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19. 登山④




「っぬはっ!!!!!」



 体がびくりと震えて覚醒する。フリーズしていた頭が、目の前に見えてる茶色い土と、そこに生えてる草を認知する。そして自分が地面に倒れていることを理解する。



 ………え………、うそ。



「い…………生きてる!!?」



 思わず声が出た。その途端、意識が完全に覚醒して、体中の感覚が戻ってくる。そして、全身のいたるところが痛いことに気付いた。今までに感じたことがないくらい、めちゃくちゃ痛くてうまく動けない。

 でも、その痛覚が何より私が生きてるってことを証明してくれてた。念には念をと思って上のほうに視線をやれば青空が見える。周りは普通に木が覆い茂ってる山の中。明らかに天国じゃなさそうだ。そう悟った途端、涙が込み上げてくる。

 



 う、うううううううううえぇぇぇぇぇぇん!怖かった!!ほんっと怖かった!!ぜ、絶対、絶対死んだと思ったもん!本気で終わりだと思ったもんーーーー!!!



 しばらく地面に横たわったままえぐえぐと泣いた私は、ゆっくりと体を動かしてみることにした。身体全体痛いけど、特に左のお尻のあたりが痛い。おかげで左足は動かせそうになかった。ゆっくりと上半身を起こして、近くにあった木に寄りかかって座る。右肩も若干痛くて、あんまり上にあげないほうがよさそうだ。

 幸いなのは大きな切り傷がないこと。服の上から打ち付けてすりむいたところはたくさんあったけど、出血がひどい傷はない。

 落ちてきただろう崖を見上げると、たまに石が出っ張ってたり木が出っ張ってたりしてる場所があった。多分、ああいうところに当たりながらちょっとずつ下に落ちたせいで致命傷は免れたんだろう。おかげで全身痛いけど、命を拾ったんだから何よりだよね。



「ふっ……ほんと、打ちどころが良くて……よかっ……」



 改めて自分が生きてることが奇跡的なことだなぁと思うと、また涙が出てきた。うれしいような怖いような、入り混じった感情に任せて、またしばらく涙を流す。


 少し落ち着いて、今度は今自分がいるあたりを確認することにした。前を見るとひたすら木しかない。おかげで見通しが悪く、道らしい道も全然見当たらなかった。

 スマホ!と思ってポケットを確認したら、半壊したスマホがそこから出てきた。……そりゃ、いろんなところにぶつかって落ちてきたんだから、そうなりますよね。壊れてなかったとしても、どうせ圏外だっただろうし……。あーでも、スマホ買いなおさないといけないじゃん。凹む。

 ……てか、あれ、今気付いた。なんか……視界がいつもよりぼやけ……!!!



「メガネ!!!」



 はっと顔に手を当ててみると、そこには何もなかった。

 うわっ……幾多の死線を潜り抜けてきたメガネも、さすがにこの落下では私の顔に留まりきれなかったか……。きっといろんなところに打ち付けられてぼろぼろになって、この山のどこかに横たわっているのだろう。くぅ……フレームさえも拾ってやれないなんて、なんて無念。長年の相棒、しかも超お気に入りのフレームだっただけに思わずまた涙が滲む。

 ……てか、メガネも買いなおさないといけないじゃん。なお凹むわ。


 凹む要素は他にもあった。命は拾ったけど、完全に遭難だ。しかも、動けないと来た。これは助けが来るのを待つしかない。もうすぐ日が暮れそうなのは空を見てればわかる。いつになったら助けが来るかと考えて、一生来なかったら……なんて悪い想像をして体を寒気が走った。


 いかん!ネガティブはいかん!!こういうとうきは気をしっかり持たなきゃいかんのだ!!ここは遭難したとか、山の中だとか、動けないとか全部忘れて全然違うことを考えるしかない!!!

 えっとーえっとーーーー………。よし、ここは大好きなゲームのオリジナル展開でも考えて時間をつぶそう!




 数時間後、空がすっかりオレンジ色に染まった。




「うぎゃーーーー!!もうネタ切れでなんも思いつかないんですけど!?え?うそ?私の妄想力ってたったこれだけ?たった数時間でネタが切れてしまうほど、私のオタク力って低いの!!?」



 思わず、頭を抱えながら叫び声をあげる。暗い気分にならないようにといろんな妄想を繰り広げていたのに、日が暮れるにつれてだんだんとそれに集中できなくなったからだ。そして、とうとうネタは尽きた。

 や、普段なら、何十時間だって、何日間だって妄想に耽れるはずだ。でも、やっぱりこの切迫した雰囲気のせいでうまく没頭できない。手っ取り早く思いつくネタを考え終えてしまった私は、若干混乱状態になってた。

 おちつけー、落ち着くんだ、私ーーー!きっともうすぐ助けが来るから、落ち着くんだーーー!!



「もうすぐ、さっちゃんが……」



 ……あれ?今、私なんつった?なんか混乱のあまり無意識にさっちゃんの名前をつぶやいてなかったか?

 いかんいかん。なんて乙女みたいなことしてるんだ。本当に落ち着け、私。


 それに、今回は《暗殺者》も私のことを助けに来る余裕はないと考えたほうがいいだろう。《冥王》は私と《暗殺者》が離れるのを見込んで、《暗殺者》を足止めするように綿密な計画を練ったんだと思う。多分だけど、私が落ちる直前に起きた蛇騒動も《冥王》の仕業な気がする。ベタに「実は蛇のおもちゃでした」なんてオチだったら笑うけど……。

 しかし、あの《暗殺者》が足止めを食らうなんて、一体どんな方法を《冥王》は考えたんだろう?ともかく大人数で《暗殺者》に襲い掛かったとか?それだけで《暗殺者》が手間取るとは思えないけど……。山の中だからうまく立ち回れなかった……なんてこともなさそうだ。むしろ《暗殺者》が地の利を生かして相手をまいてさっさとこっちに来そうな感じするし。



 私を投げ落とした男子が言ってたみたいに、崖に落ちたってことはないと思うけど、ちょっと……心配、かな?



 ガサガサッ



 ん!?いまあの辺の茂みが動いたな……もしかして、助け来た!?

 期待がこみ上げる中、音がしたほうをじっと見つめる。人の背くらいの藪が何度も揺れた。この山にはクマとかはいないはずだし、多分今あの藪を超えようとしているのは人間である確率が高い。

 よし、ネタが切れたところに助け来るとかナイスタイミング!これでやっとここから動け────



「!!!」



 藪から出てきたのは1人の男子生徒だった。これまで散々男子生徒に襲われてきた私は、反射的にその目を見る。メガネをかけてないからはっきりとはわからない。でも、その手にはなぜか太めの木の棒が持たれていた。

 ……遭難した人探すのに、木の棒なんか持たないよね?歩くため杖にしちゃ短いし……。しかも、なんかあたりを警戒するように歩き回ってるし。




 え、もしかしてあの生徒……《冥王》に操られてる!!?




 そう気づいた途端、私は急いで体を低くした。そのまま男子生徒の死角になるように座ったまま少しずつ木の反対側に移動する。あの距離からだったら見つからないはずだけど、近づかれたらすぐに気づかれるだろう。

 んで、見つかったら終わりだ。だって、私一歩も動けないんだもん。



 お願いだからどっかいってーーーー!!!



 ガサガサッ



 祈るような気持ちで体をちぢこめていたら、男子生徒が来たのとは違う方向から、また葉がかすれる音が聞こえた。はっとしてそちらのほうに目をやると、誰かがこちらに近づいてくるのが見える。


 うそ……新手?人数が増えたら、見つかる可能性が高くなっちゃうじゃん!!せっかく命を拾ったのに……このままだと《冥王》に操られてるやつらに見つかってトドメ刺されちゃうよ!!

 また泣きそうになりながら、必死に姿勢を低くする。新しく来た人影が木のすぐそばに立つ足音が聞こえた。



 お、おわっ────!!!!





「まだいやがったか」





 ……え?この、声は……。



「こんな時代じゃなきゃ、ぶち殺してやるのに」



 そして、この物騒なセリフ。間違いない!!!



 私は動く右手で何とか状態を起こして、木の陰から声がしたほうをうかがった。私がちょうどそこに立っている人を視界にとらえるのと同時に、最初にこの場に近づいてきた男子生徒が数メートル先に吹っ飛ぶ。

 あとからやってきた人物は、男子生徒の顔面めがけて強烈な跳び蹴りをくらわしたようだ。着地しながら、男子生徒が吹っ飛んでいったほうを見据えている。



 そこに立っていたのは、間違いなく《暗殺者》だった。



「さ、さっちゃん……?」



 声をかけると、はっとしたように構えながらこちらを見る。私がここに座り込んでいたことに全く気付かなかったみたいだ。だから、最初は敵だと思われたのかもしれない。

 でも、その目が私をとらえた、と思ったとき、驚いた表情を浮かべながら、《暗殺者》は固まって動かなくなった。




 えっとー……なんかフリーズしちゃった……?


 ……なんでだ?


 わ、私……どうしたらいいんだろう??




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