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7. 帰り道/靴箱①




 大体のことを話し終わったので、長居は無用とさっさと《魔術師》の家を退散してきた。下手にあそこにとどまって、変な薬盛られていつの間にか手術台の上……なんて、冗談じゃないからね。

 ってことで、今私は《暗殺者》と一緒に帰り道を歩いている。途中までは方向が同じらしいので、仕方なく並んで帰ることになった。……方向が同じなのが嘘か本当かは知らないけどね。



 それよりも、最後の話。「俺がついてるから大丈夫」的なことを言ってたけど……どうしても1つ確かめておかないといけないことがある。



「ねぇ、さっきの話だけどさ……どれくらいのレベルで引っ付いてるつもりなの?」

 

 尋ねた私に、《暗殺者》はさっきと同じように楽しげにニコリと笑う。……その時点でもう嫌な予感しかしないよね。


「登下校は一緒だろ?あと休み時間と掃除の時間も奈美の教室に行くし。休日も何あるかわからないから基本一緒にいるだろ。《冥王》の異空間っていうのにつれていかれないように、夜は俺が添い寝して……」

「謹んでお断りさせていただきます」

「つれないなぁ」


 何がつれないな、だよ!こっちは真剣に聞いてるのに茶化しやがって……。あー、でも《魔術師》の家に入る前にも、引っ付く宣言はしてたしな……。断ろうとしたらアサシンモードで脅されてうなずくしかなかったし、私に拒否権は一切ない。

 ってことは、《暗殺者》がこれから毎日引っ付いてくるのは決定事項。つまりそれは、私の安寧な学園生活の終了を意味する。



「はぁ……これで私も学園のはみ出し者の仲間入り決定か」



 安寧の終了のお知らせの鐘が頭の中でゴーンゴーンと鳴り響く。うぅ……私はただただ穏やかに学園生活を送って、私の夢をかなえるために勉強に打ち込みたかっただけなのに……なんでこんなことになっちゃったんだ……?ぐすん。


「そのことは心配すんなって。奈美が浮いたりするようなことはないから」


 むせぶ私の肩に手を置きながら、相変わらずの笑顔で《暗殺者》は笑いかけてくる。


「……今日十分教室で浮いてたんですけど」

「あー、明日からは大丈夫だ。絶対」


 明日からは、だとぉ?今日あれだけ避けられまくってたっていうのに、なんで明日は大丈夫んて言い切れるんだ?どこからそんな自信は湧いてくるのか意味不明すぎる。しかも、絶対とか言いおったし。

 うさんくさーい笑顔で、《暗殺者》はひたすら楽しげにニコニコこちらを見ている。……これ以上取り合っても無駄だな。安寧は諦めるとしても、せめて夢の実現は邪魔されないように頑張ろう。




■ □ ■




 次の日の朝。私は1人で学園の校門をくぐった。昨日の帰り際、登校は1人ですると《暗殺者》には言い張ったからだ。家まで来られたら親の目もあるしね。あの母親がさっちゃんを見てどんな反応をするかは目に見えている。きっときゃあきゃあ騒いで、いろいろと聞き出そうとしてくるだろう。その状況は《暗殺者》を喜ばせるだけなので、私としてはぜひとも避けたいところだ。

 渋々だったけど、何とか1人で登校する権利を勝ち取った私は平穏な朝の通学路を学園へとやってきたのである。……てか、1人で登校するのにすらあれだけの労力を費やさなければならないなんて、私の基本的人権侵されすぎだろ。《暗殺者》の行動はこの憲法の定めるところに引っかかっている!違憲裁判で有罪決定だ!!

 ……なんて、心の中で文句は言えるんだけどね。こんなこと本人に言ったらまたアサシンモード発動させて脅してくるんだろうし……。花火大会の時に心配させたのは悪かったけどさ、脅すことないじゃんね?あー……おかげで私は孤独な猛獣使い人生まっしぐらな学園生活をおくらなければ────


 

 なんて与太思考をしまくりながら歩いてたら、あっという間に靴箱にたどり着いた。そして間の悪いことに、まさに今靴を履きかえて教室に向かおうとしていた女子生徒とバチリと目が合う。

 あーーー……相手固まっちゃったよ。今からすごい勢いで視線を逸らされて、逃げるようにここを去って行かれるんだろうな。ぼっちは慣れてるけど、こうあからさまに避けられると傷つ────



「あ、平野さん!おはよう!」



 ……へ?……挨拶、された……?なんでだ?や、本来こっちが普通なんだろうけどさ、目が合った瞬間思いっきり硬直してたのに……。それに、昨日この子私のこと避けてたよな?

 茫然としてる間に、「先に教室に行くね」と笑顔を浮かべながらその子は靴箱を離れていった。でも、特に逃げるようなそぶりを見せるわけじゃない。……若干私から離れていく時早歩きだった気もするけど。

 あ、てか、驚きすぎてさっきの子に挨拶返すの忘れてたし。失礼なことをしてしまった。後で謝るべきなのか……?



「よぅ、平野。おはよう。元気か?」

「……おはよう」



 靴箱で考え込んでいたら、後ろからそう声をかけられた。クラスでもほとんど話したことのない男子がちょっとひきつった笑顔を浮かべながら、非常にフレンドリーに挨拶をしてくる。

 どうなってんだ?と疑問に思いながらも、今度は失礼にならないようにひとまず挨拶を返す。その男子も多少挙動不審ながらも靴を履きかえて教室へと向かった。



 ……なんだ、この状況は?



「あ、ひ、平野さん!」

「あ、おはよう」



 またも後ろから声をかけられたので、振り返りついでに挨拶を返す。そこにいたのはクラスでも私に次いで地味で目立たないメガネ男子だった。その男子が、青い顔をしてガクガクと膝を震わせながら私を見ている。



「そそそ、その……今日はいい天気だね!」

「……」


 いやいやいやいや、そんなおびえ切った顔で無理やり笑顔作って言うセリフじゃないから。明らかに無理して私に声かけてきてるのがまるわかりなんですけど!?

 ……ともかく、これ以上この男子の前にいるのはかわいそうだったから、私はさっさと靴を履いて靴箱を離れた。そうして廊下をしばらく歩いている間にも、すれ違うたびに生徒たちから挨拶をされたりした。全然しゃべったことがない人も、なぜか声をかけてくる。




 昨日はあんなに触らぬ神に祟りなし状態だったのに……今日は真逆なんですけど?

 

 何がどうなってるんだ?




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