとおしそうにしてたけど、最近はすごく楽しそうにしてたじゃないか」

「どうして急にそんな言い方するの?」

「今までのは……ちょっとした気の緩みというか、邪念にとらわれていたというか」

「「邪念?」」

「あ、でも修学旅行の座禅でばっちり払い落としてきたから、大丈夫!家でも定期的に瞑想することにしたし、もう邪念なんかには惑わされないよ」

「……」


 大船に乗ったつもりで安心してくれたえ!という気合いを込めて、立ち上がりながら拳を胸にドンッと打ち付ける。そんな私をさらに不機嫌そうな顔で《暗殺者》が見ているような気がするけど、これも気付かなかったことにする。

 立ち上がった私を、真白と《女騎士》は唖然とした顔で見上げていた。かと思うと、全く同じタイミングでため息をついて、がっくりと肩を落とす。

 ……あれ?その反応……私、すごく呆れられてる?


「傾いていた想いを、邪念として片付けてしまうとは……」


 額に手を当てながら首を横に振る《女騎士》。何を言ってたのかうまく聞き取れなかったんだけど、すごく残念そうな声を出してるのはきっと聞き間違いじゃないだろう。だけど、なんでそんな風に残念そうにされるのかは、さっぱりわからなかった。私、何かやらかしました?


「奈美らしいというか……ごめんね、小夜時雨君」

「なんで真白がさっちゃんに謝るの???」


 訳が分からずに尋ねると、真白は諦めきったような苦笑を返してくる。


「なんか、つい」

「真白君のその気持ちはよくわかるな」


 《女騎士》は深々と頷きながらそんなこと言う。いや、だから、なんなんだ?一体、真白と《女騎士》はなんでこんな反応を見せているんだ?訳が分からん。私、さっちゃんになんかした?どっちかというと、されたほうだと思うんだけど。頼むから私にわかるように説明してくれ。

 説明を求めようとした矢先、私より先に口を開いた《女騎士》が、隣にいた《暗殺者》の肩をポンッとたたく。


「負けるよなよ、小夜時雨君。こういう稀有なくらい恍けたところも平野君のおもしろいところなんだから」

「大きな心で受け入れて上げてね」


 ……すごく失礼なことを言われているのだけは理解できるけど、なんかそこにツッコませてはもらえない雰囲気が漂っている。え?なんか私が悪い感じになってます?なんでなんで??


「んなの、あんたらに言われなくてもわかってる」


 ぶすっとしたまま、《暗殺者》は真白と《女騎士》の激励に、素っ気ない返事をする。いったい何のことを話してるのかは全然わからないんだけどさ、せっかく励ましてもらってるんだから、もうちょっとそれ相応の態度をとるべきだと思うぞ、《暗殺者》。 

 


 結局、この後私がいろいろ聞いても、真白も《女騎士》も笑って誤魔化すばかりで何も教えてくれなかった。2人の私に向けてくる笑顔が、すごく残念なものに向けられるに見えたのは気のせい、だよね?




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