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2. 《魔術師》の家①

 



「……サイコロ?」



 目の前にある建物を前に、私は思わずそう呟いてしまった。

 や、だってなんか真っ白だし正方形だし、窓の位置がちょうどサイコロの目みたいだし。三階建てだから、恐ろしくでかいサイコロだけどね。



「博臣のところは家族も変わってるから」



 隣にいた《女騎士》が爽やかに笑いながら言う。うん、それはなんか妙に納得できるわ。ここにくる途中に聞いた話だと《魔術師》の両親は大学に所属する研究者で、ほとんど屋内にこもって日々研究をし続けているらしい。マッドサイエンティストはどうやら彼のDNAに深く刻み込まれた属性らしい。


 ……なんて、《魔術師》の残念な属性を改めて嘆いてる場合じゃなかった。今私が立っているのは児玉博臣こと《魔術師》の家の前である。

 なぜ私が自ら天敵ともいえる《魔術師》の住処に来ているかというと、今朝見た夢のことを《魔術師》に話す必要があると判断したからだ。

 今まではあの夢は私の妄想が見せるものかも、と半分疑ってたんだけど、《冥王》本人から、あれが夢ではなく《冥王》が作り出した異空間って事がわかったし、明らかに《冥王》はこの世界に干渉してきている。

 《魔術師》はそれは不可能だ、みたいに言ってたけど、実際にそれは起こってしまってる。彼自身もいろいろ調べてるみたいではあるけど、もしかしたらこの情報を伝えることで、《魔術師》が調べていることの手がかりになるかもしれない。

 そんな期待を抱いて、《魔術師》の家を訪ねる決心をし、始業式が終わって即行、《女騎士》に頼み込んでここまでつれてきてもらった。


 あ、ちなみにテストの時に《魔術師》が学校に来てたから話すチャンスだと思ってたんだけど、まさかの天才児3位というテスト結果にメディアまで巻き込む騒ぎになっちゃって、夏休みになるまで《魔術師》は家にいるようにと学園側に言われ、おかげで私が彼としゃべるチャンスはなくなってしまっていた。


 そういう理由もあって、私はこのサイコロ形のマッドサイエンティストの住処に足を踏み入れようとしているのである。

 正直、《魔術師》が生きて私をここから出すかどうかはわからない。しかし、《冥王》がこの世界にちょっかいを出してるのが確定して以上、その真実を私1人で抱えているなんて重すぎて無理だ。私の精神衛生上非常によくない!誰でもいいから、それこそ天敵である《魔術師》とでもいいからこの事実を共有して起きたいんだよ!!

 ってことで、腹をくくってここまで来ました。《魔術師》のことだから脳みそをいじくられても、命まで取ろうとはするまい。いざとなったら《女騎士》に全力で守ってもらおうと思っている。きっと大事な幼馴染が殺人者になるのをこの正義感あふれる《女騎士》が放っておくとは思えないしね。



 こんな感じで不安はいっぱいだけど……いざ、敵地への侵入開始!


 ピーンポーン。



『はい』

「博臣、私だ。メールで知らせたとおり、平野君と小夜時雨君を連れてきた」


 インターフォンから聞こえてきた《魔術師》に、《女騎士》が答える。メールで事前に知らせてくれていたなんて、本当に《女騎士》は気が利くなぁ。


『……小夜時雨って誰?』

「あぁ、さっちゃんは《暗殺者》の生まれ変わりの……って、そういえば何でさっきからさっちゃんの名前が出てくるの?」

「何でって、彼は平野君の後ろにずっといるじゃないか」

「うえぇ!?」



「よっ」



 まさか!と思いながら後ろを振り返ると、そこには相変わらずのにっこり笑顔を浮かべた《暗殺者》がいた。

 出たな、《暗殺者》!?花火大会以来、全然姿を見せないから、きっとこの間の私にあきれたか失望したか面白みを感じなくなったかして、引っ付いてくるのをやめたと思ってたのに!!

 今日登校しても全然姿見せなかったから、すっかり油断してた!



「なんでさっちゃんがここに……!?」

「おや、平野君は気づいてなかったのかい?学校を出るときからついてきていたからてっきり2人で来る約束をしていたかと思ったんだが……」



 《女騎士》は気づいてたんかい!!気づいてたなら言ってよー!なんで、私とさっちゃんがセットで当たり前、みたいな感じになっちゃてるんだよー。ほんとに勘弁してくれ……。



「そんな約束してないよ……」

「久々に奈美に会えると思って教室行ったのに、さっさと帰ったていうから、追いかけてきた」

「なんで途中で声掛けないの……?」

「声かけたら追い払おうとするだろうと思ったから」

「わかってるならついてこないでよ!」


 やけくそになって怒鳴りつけたら、《暗殺者》は笑顔を引っ込めて突然真面目な顔つきになる。


「それは、無理だな」

「は?」



「この間、1人で突っ走って危険な目にあったのはどこの誰だっけ?」



 これは……間違いなく、この間の花火大会のことを言われてるよね?確かにそれは事実だからその件については否定できることはないんだけど……一体そのことと、今さっちゃんがここにいることとどう関係してるって言うんだ!?



「言っただろ?口で言ってもわからないなら、俺にだってそれなりの考えがあって」

「……それで?」

「忠告してもわからないなら、俺がいつでも傍にいて守るしかないだろ?」



 え、あのときの台詞ってそういうことだったの!?いやいや、全然誰もそんなこと頼んでないし、いつも傍にいるって……夏休み前以上に引っ付いてくる気か、こいつ!冗談じゃないよ!!


「そんなの余計なお世話────」

「それとも、」


 私の言葉をさえぎってぐっと顔を近づけてくる《暗殺者》。さっきの笑顔はどこへやら、鋭い双眸が間近に迫って、花火大会のときの恐怖がよみがえってきて、体が硬直する。


 

「またこの間みたいなことして、俺を怒らせたいのか?」



 ひーーー!こんなところでアサシンモードONにするのは反則でしょ!!花火大会のときの、軽くトラウマになってるんだからね!?

 か弱いモブキャラの私に、そんな殺気満々の視線を向けるなんて、なんて無慈悲な奴なんだ!そんなことされて、私がノーといえるわけないでしょうがっ……。



「……そんなことは、ありません」

「じゃあ、俺が傍にいても、問題ないよな」

「……はい」

「よし」



 アサシンモードを引っ込めて、にこりと笑う《暗殺者》。何が、よし、だよ!思いっきり脅して頷かせたくせに、何事もなかったかのように爽やかな笑顔浮かべてんじゃないよ!



『無駄話は終わったの?』



 インターフォンから苛立った《魔術師》の声が聞こえる。《暗殺者》の思わぬ登場に気を取られて思いっきり放置してたの忘れてたわ。

 ちなみに、《女騎士》はというとすごく見守るような暖かい笑顔で私たちの様子を黙ってみていたようだ。見守ってないで、アサシンモードのさっちゃんから私を救ってほしかったんだけど……。


「それで、小夜時雨君も連れて行くんだね?」

「……そうなっちゃいました」

「平野君は本当に照れ屋だね」


 思いっきり誤解なんですけどね!もうここで突っ込んでたら先に進めないからスルーしておくよ!

 脱力している私を、いまだに恥ずかしがってると思っているのだろう、おかしそうに笑った《女騎士》は楽しげにインターフォンに向かって返事をする。


「話は付いたみたいだよ」

『地下にいるから、いつもみたいに降りてきて』

「わかった」


 インターフォンが切れると同時に、門の鍵が開く音がした。なれた手つきで扉を開いて、《女騎士》が敷地内へと入っていく。


「じゃあ、行こうか」

「……う、うん」


 ごくりとつばを飲み込んで、私も《女騎士》に続く。思わぬ邪魔が入ったけど、今度こそ敵地への進入だ!



「何で、そんな構えてんだ?奈美?」

「《魔術師》に脳みそを狙われてるからだよ……!」

「あー、奈美の頭の中って面白いもんな。あいつが興味持つのもわかる」


 納得してんじゃないよ!



「心配すんなって。誰が相手でも俺が守ってやるからさ」




 ……相変わらず胡散臭い笑顔だな。


 ま、《魔術師》におもちゃを取られるのは《暗殺者》としても尺だろうし、守ってくれるって言うのは本当かも。


 願わくば、ちゃんと私のままこのサイコロの中から出てこられますように!



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