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26. 修学旅行②




「な、なんでここに……?」

「奈美が心配だから、ついてきた」



 唖然としながら尋ねると、《暗殺者》は相変わらずの笑顔を浮かべて何でもないように言う。


「は?だって、そんなこと一言も……」

「言ったら反対するだろう?行くなって言っても皆勤賞云々で俺の話なんて全然聞かないんだろうし、だったら黙ってついてくるのが一番だと思って」


 なんじゃそりゃ……。別れ際、えらくあっさりしてたなぁとか思ってたら、鼻っからついてくるつもりだったっていうのか……?てか今日、修学旅行に来てる2年以外は普通に授業があってるはずなんですけど、それも普通にサボったのか。この人、ほんとやることがめちゃくちゃすぎる。



「隼人」



「あ、《魔王》」


 茫然としながら《暗殺者》の笑顔を眺めていたら、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこに立っていたのは《魔王》だ。《魔王》の姿を見るなり、《暗殺者》は不機嫌そうな顔を浮かべる。


「……なんで昇がここにいるんだよ?」

「お前の考えそうなことは大体想像がつくからな。平野の後をつけてたんだ」


 んだと!?つまり、《魔王》は《暗殺者》が黙って修学旅行についてくるのを見越してたっていうのか!?


「さっちゃんが来るの予想ついてたなら、先に私にそう言ってよ!!」

「平野にそのことを言ったら、俺が隼人に怒られるだろう」


 怒られるって……。まぁ、確かに私が怒るより《暗殺者》が怒ったほうが《魔王》にとっても質悪いだろうからそういう選択になるんだろうけどさ……。


「……じゃあ、来るのを止めればよかったんじゃないの?」

「俺が言って考えを変えるような奴なら、苦労はしていない」


 前世からの主なくせに、なんて無責任な発言なんだ!まぁ、話聞いてたら《暗殺者》のほうが勝手に《魔王》を慕って、勝手に《魔王》のために行動してたって感じだから、《魔王》のほうに《暗殺者》の行動を制限する権限ていうのはないんだろうね。

 何となくわかってたけどさ、一緒に考えればこの状況を回避する方法を………………思い、つかないか。さっちゃんだもんね。ゴーングマイウェイを地で行くさっちゃんだもんね。



「奈美!!?」



「あ、真白」


 今度は私の名前が呼ばれたと思って《魔王》の背後に目をやると、さっきまで一緒にいた真白と《女騎士》と《勇者》と《魔術師》がこちらにかけてくるところだった。真白は私のところに駆け寄ると、少し眉を吊り上げる。本当に怒った顔もかわいいよねー。


「もう!またいきなりいなくなるから驚いて……あれ、小夜時雨君?」


 かわいい顔で怒っていた真白は、途中で私の後ろにいる《暗殺者》に気付いたみたいだ。驚いたように目を見開いて《暗殺者》を見る。《暗殺者》の存在に《勇者》も驚いた顔をして、《魔術師》は呆れたような表情を浮かべていた。その中で《女騎士》は楽しそうに笑う。


「あぁ、やっぱりついてきたのか」

「え!?知ってたの!!?」


 《魔王》はともかく、なんで《女騎士》が!?驚きながら問い詰めると、《女騎士》は爽やかな笑顔を浮かべながらいう。


「この間の昼休みの時何となく、な。平野君と長らく離れるっていうのに、えらく落ち着いていたから」


 え?この間の昼休みって、修学旅行の話してたときだよね?あの時、《暗殺者》はそんな素振り全く見せなかったよね?


「よく気が付いたね、翔子」

「まぁ、同じ片想い同士、通じるところがあったのかもしれないな」


 《女騎士》は前世から《魔術師》に絶賛片想い中だもんね。《暗殺者》は別に片想いってわけじゃないけど、もうそこに突っ込むのはやめておこう。それより、《魔王》にも言ったけどさ、さっちゃんがついてきちゃうこと知ってたなら一言くらい言ってほしかったよ!!


「なんで言ってくれなかったの……?」

「言っただろう?私は小夜時雨君の味方だって」

「……」


 ふっ、と優しげに《暗殺者》に微笑みかける《女騎士》。さっちゃんはピクリと眉を動かして相変わらず不機嫌そうな顔をして、その顔をそむけた。「借りだとは思ってねぇからな」的なことを《女騎士》に伝えたのかな?

 いやいやいや、今はそんな《女騎士》と《暗殺者》の意思疎通を解説してる場合じゃなくてですね……。


「まぁ、ついてきたものはしょうがないんじゃない?」

「だな。小夜時雨なら仕方ないって、先生たちも目をつぶるだろ」

「隼人のことが心配だから、俺もお前たちと一緒に行動できればと思うんだが……」

「もちろん、大歓迎だよ!」

「人数が多いほうがにぎやかで楽しいだろうからね」


 《魔術師》、《勇者》、《魔王》、真白、《女騎士》が次々とそんなことを言う。そして、さも当たり前かのように《暗殺者》の動向が決定することとなる。


 あれれ?なんで、誰もさっちゃんを帰るように説得しようって言わないの?そりゃ、先ほども言いました通り、そんなの無茶だとは思ってるけどさ、もうちょっとチャレンジ精神をもって説得してみようとか思おうよ。なぁんて思っている私をよそに、《勇者》がすっごい穏やかな顔を浮かべてこっちを見てくる。



「何より、平野には小夜時雨がついてたほうがいいだろうしな」



 《勇者》のその言葉に一斉に頷く一同。


「そういうわけだから」


 そんなみんなの反応に、満足そうにニコリと笑って私を見下ろしてくる《暗殺者》。




 なんか……周りから固められていってる気がするんですけど、なんで?




 ■ □ ■




「あー……なんか疲れた」


 1日目の夜はごくごく普通のホテルに泊まることになっていた。真白と一緒に部屋にたどり着いて、思わずベッドに倒れこむ。

 バスを降りてから1日中歩き回ってたせいっていうのもあるけどさ、体力的な疲れっていうより、気疲れって意味ですごく疲れてる。



 それもこれも、突然現れたさっちゃんのせいだ。



 すれ違う学園の生徒たちに「え?」みたいな顔で見られるのはもちろん、「こんなところまで連れてくるなんて、さすが猛獣使い」なんて意味わからん囁きも聞こえてくるし、もちろん先生たちにはあまり気持ちの良くない目でガンガン見られた。文句を言ってくる人は1人もいなかったところは、さっちゃんだもんね、と納得できちゃうところがまた悲しい。

 転生組で、基本的に周りの視線なんか気にもしない《勇者》たちは普通にすごく楽しそうにしてたけど、一般ピーポーな私にはそんな芸当できないのですよ。……胃薬でも持ってくればよかったな。


「でも、よかったね、小夜時雨君が来てくれて」

「え?」


 お腹をさすりながら、真白の顔を見上げる。


「おかげで奈美も心置きなく観光を楽しめたでしょ?」

「……そりゃ、そうだけど」


 同じ学園の人たちには散々な目で見られたりしたけど、集合場所を離れて観光を始めたら、周りは知らない人だらけになる。制服を着てるからはたから見れば《暗殺者》も普通にうちの学園の生徒だから、観光する分には特に気になることがなかったのは確かだ。

 てか、むしろ《暗殺者》がいてくれるって安心感で注意力散漫で観光を楽しんでいたのが事実。もし《暗殺者》がいなかったら、周りのこと警戒し続けないといけないから、観光どころじゃなかっただろうな。


「小夜時雨君が来てから、奈美も元気になったし」

「だから、別に寂しいとか思ってなかったってば」


 どうも、真白は何かを勘違いしているようで、バスを降りた時の私はどこか元気がなかったけど、《暗殺者》に会ってから、いつものように元気になった、と思っているらしい。全然全くそんなことはないんだけど……。

 バスを降りた時は、《暗殺者》の別れ際の態度が気になってたからちょっと悶々としてたのは確かだけどさ、その態度の理由が修学旅行についてくるって決めてたからってわかったから、すっきりしたのは事実だ。それが真白には元気になったように見えたのかもしれないな。


「私としても嬉しかったかな」

「え?」

「ほら、小夜時雨君が来たから鬼勢君も一緒に自由行動回ってくれることになったでしょ」

「……そうだね」


 確かに、それはよかったなぁと思う。最初はちょっと距離を置いて歩いてた《魔王》だけど、やつもなかなかの歴史好きらしく、特に昔の武器とかを飾ってる博物館に行ったときには《勇者》と並んで真剣に展示物を見学していた。多分、修学旅行を通して《勇者》と《魔王》はもっと打ち解けていくんじゃないかなぁと思う。

 真白と《勇者》か《魔王》どちらかをくっつけよう作戦的にはその状況がいいのか悪いのか私にはよくわかんないけど……2人が仲良くしてると真白は嬉しそうにするし、《魔王》からも変な孤独オーラが消えてるのはいいことだと思う。



「そういえば、小夜時雨君ってどこに泊まってるの?」



 《勇者》と《魔王》の関係緩和に関して思いをはせていたら、突然真白がそんなことを聞いてくる。……おかげで、ホテルのロビーで言われた《暗殺者》の別れ際の言葉を思い出してしまう。



『ホテルと旅館、同じとこ抑えてあるから。俺の部屋は1人部屋だし、いつでも、来ていいからな?』



 まったく……相変わらずの軽口をたたきおってからに。一体、誰があんな見るからに危ない人の部屋にのこのこと行くかっつーの。そんなことしたら食べてくださいって言ってるようなもんでしょうが。



 てか、いつもみたいにふざけたノリで言うならまだしも……なんか、顔がちょっとマジだったから、ドキッとしたじゃんか。

 


「奈美?……なんか、ちょっと顔赤いよ?」

「なんでもない。明日に備えてもう寝る。おやすみ!」

「え?お風呂は?」

「朝シャンするから大丈夫!」


 それだけ言うと、私は布団にもぐりこんだ。本当は寝る前にたくさん真白とのおしゃべりを楽しみたかったんだけど、《暗殺者》のせいでそれどころじゃない。




 ちゃんとメガネかけてたのに、あんな軽口にドキッとしちゃうなんて……。


 やっぱこのメガネ、先代よりちょっと機能が劣ってるのかな?


 不意打ちにも耐えられるように、気をしっかり持たねば。



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