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23. 連休明け




 とうとう来ちゃいました。連休明け一発目の登校日。いつもは私のほうが遅く待ち合わせの場所に来るんだけど、心の準備をしたいなぁ、とか思ってたら30分も早く家を出てきてしまった。時間がありすぎるせいで、なんか余計にそわそわしちゃうわ……。

 てか、そもそもさ。私がこんな思いをしないといけないのは、すべてやつのせいなんだよ。やつがわけわからん反応見せるから、私もつられてわけわからん反応しちゃったんだよ。



 ……いつも余裕ぶってるくせに、泣いたりするからさ。



 私じゃなくたって、あんな顔見ちゃえば動揺するって。いつもは無愛想で凶悪ながん飛ばしてるけど、素材はいいんだからあんな顔されちゃ大半の女の子はドキッとしちゃうって。

 ……いや、私のあれは、決してトキメキとか、そういう乙女チックなものなんかじゃない。断じてないんだけどね。一般論の話ですよ。

 だいたい、私、前世でいわゆるアラサーまで生きてたんですよ?いくら生まれ変わって実年齢は若いとはいえ、記憶と知識としていろいろ知っちゃってる私が、今更年下のやんちゃくんにときめくなんて、どんな冗談だよって話であって────



「奈美」

「!」



 声をかけられて振り返るとそこには笑顔を浮かべた《暗殺者》がいた。



 出たな!《暗殺者》め!!待ち合わせしてるから来るのは知ってたんだけどさ!!なぁんて、セリフを浮かべながら《暗殺者》と向き合う。なるべくフツーにぃ、なぁんて意識すればするほど普通になんてできないわけで、顔はひきつるし、肩には無駄な力が入る。


「おはよ」

「お、おはよ」

「今日は早かったんだな。待たせて悪かった」


 ……うん、よかった。私はいつもの正常な私だ。

 ニコリと浮かべられた、いつものうさん臭い《暗殺者》の笑顔。その笑顔に、私の心臓は何も反応を見せなかった。そのことに心底ほっとしながら、多少ぎこちなくはあるけど、いつものように返事をする。


「ううん、今出てきたとこだから、大丈夫」

「体はどうだ?」

「ずっとごろごろしてたから、だいぶいいかな。お尻だけまだ痛いから、クッションもってきた」


 うん、ごくごく普通に話せてるな。《暗殺者》だっていたって普通に接してくるし。……なんか、変に構えて損したかも。こんなことならあと30分長く寝とけばよかったな。

 心の中で後悔しながら、《暗殺者》とバス停に向かって歩き出す。その間に話すことは休日どうしてたとか、病院でなんて言われたんだ、とかそんなことだった。会話の内容は日常的とは言えなかったけど、その調子はいたって普通。私の心臓も特に奇妙な動きを見せる気配はなかった。


 てか、そもそもメガネ云々とかって関係なかったんじゃない?崖から落ちた衝撃と、異様に高鳴った鼓動に動揺しまくって、休日中冷静に慣れてなかったのかもしれないけどさ……。そもそも、キラキラエフェクトは真白と《王子》と《女騎士》の特性であって、《暗殺者》であるさっちゃんがそんな効果発動しないと思うし。

 やっぱ、あの時のドキドキはつり橋効果だったのかな?ほら、危ないつり橋渡ったりとか、お化け屋敷とか、そういう不安と恐怖でドキドキ状態で一緒にいる人には恋愛感情を抱きやすくなるっていうし。私は全然そんな感情抱いてないんだけども、それで心臓がドキバクしやすくなってたってことだよね。



 じゃあ、案外メガネとっても大丈夫なんじゃない?



 バス停について、列に並びながらチラリと《暗殺者》の顔をうかがう。目が合って、ニコリと笑われても、特に動揺することはなかった。いつものうさん臭い笑顔だなーと思う。

 ……うん、これはいけそうな気がする。別にメガネかけてて大丈夫なら問題なんだけどさ、メガネなしで何も起きないことを確認するに越したことはないよね?

 そう思いながら私はなるべく平静を装ってメガネをはずした。


「ん?どうした?」

「や、別に……」

「まだ新しいメガネに慣れてないのか?」

「……うん、そんなとこ」


 不思議そうに《暗殺者》が覗き込んでくる。新しいメガネに慣れてなくて目が疲れちゃってー、的な意思をアピールするために、痛くもないのにこめかみを抑えて見せる。買ったばかりのメガネで多少違和感があるっていうのは本当だから、《暗殺者》のこともうまく誤魔化せたみたいだ。

 《暗殺者》が顔を覗き込むのをやめたところを見計らって、またチラリと《暗殺者》の顔を浮かべる。バスが遅れているのか、時計を見たり道を見たりしながら、鋭い舌打ちをしている不機嫌そうな《暗殺者》の顔。ダイレクトに見えるその顔にも、特に私の心臓は異常な反応を見せたりはしない。



 ……大丈夫、かな?



 そう思った時だった。


「あ」

「ん?」

「ここの傷、もう治ったんだな」


 顔を近づけながら、そっと手を伸ばしてくる《暗殺者》。その親指が、登山の時みたいに、優しく目元をなぞる。

 かなり近い《暗殺者》の顔に、思わず体に力が入る。ちょっとびっくりしたせいで心拍数が上がっていた。

 い、いや……でも、これは、ほら。いきなり顔触られてびっくりしただけっていうか、別に照れたとかそういうんじゃないし。


「跡にならなくてよかったな」

「そ、そだね……」


 なっ、なんでさらに顔近づてくるの!?や、てか……なんか、このさっちゃんの表情は……!!




「傷の1つや2つあったって、俺は全然気にしないけど」


「!!!」



 ぎゃーーーーーーー!!!!い、今、今ドキッてなったー!なっちゃったーーー!!!やっぱだめだ!ダイレクトはだめだ!メガネがないとだめだーー!!!


「どうした?」

「な、なんでもない!!」


 素早くメガネを装着しながら一歩後退る。顔が熱くなってるのを悟られないように、急いで前を向いた。

 うぅ……、やっぱつり橋効果のせいだけじゃなかった!なんか、さっちゃんのあの顔をメガネなしで見るとドキドキしちゃう!!なんかすごくさっちゃんがかわいく見えちゃう!

 ……ほんと、どうなってるんだ?今までメガネをかけてたから気づかなかっただけで、もともと《暗殺者》にもキラキラエフェクト常備されてたのかな?でも、《王子》や《女騎士》のキラキラエフェクトは普通に見えてたのに、なんで《暗殺者》だけ今まで見えていなかったんだ?わからん!!



 しかし、1つだけはっきりしている。メガネなしであの笑顔を見るのは危険だ。


 真相はどうなのかしんないけど、《暗殺者》はキラキラビームを新たに習得したらしい。


 そういうことにしておこう!



奈美ちゃん、自爆

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