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22. 夏休み:花火大会⑦




 なぜにアサシンモードフル作動中なのかはさっぱりわからん。けど、弁解する意欲なんて湧いて気もしない。何を言っても無駄だって、《暗殺者》の目が語ってる。

 硬直する私の前に《暗殺者》はゆっくりとしゃがみこむ。ただでさえその視線で心臓止まりそうだっていうのに、さらに視線が近くなって、心臓が狂っちゃったんじゃないかと思うくらい早鐘を打つ。



「俺、言ったよな?正義面して自分の身を犠牲にして誰かを助けようなんて、虫唾が走るって」

「い、言って、た……」

「なのに、なんでそういうことするわけ?」

「か、体が勝手に動いて……」

「勝手に、ねぇ……?」



 睨みつけられる中、何とか言葉を紡ぐ。無駄なあがきと知りながら、どうにかしてこれ以上怒りを買わないようにと言葉を選んでみる。その選択はどうやら正しかったようで、若干ながらも《暗殺者》の視線が緩む。

 もしかしたら、怒りを鎮めることができるかも?なぁんて、淡い期待を抱いた時だった。



「でも、奈美はうかつすぎるよ!処女なんて大したことないなんて、挑発するようなことまで言って……」



 ぎゃーーーーーー!ま、真白さん!!い、今そんなこと言っちゃったら、わ、私、本当にヤられちゃうからーーーー!!!



「へえぇ……?そんなこと言ったんだ?」

「え……や、そ、れは……」



 あ、逃げ道なくなった。とうとう口元に笑みを浮かべた《暗殺者》。悪党の不敵な笑み。これ、間違いなく死亡フラグでしょ。



「それ、俺がすげぇ欲しいものなんだけど、それって大したことないって?」

「えっと……それは、言葉の綾といいますか、時間を稼ぐためといいますか……」

「……本心から言ったわけじゃないんだ?」

「も、もちろん!」



 さすがにいくら擦れた私だからって処女をそんなに安売りしません!あの時はともかく男の気をそらすためだと思って、深く考えもせずに色々言ったからな……。

 ともかく!今は処女を軽んじるような言葉を本心で言ったわけじゃないということを《暗殺者》に訴えるために、ひたすら《暗殺者》の目を見つめ続けるしかない!めっちゃ怖いけど……でも、ここで目を逸らしたら、マジで殺される気がする!!!頑張るんだ私ーーー!!!

 しばらくそうしていると、《暗殺者》が一層目を細めながら、絶対零度の声色で囁くように言う。 




「次そういうことしたら、マジで容赦しないからな」


「……はい」




 死の宣告いただきましたー。あーーーー……ひとまずこの場は逃れられたみたいだけど、次こんなことがあったら色んな意味で終わる。肝に銘じておかなければ。



「はぁ……、頼むから、勘弁しろよな」



 やっとアサシンモードを解いた《暗殺者》は、がっくりと肩を落として下をうつむく。ついですっごく大きなため息をついていた。すごい脱力してんな。脱力したいのは、今までガッチガチのアサシンモードで命を狙われていた私のほうなんですけど……。



 なぁんて思っていたら、突然《暗殺者》に抱きかかえられた。



「うわっ!?ちょ、なにす……」

「大人しくしてろ」

「……はい」



 あ、真上からアサシンモードで睨まれた。暴れたら場所と人の目を気にせず食うぞ、と目が言っている。大人しくしておくしか、私には選択肢はなくなった。

 え、てか、どこに連れていかれるんだ?《暗殺者》の甚平は私の胸元にいまだにあるんですけど、この格好で《暗殺者》はあの人ごみを歩く気なのか??



「真白サン、浴衣の着付けできる?」

「え?あ、うん……」

「じゃあ、この奥のほうで奈美の浴衣なおしてあげてくれる?」

「もちろん」



 あ、なるほどそういうことね。確かに言われてみれば、私の浴衣よれよれで人前歩ける状態じゃなったわ、忘れてたけど。あ、もしかして甚平貸してくれたのもそういうことか。ブレザーの時もそうだったけど、そうならそうと言ってくれたらいいのにな。



「昇たちは、そこで待機」

「あ、あぁ……」

「わかってるよ……」



 後ろで私たちのやり取りを茫然と見ていた《勇者》と《魔王》にぴしゃりという《暗殺者》。あれ?なんか2人にも怒ってる?あの2人のおかげで助かったんだけど……、自分だけ駆け付けるの遅くなったからいいとこなくて拗ねてるのかな?

 そんなことを考えている間に《暗殺者》に木の陰まで運ばれておろされる。少し離れたところに移動してこっちに背を向けた《暗殺者》。私の浴衣のことを気遣ってくれたのはうれしいけど、なぜこの微妙な距離をわざわざ私を抱えて移動したんだ?謎すぎるぞ。



「はい、できた」

「ありがとう、真白」



 私が《暗殺者》の背中を眺めている間に、真白は手際よく私の浴衣を直してくれた。浴衣の着付けも手早く完璧にこなしちゃうなんて、さすが真白だよね。真白も、少しずれてた帯を直して、髪を簡単に結いなおした。必死に抵抗してたから浴衣も少し汚れてたけど、くらい中ではそんなに気にならない、と真白は笑っていた。



「なくなった下駄、探さないとね」

「そんなに遠くに落ちてないと思うんだけど……」

「3人に探してもらえばいいよ」


 《勇者》たちなら、きっと暗視能力とかもあるだろうし、簡単に見つけてくれるだろう。


「それより、奈美!小夜時雨君にちゃんとお礼いいなよ」

「え?」

「私も気が動転してて、奈美の格好に気を配ってあげられなかったから……」

「あぁ、別に、あんなの減るもんじゃ────」

「そんなこと言うと、また小夜時雨君に怒られるよ?奈美のこと、本気で心配してくれてたでしょ?」

「……」

「ほら、私は先に勇気君たちのところに戻ってるから」



 そう言って、真白は私の背を《暗殺者》のほうに押しやると、手を振りながら《勇者》たちのほうへ戻って行ってしまった。

 うーん……心配、されてたのかな?あれって……。私はひたすら身の危機しか感じられてなかったんだど。そんな相手にお礼……?

 んーーーー、なんか納得いかんけど……まぁ、真白を探すのを手伝ってくれたわけだし、お礼くらい言っとくか。



「あの、さっちゃん……」

「……」



 呼びかけると、無言で振り返る。私が着替えてる間に、《暗殺者》も甚平を着なおしたみたいだ。表情はなんかちょっとふてくされてる感じだけど、アサシンモードは完全解除されているようでほっとする。



「心配かけて、ごめんね」

「これからはこんな無茶するなよ」

「えっとー……善処します」



 素直にそう答えると、《暗殺者》はがっくりと肩を落とした。

 いやー、いざとなると勝手に体動いちゃうからなぁ。下手に約束なんかしちゃって、破った時の《暗殺者》の怒りを想像したら怖いし……。ただでさえ死の宣告受けてるんだから、これ以上下手なことは言わないほうがいいよね。

 あははは、と笑って誤魔化したら、《暗殺者》が恨めしそうな眼をしながら顔を上げる。あ、また睨まれるかも、と思ってたら、頭にポンッと手を置かれた。……よしよしされてる?



「口で言っても無駄だってわかってたけど。ま、そういうことなら俺にだってそれなりの考えがあるし」

「え?それってどういう────」




 パァンッ!!!




 《暗殺者》に言葉の意味を尋ねようと思ったら、空に響き渡る大きな音で、私の声は遮られた。音につられて空を見上げる。



「あ、花火」

「始まったみたいだな」

「せっかくだし、見て帰ろうか?」

「そうだな」


 あ、笑った。ちょっとは機嫌直ったのかな?それにしても、なぁんであんなに怒ってたのかなぁ??



「じゃあ、このまま昇たちとは別れて────」

「あ、でも2人きりはなしね」

「…………なんで?」



 手を引いて歩き出そうとした《暗殺者》の手を引っ張り返して止める。やっとちょっと機嫌が直ったかなと思ったけど、またその顔は不機嫌そうに歪んでいた。

 まぁ、約束してたら不満なのはわかるけどさ、今とあの時とじゃ状況が違いすぎるでしょ。


「いくら和解したとはいえ、真白と《勇者》と《魔王》を3人で放置しておくなんて不安すぎる!さっちゃんだってそう思うでしょ?」

「……」


 あー……すっごい納得いかないって顔していらっしゃる。でも、ここばっかりは仕方ないでしょ。《勇者》と《魔王》が喧嘩始めるとは思わないけどさ、気まずすぎる空気が流れてる中に真白一人を置いておくなんて、私にはできないよ!


「ゲームのお礼はちゃんとするからさ」

「……はぁ、今回は仕方ないか」


 ようやく諦めたようにため息をつく。うん、なんか今日はすごくよくため息ついてるね、さっちゃん。幸せ逃げちゃうよ?


「んじゃ、3人のところに戻ろうか」

「あぁ」




 返事をした《暗殺者》は当たり前のように私の手を取って、《勇者》たちのところに歩き出した。




 ……なんかすっごくぎゅっと握られちゃってて解くに解けないんだけど。


 もしかして、本当に心配してくれたのかな?


 今回はいろいろと気苦労をかけたみたいだし、手をつなぐぐらいスルーしておくか。





 こんな謎の状況のまま、大騒ぎだった夏は過ぎ去っていく。




<6章 終>



これにて6章、学園生活2年目夏が終わりです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいけたら幸いです。

引き続き明日から7章、学園生活2年目秋を更新します。

活動報告で春よりは短くなるはずとか言いながら、余裕で長くなりました。

すみません。秋はあんまり長くならない……と、いいな。

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