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14/202

14. タイトルコールを要求されました。

7/1 改稿しました。内容が微妙に変わってます。




 悶えるという行為はなかなかに体力を消耗すると思う。あれから私は母親が声をかけてくるまでベッドの上に芋虫のごとくのたうち回る羽目になり、無駄な疲労感に襲われていた。せっかく苦労して、やっと迎えた入学式だというのに、残念ながら清々しい気持ちには全くなれなかった。エロ声のせいでむしろム……モヤモヤくらいに自重しとこう。



「あ、いたいた。奈美ー!」



 校門からちょっと離れたところでそんなことを考えてたら、背後から聞きなれた声がする。振り返ると、私の姿を見つけたのか嬉しそうに駆け寄ってくる真白の姿。

 今日も超絶可愛い。朝日に輝く笑顔が眩しい!私の邪な思いを一気に払拭してくれる神々しさ。うん、これで私も多少は爽やかな気分で入学式を迎えられる。てか、同じ制服を着てるのに、なんで彼女にはすでにフィット感があるんだ?私なんて思いっきり制服に着られてる感じなのに。



「とうとう入学式だね!」

「うん。そうだね」

「あれ?なんか元気ない?」

「ははは、ちょっと変な夢見ちゃってー」



 そう言って誤魔化しておく。詳細までは伝えられるはずがない。朝ベッドで悶えまくって疲れてたなんて言われたら、せっかく同じ学校でさらに仲良くできるかもと思ってたのにドン引きされてしまう。中3の間に、真白も多少は私の挙動不審(と彼女は思っている)さに慣れてきてはいたが、さすがにこれは真白の許容範囲を超えているだろう。だから絶対に言わない。



「あ、それより早く受付にならぼ!これからもっと混んでくるみたいだから」



 真白はそう言って私の手を取って早足で歩き出す。真白が通るとたくさんの人がこっちを振り向いた。やっぱ誰が見ても真白は可愛くて美しいのだ。よく喋るようになってちょっとおっちょこちょいなところもあるのを知ったが、そこがまた可愛い。

 こんなにこんなに可愛い真白と釣り合う男なんかこの世にいるんだろうか?いるなら是非とも2人が並んでいるところを見て見たい。真白は中学では男子にそんなに興味なさそうで、みんな友達、みたいなスタンスだったけど……真白に好きな人ができたりとかしたら照れながら私に相談とかしてくれるんだろうか。

 好きな人の話をしながら照れる真白。想像しただけでも可愛い!




 なんて脳内妄想を繰り広げていたら、真白とはぐれてしまいました。




 私たちが来た時より人が増えてきたようだ。てっきり真白が隣にいると思ってまっすぐ歩き続けていたが、隣にいたのは女子でもなく見知らぬ男子生徒だった。私の視界の狭さといったら……困ったもんだ。

 真白を探さないとな、と思って呑気にあたりを見渡した私なのでけれども、学園の門を視界に入れた時、大変なことを思い出した。





 入学式の前って《勇者》との出会いイベントあんじゃーん!!!





 受験勉強で忙しかったり、受かってうれしかったり、今のうちにゲームし溜めなきゃと忙しい日々を送っていた私は、すっかりこの世界がゲームである可能性について考えるのをおろそかにしていた。

 考えたって答えは出ないからって割り切ってたところもあるんだけど、この学園に入学することが決まってからは、ちょっと気を引きしめていろいろ検証しないとな、とかって思ってたんだよ。《勇者》との出会いイベントも、昨日ゲームを始めるまでは覚えていたんだよ。



 これは、あれだ!全部あの夢のせいだ!《冥王》の陰謀だ!!!



 《冥王》に罪をなすりつけながら、人混みを文字通りにかき分けて裏庭を目指した。2人が出会うのはオブジェの近くのはずだ。1回行ったことがあるし、学園内の地図はすでに頭に叩き込んであるので最短距離でその場所まで向かう。



 裏庭には生徒が憩うためのベンチがいくつか置いてある。その1つのそばに立っている真白を発見した。



 そして案の定、真白は1人じゃなかった。



 真白が立っている正面に1人の男子生徒が座っている。私がいる位置からは残念ながら真白の可愛い顔は見えていない。その代わり男子生徒の顔がよく見えた。目を凝らして顔を確認するが、正直それだけでは彼が《勇者》の生まれ変わりなのかどうか判断はできなかった。

 ここからは会話は聞こえなかったが、気まずそうに真白が視線をそらすのが見えた。会話が途切れたんだと見計らって、私はたった今ここにたどり着いたかのように装って真白に声をかける。



「真白ー!早く行かないと、入学式はじまっちゃうよ!」



 真白と《勇者(仮)》が同時に顔をあげる。2人がもう一度顔を合わせて何か会話をする。別れの挨拶でもしてるんだろうか。



 ……てか、待って。今気がついた。ゲームの中でも入学式前に《勇者》と出会った主人公を探して呼びに来る女子生徒がいる。彼女の名前は《女子生徒A》。名前の通り、正真正銘のモブキャラだ。《勇者》との出会いイベント以外でもたまに出てくる《女子生徒A》。



 その《女子生徒A》って私のことじゃん。



 いや、イニシャルはAじゃないけどさ。確実に私のポジションそこでしょ。いや、しかしなんか妙に納得出来る。滑り込みで準特待生で、見た目も体型も頭も平々凡々で、おまけに《平野奈美》なんて名前の女子高生がモブキャラ。うん、実に納得出来る。……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。



 別にいいんだ!主人公になってたくさんの男子にちやほやされたいとかこれっぽっちも思ってない。結局、世の中最後は自分の力で生き抜いていかなきゃいけないんだから、そんなちやほやとかされてる暇はないんだよ!そりゃ、学園生活でのおつきあいってのは前世で経験しなかったから憧れるけどさ、それは二の次だ!私は理想の将来を具現化するため、またゲームやアニメや漫画を金庫に封印して、庭に埋めて、勉強頑張るって決めたんだ!


 それに、この世界がゲームの世界なら、モブキャラの方が動きやすい。主要人物には”ゲームの世界の強制力”なんてものが働いたりする可能性だってあるし、”強制力”に影響されないモブキャラのほうが、万が一”冥王エンド”の可能性が出てきたとしても、いろいろ立ち回りやすいはずだ。



 私が学園に入ったのは、それが目的でもあるんだから。



 たとえここがゲームに忠実な世界であったとしても、絶対に”冥王エンド”なんかにさせない。真白を《冥王》なんかに渡してたまるか!ふふふ、《冥王》よ。モブキャラに思惑を破られる屈辱を受けるがいい。



 天からのアナウンス:「タイトルコール、お願いします」



 ん?なんか聞こえてきた……。ま、深くは考えまい。気合を入れてご要望にお答えしましょう。





「聞け、《冥王》!お前の野望を打ち砕くのはモブキャラのこの私だ!」




<序章 終>



これにて「序章」終了です。思いの外長くなってしまった。

こんな調子で全体も長くなっていきそうです。

次章から学園生活がスタートします。

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