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14. 化学室②




「へー、あれが《魔術師》の生まれ変わりか」


「!!?」




 耳元で聞こえて来た声に、驚いて後ろを振り返る。


 目の前にあったのは《暗殺者》の顔だった。




 ちょっ!いつの間に背後に!?全然気配しなかったんですけど!!!


「しっ、声出したら見つかるだろ?」


 文句を言ってやろうと口を開いたら、すかさずその口を塞がれてしまった。突然あんたが現れなかったら、そんなヘマしなかったっつーの!


「……気づかれたか?」

「!」


 《暗殺者》の言葉に、ドキリとしながら視線を前に戻す。すると、《魔術師》は不機嫌そうな顔をしながら教壇から飛び降りているところだった。



「盗み聞きなんて、悪趣味だね」



 そういいながら一歩、こちらへと踏み出してくる。

 こ、ここで見つかったら、脳みそもてあそばれるの確定!?しかも、ここは奴のフィールド……逃げる暇もなく、手術台いきーーーー!!?



「奈美、じっとして」



 《魔術師》に捕獲される前に逃げようとしてるのに、なぜか《魔術師》に後ろからがっちりと羽交い絞めにされて動くことができない。

 ちょっ!私はあのマッドサイエンティストに脳みそ狙われてるんだからね!?逃げなきゃ、脳みそ改造されちゃーう!!!



「あいつ、こっちに来てないから」



 ……え?なんだって?



 我に返ってもう一度前を覗き込む。すると、《暗殺者》の言うとおり、《魔術師》は私たちが隠れている後ろのほうではなく、前の扉のほうへと近づいていった。そして、勢い良くその扉を開ける。



「うわぁっ!!!」



 どうやら前の扉のところで盗み聞きしていた人物は《魔術師》が扉を開けるのに気づかなかったようだ。直前まで扉に張り付いていたのか、《魔術師》が扉を開けた途端、勢い良く教室の中に倒れこんでくる。そして、私はその人物に見覚えがあった。



「あれは……巻駒連?」



 ツンツンした短い髪の毛に、がっちりした体つきで思いっきりスポーツマン風の男性。それは私が冬休みに古本屋でぶつかった、ゲイ教師その人だ。

 さすがに《魔術師》も盗み聞きしていたのが教師だとは思わなかったのか、ちょっと面食らった顔をしている。



「……何やってるんですか?こんなところで」

「や、その……ちょっとこの教室に用事があってだな……」

「あれ、確か先生は、1年の社会を担当してらっしゃいますよね?」


 真白、1年の先生の、しかも担当教科まで覚えてるなんて、さすがだ。


「え!?ま、まぁ……そうなんだが……ほ、他の先生に頼まれてな!ほら、新任教師はいろいろと立場も弱いんだよ」


 もっともなことを言われた巻駒は視線を泳がせながら言葉を捜す。いやいや、今思いついた言い訳なのがばればれだから。《魔術師》だって、ほら、めちゃくちゃ疑わしげな目で巻駒を睨んでいる。


「……」

「そ、それよりお前たち!次の授業が始まるから戻ったほうがいいぞ!」


 巻駒は何とか《魔術師》の気をそらそうとしているのか、引きつった笑顔で時計を指してみせる。時間としては確かにそろそろ次の授業が始まる時間だ。


「あ、本当だ。児玉君、教室に戻ろうか」

「……わかった」


 《魔術師》は疑わしい目で巻駒のことを見続けてたけど、真白に促されて、化学教室を出ていった。



「ふー……危なかった」



 2人が教室を出ていった後、もう誰もいなくなったと思っている化学室で巻駒は額に浮かんでいた汗をぬぐっていった。そしてあたりを見渡して誰もいないことを確認すると、そのまま教室を後にしていった。


「あの人、ここで何してたと思う?」

「さぁ?俺が来たときあいつもいたけど、ここを一生懸命覗こうとしてたな」

「でも、なんで……?」


 真白たちがいなくなった後、すぐに出て行ったってことは、化学室に用事があるっていってたのはやっぱり嘘だ。

 たまたま通りかかって2人が話してるのを見かけて盗み聞きしようとした?いや、教師なら無断で特別教室の中にいる生徒を見つけたら、真っ先に注意しそうだけど……。中にいたのが真白と天才児だから興味がわいて盗み聞きしてたのかなぁ?教師って言ったって、結局人間だから噂とかはスキャンダル的なものに興味を惹かれちゃったのか?


「ま、あいつのおかげで俺たちは見つからなかったし、よかったんじゃね?」



 暢気に笑う《暗殺者》。こっちが見つかりそうになったのはあなたが突然現れたからです。



「てか、君もだよ。なんでここにいるわけ?」

「俺は奈美が心配だったから、後をつけてきたんだよ。なんか珍しく深刻そうな顔をしてたし」

「珍しくは余計なお世話で……って」



 文句を言おうと改めて《暗殺者》に向き直る。観覧車のときよろしく、容赦なく文句をまくし立ててやろうって意気込んでたんだけど……。



 あることに気がついて、思わず言葉を止めてしまった。



「ん?どうした?」

「……なんか、いつもと違くない?」

「あ、気が付いた?」



 私の問いに、うれしそーな笑顔を浮かべて両手を開いてくるりとその場で一回転してみせる《暗殺者》。モデルにでもなったつもりか。

 まぁ、それはどうでもいんだけど、やっぱ、こいつ……。



「奈美がジャラジャラしてるのは無理って言ってたから、アクセの数減らしてきた」



 《暗殺者》の言うとおり、数日前には体中についていたアクセやらチェーンやらがなくなっていた。指輪も右手に1個だけだし、ピアスも両耳の耳たぶに1つずつと右耳の軟骨に1つ。それでも多いだろって感じではあるけど、まぁ、以前の《暗殺者》と比べたら激変したといえるだろう。



 しかし……こいつ、私が言ったから、わざわざこんなことしたっていうのか……?



「全部気に入ってたから、どれ外すかすげぇ迷って時間かかったんだよ。でも、これならジャラジャラって感じじゃないだろ?」

「……」

「あ、今ちょっとときめいた?」

「んなわけないでしょ」

「照れなくてもいいって」

「断じて照れてない」



 まったく、誰が照れるかっつーの。むしろここまでする《暗殺者》の手の込みようにあきれちゃってるところだ。ここまでして人をからかいたいなんて、性格悪すぎでしょ。

 まぁ、見た目も多少はマシになったし、これで他の人から遠巻きにされることが少しは緩和されればよしとするか。



 なぁんて、淡い期待を抱いてたんだけど、次の日登校してみたら、前日以上に遠巻きにされた。


 それも、クラスメイトからだけじゃなくて、すれ違う生徒全員に。


 ……何で!?



 苦悩しながら廊下を歩いてたら、久々に会った絹島さんに「猛獣使いメイドへの昇格おめでとう」と意味不明な言葉でお祝いされた。

 事情を聞いてみると、どうやら去年の学園祭以来、私のことをひそかに「真白に仕えるリアルメイド」と呼んでいたやからがいるらしいのだが、どうやらテスト前の《暗殺者》とのやり取りを聞いていた生徒がいたらしく、私の言ったとおりに《暗殺者》が身なりを改めたことで、「猛獣使い」が追加され、「真白に仕えるリアル猛獣使いメイド」へと名称が改められたらしい。




 だから、違うんだってば!!!




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