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5. 《魔術師》の家④




 え、ちょっと待って。昔の御堂家の人間が《冥王》の手先……?



「つまり……あの腹黒キラキラ《王子》がガチな敵ってことですか……!?」



 いやー!誰か嘘だといって!!《暗殺者》と《魔術師》もある意味私の天敵といえる存在だけどさ、《王子》の天敵さ加減は2人の非じゃない!!敵に回したくない奴、ぶっちぎりのナンバーワンなんだから!!!

 Another Dimentionなんて規格外の技使うあの《王子》に命狙われるとか……私、確実に詰んじゃってるよ!!



「《王子》が敵かどうかは断言できないよ。御堂家の人間が全員関わっているとは思えないし」

「そっか……。それに《王子》が《冥王》に手を貸したら、転生させた《創造主》が黙ってないよね」

「そうとは言い切れない」

「え?」



「《創造主》も万能じゃないからね。現世に生まれてきた後、《冥王》に肩入れしても、彼にそれを止める術はない」



 転生者である《王子》が敵なちょっとほっとしてたのに、それを即行で否定される。

 ちょ……、そんなあっさり否定しなくてもいいじゃんか!あの《王子》が敵なんて、ほんと冗談じゃないんだから!!


「俺たちが持ってるこの宝玉も、ただの石だしな」


 《魔術師》に同意するように、《暗殺者》は頷く。そして制服の内ポケットから出した紺色の宝玉を手のひらに置いてそれをじっと見つめた。《暗殺者》にまでそんなこと言っちゃったら、《王子》敵説が濃厚になってくるじゃんかー!やめてよぉぉぉ……。

 あ、てか、今更だけど、さっちゃんの宝玉って初めて見たな。光加減では黒にも見えちゃいそうなくらい深い青。ちょっと紫っぽくも見えるかな?

 てか、この宝玉ってただの石なんだ。《創造主》様のご加護で魔力が詰まってて、みたいな設定を期待してたんだけど……本当にただの石ころなら、《冥王》に抗う力とかもないってことだよね。



「《創造主》様の力は宛にできないってことだね」

「もしそれができるならとっくの昔にやってるよ。それができないからこっちは時間かけていろいろ調べてるんだから」


 大きなため息をつきながら《魔術師》が言う。そういえば、この人新学期始まってからほとんど学校に来てなかったんだよな。その時間でほとんど《冥王》のことを調べてたんだろうけど……。


「君は学校休んでる間、何を調べてたの?」

「外部から《冥王》に加担する可能性のある存在を調べてたんだ。その過程で御堂家についても調べてた」

「じゃあ、君は私の話を聞く前から御堂の人たちが怪しいって思ってたの?」

「まぁね。前も言ったけど、王族は《勇者》側と確執があったから」

「で?何かわかったのか?」


 続きを促す《暗殺者》に《魔術師》は珍しく面倒くさそうな表情を浮かべる。こういう時はいつも嫌味な笑顔を浮かべて楽しそうに話すのに……どうしたんだろう?不思議に思いながら《魔術師》の顔を眺めていると、《魔術師》はゆっくりと口を開いた。



「何人の御堂が《冥王》とつるんでるかは知らないけど、学園の理事長が黒だっていうのは確定事項だよ」



「え、まさか……」

「今回のテスト、僕が3位になったのは学園側の操作によるものだし」

「そ、そうなの!!?」


 え……生徒のテスト結果を故意に変えちゃうなんて……それって、かなり問題ですよね?保護者や世の中に知れたら、学園の存続が危うくなるほどの大問題ですよね!?しかも、それを言いつけたのが理事長って……《魔王》や《暗殺者》、《魔術師》放置しすぎるあたりで気づいてたけど、やっぱこの学園、大丈夫じゃない。



「僕が御堂家を探るのが不都合で仕方なかったんだろうね。これ以上手を出すなって、警告のつもりだったんでしょ。そんなことしたら調べられちゃまずいことがありますって言ってるようなもんなのに、馬鹿だよね。何を隠そうとしてたかまでは掴めてなかったんだけど、変脳の話ではっきりした」

「《冥王》とのつながりを勘付かれるのを避けようとしたってことだな」

「そういうこと」

「……」



 平然と話を進める《魔術師》と《暗殺者》のテンションについて行けない。だって、学園のトップである理事長が敵って、やばいでしょ。下手に手を出して来たからってテストの点数改ざんするなんて、公私混同すぎじゃね!?え、てか、もうなんか公私混同とかのレベルじゃないっていうか……。



 やばい、なんか色々なことがわかりすぎて頭が混乱してる。ちょっと落ち着いて整理をしよう。



 この世界は【今キミ】をもとにして作られた。そこには《冥王》の思惑が働いてて、それを実行可能にしたのは元王族である御堂家が《冥王》に加担していたから。今も理事長である御堂家の人間が《冥王》についてて、世界滅亡をたくらむ彼に協力をしている。

 ってことはだよ?《冥王》が《聖女》である真白に近づくために、どうにかしてこの学園に保健医として潜り込もうとした場合、理事長は《冥王》に肩入れしてるんだから、簡単にそれは実行されちゃう……ってこと、だよね……?



「結局、”冥王エンド”は、起こり得る……ってこと?」


「そういうことになるね」



 《魔術師》の言葉を聞いた途端、お腹の奥のほうが体温を失っていくのを感じる。

 え、なにそれ?なんでそんなあっさり肯定してくれちゃってるわけ……?”冥王エンド”って、世界滅亡ってことですよ??それが、現実として起こっちゃうかもしれないっていうんだよ……!?


 今までは何もかもが不確定だった。この世界は【ゲームの中】だと思ってた。でもゲームと違うこともたくさん起こってるし、魔法の存在しないこの世界で”冥王エンド”なんてファンタジックな展開が起こるなんて、非現実的だと思ってた。

 それでも、《聖女》や《勇者》の生まれ変わりがいるのを知って、”冥王対策”なんてものを実行してた。それは、あくまで保険の保険にしかすぎなくて、”冥王エンド”なんて起こらないってどこかで決めつけてたのかもしれない。



 だから、世界が滅亡しちゃうかもしれないという危機を目の当たりにして、こんなに体が震えるんだ。



「き、君は最初、そんなの絶対ありえないって言ってたじゃん!」

「《冥王》が単独で結界を外から破る、あるいは結界の中から外界に干渉する可能性はゼロだった。でも、外部から協力するものがいるなら、その理屈は覆る」


 たまらず立ち上がりながら怒鳴りつけると、冷静な声色で《魔術師》は返してくる。多分、《魔術師》はその可能性に気付いたからこそ、学校を休んでまでそのことを調べ続けてたんだろう。


「てか、そういう可能性が出てきたなら一言言ってくれてもいいじゃん!」

「不確定なことをあんたに伝えて下手な行動取られたら邪魔なんだよ。今だってそんだけきょどってんだから、僕の話聞いてじっとしてられたとは思えないけどね」

「そ、それは……」


 ……確かに、《魔術師》の言う通りかもしれない。自分の身もろくに守れないわけだし……何か事前に知っていたとしてもただただ心配し過ぎてきょどっていることしかできなかっただろう。悲しいかな《魔術師》が何も言わないのを決めた理由は納得ができてしまった。



「じゃ、じゃあ、何で《創造主》はこの世界から魔法を消しちゃったの!?もし《冥王》が蘇っちゃったら、太刀打ちできずに世界滅亡一直線じゃん!」



 今度は標的を《創造主》に変えて喚いてみる。でも、私が言ってることって的を得てるよね!?《冥王》が復活する可能性があったのに、対抗する手段である魔法をなくしちゃうなんて、うかつすぎるとしか言いようがないし!!



「……」

「そこは、ひたすら考えが甘かったとしかいいようがないだろうな」



 《魔術師》の代わりに、《暗殺者》が抑揚のない声で答える。それ以上に的確な答えが見つからない、とでもいうかのように《魔術師》はそっと瞳を閉じて黙りこくっていた。


 あま、かった……?……なんじゃ、そりゃ。意味が分からな過ぎて腹が立つ。《創造主》はこの世界を作った張本人で、いろんなことをわかってたはずだし、《魔術師》だってその《創造主》と並ぶくらいの頭脳を持った超人。他にも色々な専門家が集まって、《冥王》を封印した後の世界について話し合ったはずだ。そんな頭のいい人たちが一緒になって世界のことを考えてた癖に、甘かった……?



「……そんな言葉で済むような状況じゃないでしょ!?」


「こいつと《創造主》だけの落ち度じゃない」



 怒鳴った私をなだめるように言ったのは《暗殺者》だった。怒りに任せてそっちを睨みつけると、見こたこともないほど厳しい顔をしたさっちゃんがそこにはいた。


「やっと世界が平和になってみんなが幸せになったと、誰もが疑っていなかった。そんな状況の中で、世界を滅亡させようとしている《冥王》につく人間がいるなんて、誰が考えるよ?俺ですら考えなかった。しかも、それが王族だったなんて」

「僕たちが思ってた以上に、あの穏やかでしたたかな王様の自尊心は高かったってことだよ」



 《魔術師》は自嘲気味に笑ってそういった。それっきり《暗殺者》も下をうつむきながら黙ってしまった。


 多分、昔対峙した王様の顔を思い出しているのかもしれない。私はもちろん実際に王様の顔を知ってるわけじゃないから、【セント・ファンタジア】の中で出てきた王様のアバターを頭に思い浮かべる。

 ちょっと太っちょの口ひげをはやした優しそうなおじちゃんだった。ゲームの中では情けなくって頼りないキャラクターだった印象だけど、実際はたくさんの犠牲を払ってでも、【魔族】との戦いを止めるしかないって苦渋の決断を下した責任感のある王様だった。

 【セント・ファンタジア】がこの世界をモチーフに作られたゲームなら、きっとこの世界に本当にいた王様もそんな感じの人だったんだろう。

 その王様が《冥王》に加担するのを決めた。それほどまでに、あの王様は《勇者》ばかりに尊敬を抱く国民たちを許せなかったのか……。



 そして、あの《王子》は……。



 脳裏にまた腹黒きらきら《王子》の漆黒の笑みがよぎる。同時に感じた悪寒で、私ははっと我に返った。




「って、感傷に浸ってる場合じゃなーい!」




 大声でそういうと、はっとしたように《魔術師》と《暗殺者》が顔を上げる。きょとんとしてこちらを見上げる2人に、びしぃっと人差し指を突き出して見せる。



「はるか昔のこと思い出して悔やんだって仕方ないでしょ!世界滅亡しちゃうかもしれないなら、全力でその可能性をつぶしに行くしかない!!」

「奈美……」



「じゃないと、私のアニメ、マンガ、ゲーム三昧の楽しい人生が実現できないんだから!!」



「……ほんと、どこまでも変脳だよね」

「奈美って、ポジティブになるポイントが面白いよな」



 《魔術師》には盛大に呆れられるような顔をされ、《暗殺者》にはニコニコしながら頭をなでられた。




 ……ふん!なんとでもいうがいいし、どうとでも扱うがいい。ここでうじうじされるよりはずっとましだ。



 私の人生計画を確実に実行するためにも、この2人には大いに協力してもらわないといけないんだからね!!




ちょっと長めでした

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