11. 放課後②
うだうだ色々と考えていたせいか、帰宅生の帰宅ラッシュはすでに過ぎてしまっていたらしく、チャリ置場はがらんとしていた。
いかん、人目が少ないな。ここで囲まれたりしたらちょっとやばいかも。急いでこの場を離れないと。そう思いながらチャリのカギを開けようとするんだけど、これがなかなかいつものように開いてくれない。焦るなー、焦るなーと念じながら、何とかカギを開けてチャリに飛び乗った。
ちょっと手間取りはしたけど、無事にチャリに乗って校門を抜ける。そこまで来てやっと一息つくことができた。
ちょっとドキドキだったけど、何事もなく学校を出れてよかったよかった。後はいつものように交通安全に気を付けながら、家まで帰れば万事OKだ!ほっとしながらいつもの調子でチャリをこぐ。
と、突然、左側から人影が飛び出してきた。
「うわっ!」
慌てて両手のブレーキを握りしめてチャリを急停止させる。ずずずっと回転しないまま地面を滑ったタイヤは、何とか飛び出してきた人間の数十センチ前で停止する。
よ、よかったー……。危うくチャリで人にぶち当たってしまうところだった。あんまりスピード出してなかったのが幸いしたな。……てか、この場合絶対にいきなり飛び出してきた相手が悪いよね!?
「ちょっと、いきなり前に出てきたら危ないでしょ!危うくひいちゃうとこ……」
文句を言ってやろうと顔を上げながら怒鳴りつけた。怒鳴りつけたんだけど……すぐに相手の様子がおかしいことに気付く。
私の目の前に飛び出してきたのは男子生徒だった。うちの学園の制服を着ているんだから間違いない。その男子生徒は明らかに私の行く手を阻むようにして両手を開いて目の前に立っている。
男子生徒は虚ろな目をしてこちらをただただじっと見ている。
あの目……。見覚えがある。真白を襲った女子生徒たちと同じだ。つまり、今この男子生徒は《冥王》に操られてる。突然自転車の前に飛び出してきて、死にたいのか!?とさっきまでは腹が立ってたんだけど、正気じゃないなら納得がいく。
つまり、私の行く手を阻むために飛び出してきたってことですよね、間違いなく。一歩間違えれば自分だって大けがしかねないのにそんなことするなんて、《冥王》にそそのかされてなきゃしないよね。
1人で妙に納得していたら、後ろから近づいてくる気配があった。
振り返るとそこには同じく学園の制服を着た男子生徒が3人。距離を詰めてきた彼らは、私の左右と後方を塞ぐようにして立ちはだかる。
……ま、まずい。
完全に逃げ道ふさがれた。てか、ただでさえ多勢に無勢なのに相手が男子ってところがさらに分が悪すぎる。真白の時は男子生徒が襲ってくるなんてことなかったのに、なんで私の時は男子なんだ!?私、男子に恨み買うような真似した覚えないんですけど!!?
目の前に展開してる状況に混乱して動けないでいたら、左側に立っていた男子が私の腕を思いっきり引いた。
「うぎゃっ!」
抵抗するまもなく、私は自転車から引きずり降ろされる形で、左側に引っ張られる。最初に飛び出してきた男子がいた角にそのまま引っ張られていく。体勢を立て直しながら進行方向を見ると、少し先に袋小路になってる場所がある。
あー……。この人たちが何しようとしてるか理解してしまった。あの人目に付きにくそうな場所まで連れ込んで、殴るなり蹴るなりするつもりなんだろう。いわゆる集団リンチ的なやつですよね?
真白の時と違って、私には容赦ないだろうなー、とは思ってたけど、まさか男子に囲まれるとはあんまり思ってなかったな……。なんて、後悔してる場合じゃないよね。
「はーなーせーーーー!!!」
このまま引きずられていってもただ痛い目見るだけなのは明らかなので、何とか逃げ出せないものかと抵抗してみる。腕をぶんぶん振り回して、何とか振りほどけるかも、と思った矢先、後ろからほかの男子にがっちり腕をつかまれて、後ろで拘束されてしまった。
腕がだめなら足で、と思って脛を狙って足を振り回してみるけど、後ろに立っている相手に決定打を与えることはできなかった。そして、そのまま袋小路の中へと連れ込まれる。
「わっ!」
奥のほうまでたどり着いたら、突然後ろから押された。拘束から逃れようと前に体重をかけてたから、思いっきり前につんのめって地面に倒れる。顔面からいかなかったのがせめてもの救いだけど……手とか膝とか、軽くすりむきました。痛い。
いや、こんなので痛がってる場合じゃないよね。これから多分もっと痛いことされるんだから……。
憂鬱な気分で体を起こす。見下ろすようにして4人の男子が私のことを取り囲んでいた。これ、完全に詰みました。ダメもとで1人にとびかかってみても、すぐにほかの3人に捕まってぼこぼこにされるのがオチだろう。
「学校に来れないくらい痛めつけてやるからな。覚悟しろよ」
覚悟しろっていわれましても……、男子4人にリンチとかされたことないから無理ですよ。てか、人に殴られたことなんてないし。未経験な事柄に対する心の準備なんて、そう簡単にできるわけないでしょうが。
ってー……この男子に文句を言っても仕方ないか。多分、さっきの言葉はこの男子の意思じゃない。《冥王》からのメッセージだ。夢の中での宣言通り。私を”潰す”気なんだ。
真白の時みたいに甘くはないと思ってたけど、ここまでガチでくるとはさすがに思ってなかったもんなー……。もうちょっと危機感もっておくべきだった。今更後悔したって遅いんだけど。
こうなった以上、腹をくくるしかない。せめて少しでも痛くないようにカメのごとく体を丸めて防御するしかないよなー、と思ってたら、2人の男子に両腕をそれぞれつかまれて無理やり立たされる。
げ、防御するのすら許してくれないってこと?筋肉ゼロの脆弱なこの体がもろに高校男子生徒の攻撃なんかくらったら、けがなんてレベルじゃ済まなくなるよ?骨なんて簡単に折れちゃうよ、内臓だって破裂しちゃうかもしれないよ!?
「こんなことしなくても、ちょっと殴れば私なんて簡単に病院送りにできるから!!ぼこぼこにすんなとはさすがに言わないけどさ、せめて手加減してよね!」
「これまでも分の礼も入ってるからな。加減はなしだ」
「そ、そんなお礼いらないからーーー!!!あ、てか、せめてメガネを……」
「そのメガネもお前の骨と一緒に粉々にしてやるよ」
骨粉々とか、どこの悪党のセリフだ!?普段は普通の高校生のくせに、操られてるからってモブキャラ相手に悪役キャラに徹し過ぎだよ!泣きたい気分になりながら、体をよじっていたら目の前の男子が拳を握って構えた。
あ……。終わった。今度こそ私もメガネも終わった。あまたの窮地を何とか潜り抜けてきたこの相棒ともお別れの時が来たんだ。さらば、わが愛しのメガネ。粉々になっても、フレームは拾ってやるからな。




