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3. 《魔術師》の家②




 玄関に入って靴を脱いで廊下に上がる。エントランスは最上階まで吹き抜けになってて、えらく広く感じた。でもおいてあるものはシンプルなものが多い。てか、壁も家具も廊下も全部白い。なんか病院にいる気分になるわ。



「平野君たちは、ちょっとそこで待っててくれ」

「え?」



 てっきり《女騎士》が《魔術師》の部屋まで案内してくれるのかと思ったら、違うらしい。先に《女騎士》が《魔術師》のご機嫌でも伺いに行くのだろうか?家先で騒がれて、すでにご機嫌MAXナナメなことは目に見えてるけど……。

 そんなことを思っていたら、《女騎士》はまっすぐとエントランスを横切って、向かいの壁まで歩いた。そこには白を貴重にした外国人の女性を書いた絵が飾ってある。壁も白いのにあんな白い絵を飾るなんて……なんて趣味なんだ。

 《女騎士》がその絵の真正面に立つ。



 その途端、ぎょろりと、絵の女性の瞳が動いた。



「ひぃぃ!」


 え、何っ、今の!!?マッドサイエンティストの根城がまさかのオカルト館だったりすんの!?


『虹彩認証終了、音声認証開始』

「な、何!?この声!!?」

「馬場翔子だ」

『確認しました。ロックを解除します』


 どこからともなく聞こえてくる声にびくびくしていると、何かカチャリという機械音がエントランスに響いた。何事だ!?とあたりを見渡してたら、絵がかけられていた壁がゆっくりと左右に開く。

 重々しい音がして、扉が開き終わると、そこから現れたのはくだりの階段だった。



「……何、これ?」

「ここが博臣の地下室への入り口なんだ。この家は最新のセキュリティがあちらこちらに備え付けられてて、部屋に入るのもそれを解除しないといけないんだ」

「へー、なんか凝ってんな」

「……」


 隣で感心したように《暗殺者》が言う。凝ってるとか、そういうレベルじゃないと思うんだけど……。てか、地下の隠し部屋って、どこの闇組織ですか。《魔術師》め……まさかここで法に触れるような危ない実験とかやってんじゃないだろうな……?怪しげな液体で満たされたガラス筒が並んで、その中に人間の脳みそが……なんてことないよね……!?


 びくびくしながら《女騎士》に続いて階段を下りると、たどり着いたのはごくごく普通の応接間のような部屋だった。普通っていっても、エントランスと同じで壁も天井も床も家具も真白だから、異様な感じはあったけど……人体実験場じゃないだけはるかにましだわ。



「全く、家に上がるだけでどれだけ時間を要してるわけ?ちょっと会わない間に、さらにその脳みそ劣化したんじゃない?」



 部屋に足を踏み入れて早々、《魔術師》の嫌味が飛んでくる。テストの順位を落としてちょっと落ち込んだりしてるのか?と思ってたんだけど、完全な杞憂だったようだ。絶好調で毒を吐きまくっている。ははは、元気そうで何よりだよ、まったく。


「相変わらずいけ好かない野郎だな」

「ん?小夜時雨君と博臣は初対面じゃなかったのか?」


 あきれ返ったように言った《暗殺者》に、《女騎士》が不思議そうにたずねた。現世では2人は初対面のはずだから、《女騎士》が変に思うのは当然だよね。余計なことを、という風に《暗殺者》を睨んだ《魔術師》は《女騎士》に向き直る。



「悪いけど、ショウは席をはずしてくれる?」

 

 

 ちょっ……ここまでわざわざ私たちを連れてきてくれた《女騎士》に対して、その言い方はひどいんでない?確かに前世の話するから、何も思い出してない《女騎士》がいるのはこっちとしてもまずいんだけどさ……。

 案の定、《女騎士》はちょっと傷ついた表情を浮かべて《魔術師》を見る。


「……私は聞いてはいけない話とうわけか」

「うん」


 いやいや、うん、じゃなくてぇ!もっと言い方ってもんがあるでしょうが!!さすがの《女騎士》も泣いちゃうんじゃ……!



「それは、私がまだすべてを思い出してないから、なんだな」



 え?思い出す……?あれ?もしかして《女騎士》って前世のことなんか思い出してたの?



「そのうち、全部思い出せるよ」

「……今日はおとなしく帰るとしよう」


 《女騎士》はそういうと、きびすを返して先ほど降りてきた階段を上っていった。その背中から漂う哀愁にこっちの胸まで痛くなってくる。そりゃ、大好きな幼馴染にあんな突き放された言い方視たら、傷ついて当たり前だよね。

 《女騎士》の姿が見えなくなると、《魔術師》は長めのため息をついて、ソファに腰を下ろした。



「……いいの?明らかに落ち込んでたけど」

「事情は察してくれてるよ。ショウには前世のこととかある程度話してあるからね」

「え?そうだったの?」

「最近、《聖女》とつるむようになってから、既視感を覚えることが多いらしくて、僕に相談してきたんだ。いい機会だったから、全部じゃないけどあらかた話した」


 なんと、そんなことが起こってたのか。もしかしたら《魔術師》のことも前世からの仲間って思い出したから相談したのかな?真白たちといるときはそんな素振り見せなかったから、全然気づかなかった。


「自分で思い出すまでは前世に関して詳細なことは教えられないって言ってあるし、その言い分には納得してるみたいだから、大丈夫でしょ。ショウは忍耐強いし」

「昔に比べると、随分あいつに対する態度が柔らかいんだな」

「え?そうなの?」


 ちょっと意外そうにさっちゃんが口を挟む。確かに、最後のほうは《女騎士》への信頼が垣間見えるような言い回しだったけど、追い出すときの台詞とか結構ストレートだったよね?あれでやわらかいって……前世でどんだけ辛辣な態度とってたんだよ、《魔術師》。



「まぁ、今世では幼馴染なんていう面倒な間柄になっちゃったからね」

「そりゃ《女騎士》の執念だな」



 《暗殺者》は愉快そうに口の端を吊り上げて笑った。

 ……こういう時のさっちゃんの笑みって、本当に極悪だよね。まさに悪役ーって感じ。せっかくきれいな顔してるんだから、その笑い方はやめたほうがいいと思うけどなぁ。

 横目で《暗殺者》を伺いながら、ふと、肝心なことを思い出す。



「あ、てか紹介するのが遅れたけど、これ、《暗殺者》の生まれ変わり」



「言われなくてもわかってるよ。前世と同じで根暗で陰気で湿っぽい空気が取り巻いてるからね。どうせ現世でも《魔王》の金魚の糞でもやってるんでしょ?」



 《女騎士》をネタに笑われたことに腹を立てていたのか、あからさまに喧嘩を売るような台詞を吐き出す《魔術師》。《暗殺者》相手に、勇気あるよな。まぁ、こいつは口を開けば毒しか出てこないような人だから相手が誰であろうと関係なんだろうけど……。



「……相変わらず、俺に寝首をかかれたいらしいな」



 アサシンモードの片鱗を見せながら、《魔術師》を睨みつける《暗殺者》。真白な部屋の中に、どす黒い空気が取り巻き始めた。

 おいおい、《勇者》と《魔王》がやっと和解したと思ったら、今度はここで睨み合いが始まっちゃうんですか!?《女騎士》も帰っちゃってんだから、勘弁してよね!


 てか、……しまった。この2人同じベクトルで残念な性格をした人たちだった。方やマッドサイエンティスト、方やアサシンナンパ師。【今キミ】では2人とも初心で純真ですごく健全なキャラだったのに、そのかけらも持ち合わせていない2人。

 この世界が【ゲームの中】じゃないとわかった今、私の知ってたキャラと性格の違いがあるのも当然だと思えるけどさ……。





 この2人を見た時点で、ここは【今キミ】の世界じゃないって勘付いとくべきだったよな……。



 【今キミ】の攻略キャラである《魔術師》と《暗殺者》にこんな人たちと勘違いしてごめんね、って心の中で土下座しておこう。




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