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27. 修学旅行③




 《勇者》・《魔王》パーティ(《吟遊詩人》除く)との修学旅行はかなり慌ただしいものとなった。


 2日目は《女騎士》の希望で流鏑馬の見学に行ったんだけど、なんと《女騎士》は流鏑馬をやりたいと言い出してしまったのだ。それに乗っかった《勇者》と、半ば強引に引き込まれた《魔王》が流鏑馬対決をはじめ、なぜか最初は気乗りじゃなかった《暗殺者》も加わり、プロを驚かせる馬上からの弓裁きを見せ、パフォーマーとして働かないかとスカウトまでされるという出来事が起こった。

 そのあとは、この国で一番段数が多い石段を登りに行ったんだけど、これまた《勇者》と《魔王》と《女騎士》が勝負をはじめちゃって、あっとう間に姿が見えなくなるスピードで上り始めた。真白と《魔術師》と《暗殺者》とでゆっくり上っていたら、途中で《女騎士》が引き返してきて、《魔術師》を抱えあげてすごいスピードでまた階段を上り始めた。それを見た《暗殺者》が真似して私を抱えて上りだして、真白は自力で上るという意味わからん展開になった。頂上でほぼ同着でいい勝負をしてすっきりしていた《勇者》と《魔王》に真白を放っておくなんて、と説教をかます羽目になったのは言うまでもない。


 そして本日、3日目。午前中は古都の街並みを再現した区画に行った。その辺はよく時代劇の映画やドラマなんかが撮影される場所で、観光客が当時の服装に着替えて区画の中を散策できる仕組みになっている。

 《勇者》たちは乗り気じゃなかったけど、せっかくだしと押し切って、有名な警備隊のコスチュームを男性陣と《女騎士》におそろいで着せた。めちゃくちゃ似合ってておまけにかっこいいからと、あたりにいた歴女たちに取り囲まれる羽目になった。真白は遊郭一の売れっ子遊女の格好をして観光客とスタッフ一同をメロメロにしていた。

 おまけに、悪乗りした忍者役のスタッフたちが《勇者》一向に襲い掛かり、勝てたら真白と写真を撮らせろという謎の戦いが始まった。言わずもがな、《勇者》一行の圧勝で、真白と私たちで写真を撮ってその場を後にする。

 え?私はどんな格好してたかって?私は昔の時代にトリップしちゃった高校生設定で、そのままの格好でうろうろしておりました。《暗殺者》にすごく不満そうな目で見られたことは気づかなかったことにしておく。



 んでもって、午後はいろんなお寺を練り歩いて、美味しい甘味を食べて、なんてしてたら日の暮れる時間になっていた。そろそろ集合場所である宿屋へ向かわないといけない時間だ。



「最後は、ここに行こう」


 《女騎士》が異様に気合いの入った声で地図を指した。真白と2人で地図を覗き込む。


「えっとー……この神社は、恋愛成就の?」

「修学旅行といえば、定番じゃないか?」


 そう言って楽しそうに笑う《女騎士》の、いつも浮かべてる爽やかで凛々しいものじゃなくて、ちょっと照れたような乙女の笑顔。この中で一番乙女なのはもしかしたら《女騎士》なのかもしれない。もちろん乙女回路が錆びついている私なんて比較対象にすらならないけどさ、真白も恋愛に関してはとんと疎いからなー。


「3人で行ってきなよ。僕たちはその辺の喫茶店で休んでるから」


 女子3人で盛り上がっていたところを、ちょっと呆れたように《魔術師》が声をかけてくる。まぁ、やつは恋愛なんて全くもって興味なさそうだしな。《勇者》も《魔王》も《魔術師》の意見に賛成なのか、さっさと喫茶店に移動を始めている。


「わかった。おみくじを引いたら戻ってくるよ」

「俺は、奈美と……」

「たまには女子だけにしてやれ」

「……わかったよ」


 こっちについて来ようとした《暗殺者》は《魔王》に首根っこをつかまれて、喫茶店へと連行された。ちょっとふてくされた顔をしてこっちを見ていた。

 恋愛成就の神社なんて、これっぽっちも興味がないだろうに引っ付いて来ようとするなんて……もしかして《暗殺者》は女子といるほうが楽しいのか?真白と《女騎士》にはいつもあんな不愛想なくせに、相変わらずよくわからんやっちゃ。

 

「じゃあ、さっそく向かおうか」

「うん」


 《女騎士》の音頭で、私たちは恋愛成就の神社へと向かって歩き出した。




 ■ □ ■




 恋愛成就の神社は予想通り、女の子たちでごった返していた。他の学校の修学旅行生もたくさんいるし、普段着を来たちょっと年上のお姉さんたちもたくさんいた。中にはちょっと気まずそうにしながらも勇気をもっておみくじを引こうとしている男子たちの姿も見える。うんうん、みんな青春してて何よりだ。

 人ごみを抜けて、私たちもおみくじが売っている場所を目指す。このおみくじは非常にシンプルで、箱に入っている中から好きなのを1つ選ぶという方法だった。箱に入ってる棒をガチャガチャ振るやつとか引きたかったんだけど、まぁ、それはまたほかの神社で機会があったらでいいか。

 お金を払って、それぞれおみくじを選ぶ。人の少ない神社の隅に固まって、さっそくそれぞれのおみくじを開いてみることにした。まずは、《女騎士》。


「大吉だ。”諦めなければ、必ず叶う。精進を怠るな”か」

「よかったね、翔子」

「あぁ」


 おみくじの内容を読み上げた《女騎士》はほっと息をつくように笑顔を浮かべた。その表はいつもの凛々しさのかけらの見当たらないほど乙女全開だ。まぁ、そうなっちゃうのもわかる気はする。

 前世から思い続けて、その執念で幼馴染の地位を獲得した、というのは《暗殺者》の言葉だけど、多分、そういうことなんだよね。半端ない念の持ち主だわ、《女騎士》。


「奈美は?」

「えっとー……」


 真白に促されて、次は私がおみくじを開くことになった。破けないように丁寧に開いて、その内容に目を通す。



 …………通したんですけれども。



「奈美?」

「どうしたんだい、平野君。固まってしまって、ひどい結果だったのかい?」

「いや……大吉、だったんだけど……」

「ん?」


 不思議そうに私の顔を見た真白と《女騎士》は同時に私のおみくじを覗き込む。大吉と書かれたその下に書いてある、文字を2人の目が追う。そこに書いてあったのは……。



”その縁は切れません。流れに身を任せればオールOK!”



「「「……」」」


 真白も《女騎士》も思わず沈黙。そうなるよね。そういう反応なるよね、これ。色々突っ込みどころ満載なんですけど、なんなんですかこれ?



「や、てか、軽っ!さっきのやつと、テンション違い過ぎない!?」



 驚きから解放されて我に返った私は、ひとまず《女騎士》が引いたおみくじとのノリの違いに突っ込んでおくことにした。《女騎士》が引いたおみくじには、すごい神様からの厳格なお言葉ーって感じの調子で書いてあったのに、私のこれ、超軽い感じなんですけど。思わず脳裏に、ぐっと親指を立ててウインクしているお茶目な神様の顔が浮かんじゃったじゃんか。


「しかし、これは確実に……」

「小夜時雨君のことだよね?」


 しみじみといいながら真白と《女騎士》が顔を見合わせる。そして2人ともニコニコしながらこっちを見てきた。

 何!?そのやっぱりね、みたいな、よかったね、みたいな感じの笑顔!!?ちっとも全然よくないんだけど!そういう私もついつい反射的に《暗殺者》の顔を思い浮かべちゃったわけでけどさ、決めつけるのはよくないと思うんですよ!


「なんで2人ともさっちゃんだって決めつけるの!さっちゃんとの縁が切れないとかそんな……っ!」



 ……てか、ちょっと待って。



 よくよく考えてみれば……”切れない縁”ってフレーズどこかで見た気がするんだけど……。はっ、そうだ……今年の元旦に引いたおみくじにも確か、そんなことが書いてあったような……。

 え?あれ?もしかして、私2人の神様からお墨付きもらっちゃったの?つまり……もし、この”縁”っていうのが本当に《暗殺者》との縁だとしたら……私、一生奴におもちゃ扱いされ続けるってことですか……!?



 勘弁してよーーーー!!!



「奈美、どうしたの?」

「……そんな、馬鹿な」


 あまりの衝撃の事実に昇天しそうになる。真白が声をかけてくるけど、魂の抜けかけた私にはその声は届かなかった。


「また固まってしまったな……。しばらくそっとしておくのがよさそうだ」

「そうだね」

「ところで、真白君のにはなんて書いてあったんだい?」

「ちょっとまってね」


 昇天している私をひとまず放置して、《女騎士》は真白におみくじを開くように促した。ドキドキしながらおみくじを開く真白の表情がなんとも言えないほどいじらしくてかわいくて、昇天しかけていた私も現実世界に戻ってくる。

 てか、真白の恋の行方なんて、気になるに決まってる。世界滅亡がかかってるっていうのもあるけど、それ以上にこんなかわいくて優しくてパーフェクトな真白がどんな恋をするか、気にならないわけないでしょ!

 ごくりと息をのみながら、同じくわくわくした顔の《女騎士》と真白の言葉を待つ。おみくじを開いた真白は一瞬驚いたような顔をして、そしてはにかむように笑いながら、おみくじを読んだ。




「”運命の出会いが訪れる”……だって」


 ……え?




 さぁっと一気に体温が下がる。先ほどまで浮かれていた気持ちがあっという間に消えていった。そんな私と打って変わって、《女騎士》は楽しげに真白の顔を覗き込む。


「ほう、とうとう真白君を射止める輩が現れるというわけか。興味深いな」

「もう、翔子ったら。大げさなんだから」


 照れたように真白が言いながら《女騎士》の肩をポンとたたいた。そんなかわいい真白のしぐさも、今の私にはうまく認識できなかった。


「平野君だって気になるだろう?みんなのあこがれの的である、真白君が恋をする相手」

「……うん、そうだね」

「奈美までそんな真剣な顔して……なんか恥ずかしいじゃない」


 《女騎士》の問いに、上の空で答えた私の顔が真面目な顔に見えたみたいだ。変に心配させなくてよかったと思うけれど、それでもとっさに表情を作れないほど、私は動揺していた。



 ”運命の出会い”。



 もし、その言葉が【今キミ】に置ける攻略対象との出会いを指しているとしたら……これから出会う攻略対象、つまりまだ出会っていない攻略対象は、たった、1人だけだ。



 真白が《冥王》と出会う。


 つまりそれは、《冥王》が保健医として、この世界に降臨するということを意味する。



 そこまで考えて、私はあわてて首を振った。

 そんなはずない。《冥王》が降臨しないようにって、こっちは《魔術師》たちと一緒に真白の身の回りには注意を払ってるんだ。最近の《冥王》の狙いは私で、直接真白に危害が及ぶようなことは起こっていない。このまま《冥王》がアホみたいに私を狙い続けてくれれば、あっという間に1年と半年なんて経ってしまう。

 そう、学園生活の半分は終わったんだ。このまま何も起こらずに、あと半分も終わるんだ。絶対に、そうだ。



「そろそろ、男子たちのところに戻ろうか」

「そうだね。行くよ、奈美」

「うん……」



 ぼうっとしていた私の手を真白が引いてくれる。楽しげに笑う真白と《女騎士》を見ながら、私は嫌な予感を振り払うように、真白の手をぎゅっと握り返した。




 たかが、おみくじだ。当たるわけない。そう思い込むことにした。



 ……自分のことも、含めてね!




ちょっと長めでした。

流鏑馬とか石段とかコスプレの話とか、ちゃんと書きたかったんですけど、書いてたら飛んでもない量になりそうだったので、ハイライトにとどめました。完結した後、おまけとかで書けたらいいなと思っています。

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