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10. アミューズメントパーク⑦




「それより」

「な、何?」



 心の中で《暗殺者》の性格の悪さを嘆いてたら、なぜか隣に移動してくる《暗殺者》。んでもって、なぜかさっきよりもぐいっと顔を近づけてくる。

 こいつ、視力悪いのか?だったらメガネくらいかけろ。



「さっき、初エッチ云々の話、してたよな?」

「……まぁ、言った、かな?」



 《暗殺者》に言われて、自分がさっき喚き散らした内容を思い返してみる。

 あー……、そういえば、そんなことも口走った気がするな。白熱しすぎて今まで胸に秘めていた大人的な階段の野望まで口に出してしまってたなんて、うかつすぎるな、私。

 この野望、記憶が戻った時に新しい人生のこと振り返ってたら、思いついたんだよね。どうせ生まれ変わったなら、学生のうちに好きな人と、しかも初めて同士でっていう、リアルなドキドキ感を味わってみたいなぁ、なんて……。

 まぁ、野望なんてたいそうな言葉使ったけど、そうなったらいいなぁ的なくらいにしか思ってなかったら今まで深く考えなかったけどさ。



 それはいいとして……、なんで、《暗殺者》、そこピックアップした?







「その相手、俺にしとかない?」





 

 …………。


 …………。


 …………わかった、理解した。




「君は8割増しで凶悪な性格をしている上に、頭がイッちゃってる残念キャラだ!」



 名探偵よろしく、ビシィッと人差し指を突き出してやると、《暗殺者》は茫然とした表情を浮かべる。

 ふっ、その反応は図星ということだろう?前世で【今キミ】をやりつくした私を誤魔化せると思うな!?



「あぁ、8割増しって、あんたが言ってたゲームのキャラと比べてるのか。そいつがどんな性格してたかは知らないけど、俺は頭イってないし、正真正銘、これが俺のひょーじゅん」



 こいつ、絶対”標準”って言葉の意味わかってない。たとえ言葉の使い方が正しかったとしても、私は絶対そんな標準認めないからなぁ!

 だいたい、さっきまで散々気に食わないとか言ってた相手にそんなこと言うなんて、また睨み攻撃よろしく、からかって遊ぼうって気持ちが丸見えなんだよ!そんな手に引っかかるような純真さは、前世で捨て去ってきたんだよ!!



「あ、言っとくけど、からかってるわけじゃないからな。俺、あんたのこと気に入ったんだよ」



 ニコニコしながら、さらに顔を近づけてくる。

 いやいや、そんな楽しそうな顔で言われても、説得力ゼロですから。この状況をただただ楽しんでんだろ、おまえ。



「……全然信じてないって顔してんな」

「あったりまえでしょ」

「今まで誤解してて毛嫌いしてたけど、実際しゃべってみたら面白いやつだなって思ったんだよ。なんて言えばいいかなぁ……あ、ほら、かわいさあまって憎さ100倍の逆バージョン的な?」



 つまり、憎さ余ってかわいさ100倍とい言いたいのか?そんな理屈が通るのかどうかは知らんが、1つだけ言えることは、こいつが私に抱いている”かわいさ”がからかいの対象、つまりおもちゃ的な意味であることは間違いない。

 そんな、ぺらっぺらの軽い気持ちのやつに、私の野望を打ち砕かれてたまるかっていうんだ!



「第一!今まで君が言ってきたことが、絶対にありえないけど、もしも仮にもまかり間違って本当だったとしても、重要なポイントを君は見落としてる」

「何?」

「私、初めての相手は童貞がいいなって言ってるんだよ?」

「うん、知ってる」



「君、どぉぉぉぉ見たって童貞に見えないから」


 

 校則無視しまくった髪といいアクセといい、人をおちょくる性格といい、こうして羞恥心の片りんも見せずに襲い掛かってこようとする、そのすべてが、チャラいをそのままに具現化したようなもんだ。こんなチャラ男が童貞なんて、一体誰が信じるっていうんだ。



「見た目で人を判断するのはんたーい」

「そっちだって私に対して同じようなことしてたでしょうが」

「冗談だって。こんな見た目だけど、チャラチャラとかしてないから。前世の記憶があるせいか、今までぜーんぜんそんな気分にならなかったんだよな。こっちの女って子供っぽいし。だから、《創造主》に誓って、まだ童貞」



 両手を挙げて降参のポーズをとりながら、ニコリと首を傾げる《暗殺者》。

 こいつ…………、前世ではかなり遊んでいたな。どんだけ遊び倒したらそういう思考になるんだよ。童貞捨てきれないまま悩みぬいてるこの世界とついでに前世の世界の多くの男子たちに謝れ!



 なぁんて心の中で悪態ついてたら、《暗殺者》が挙げていた両手を私の背後の窓に伸ばしてきた。



 む、これは壁ドンならぬ……窓ドン?って、そうじゃなくてぇぇぇ!な、なんかちょっと気を抜いてたら逃げ場を完全に断たれてしまった!

 目の前に迫る《暗殺者》の顔には、相変わらずにっこり笑顔が張り付いてる。けど、さっきと比べるとなんか……、目が、マジ?

 やばいやばいやばい!な、何とか話をそらさねば……!!



「今世では、すげぇ好きになった相手に全部捧げようって決めてたんだ」

「へ、へぇ……なかなか立派な心構えだね」

「だろ?」

「いつかそんな人に出会えることを、私も心の底から祈っててあげるよ」




「祈らなくていいよ。もう出会ったから」


「!!」




 し、しまった……!隙をついて《暗殺者》の腕の下をすり抜けて反対側の席に移動しようとしたら、その前に腕をつかまれてしまった!!!と、逃走失敗!?おまけに、体を下にずらそうとしたせいで、《暗殺者》が上から覆いかぶさるような大勢になって、いよいよ逃げ道ゼロなんですけど!?

 背中をつぅっと、冷汗が流れる。そんな私の様子を楽しむかのように、《暗殺者》は笑みを浮かべた顔をゆっくりと近づけてくる。



「いろんなプレイの中に、観覧車の中でってのは入ってなかったの?」

「ない!そんなのない!!大体、前世の記憶持ってて童貞なんて、そんなの似非童貞だ!」

「それを言うなら、そっちだって似非処女じゃん」



 うっ……、た、確かにその通りなんだけど……って、言いくるめられてる場合じゃない!なんとか、ゴンドラが下につくまでに時間稼ぎしないと……。今掴まれてる腕にこもる力も半端ないし、こんな奴相手に力比べで私の貞操守りきる自信ないって!



「わ、私は初めて同士のドキドキ感に興味があるのであって、そんな余裕な顔して襲い掛かってくる奴は私の理想じゃない!」

「あぁ、そういこと?じゃあ、ドキドキ感だせばOKだよな」

「え……」



 な、なんか……勝手に了承したみたいな流れになってない!?や、てか……あ、《暗殺者》の顔が……。さっきまでふざけたような満面の笑みを浮かべてたくせに、それを消して、なんかちょっと雰囲気のある顔というか……こっちを、細めた目でじぃっと見て、頬もちょっと赤く染まってて……。



「俺も、初めてなんだ……」



 こ、こいつ!いけしゃあしゃあと、童貞ぶった芝居まで始めやがった!しかも、その芝居が真に迫ってて、なんかこっちまでちょっとドキッとしちゃったじゃんか!なんて恐ろしい奴なんだ……!

 って、感心してる場合じゃなくて!!!こ、これは本当の本当に……!



「ちょ、まっ……!」

「でも、一生懸命がんばるから」



「やさしくしてね?おねーさん」





 うぎゃああああぁぁぁぁ!!!!






■ □ ■






 数分後。




「な、奈美!!?」

「はぁはぁはぁ……」



 一足先にゴンドラを降りていた真白が、驚いたように駆け寄ってくる。そりゃ、息を切らして髪もぼさぼさで服もよれよれでゴンドラから出てきたら、驚くよね。

 真白と一緒に私たちを待っていた《魔王》も訝しげな表情で、私の後ろからやってきた《暗殺者》のほうを見る。


「隼人、お前たちの乗ってたゴンドラ、異様に揺れてたけど、なんだったんだ?」

「奈美がすっげぇ激しく動くから……」



「誤解招く発言すなー!」



 大慌てで《暗殺者》の言葉をさえぎる。今の発言で、真白に変な誤解されたらどうするんだよ!?



 私は、必死で貞操を守り抜いたっていうのに!!!



 えぇ、そうですとも。私はやり切りましたとも。あの狭いゴンドラの中、《暗殺者》相手に奮闘しましたとも。蹴ったり殴ったりはもちろん、かみつこうともしたし、ひっかき攻撃だって見舞ってやろうとしましたとも。

 全部、見事によけられたけどさ、なりふり構わず暴れまわったから、《暗殺者》も私を拘束し続けながらいろいろやるのは無理だったみたい。ゴンドラの中だったから、ちょっと揺れてたしね。普通の密室だったら、あぁは行かなかっただろうな……。



「激しく動いてたのは本当のことだろ?すげぇ、必死に激しく動いて、俺から逃げてたじゃん」

「君が言うと、なんか無駄に卑猥に聞こえるんだよ!」

「それは奈美の思考が卑猥だからだと思うけど?」



 こ、こいつ……!私の言うこと言うことあっさりと言い返してくれちゃって!



「てか、奈美があんまり本気で抵抗するから、俺も途中でマジになりそうで危なかったんだからな」

「……つまり、やっぱりからかってやがったな」

「奈美のこと気に入ったのは本当だけど、マジな相手に無理やりやろうとするほど下種じゃないって。しかも観覧車の中でとか。やっぱ初めてはベッドの上がいいだろ?」

「聞かれても困るんですけど」

「え?観覧車の中でも大丈夫だった?奈美ってなかなかマニアックな趣味してんだな。見られてもえ────」

「黙れ黙れ黙れだまれーーー!」



 《暗殺者》の言葉を遮ってその口を無理やり塞ぐ。

 こ、こいつ……!真白の目の前でなんて発言を!!!純真で純白な真白の耳を汚すなんて、絶対させてたまるか!!

 つーか、なんでこいつの言動いちいち危ういんだよ。そのレベルは私にリアルな恋愛相談してくる《吟遊詩人》をはるかに凌いでいる。しかも、からかいついでにそんなこと言ってるのが質悪すぎる!!

 これは解散するまで、こいつの口を塞ぎ続けておく必要が……。



「……なんか、あの2人すごく仲良くなったみたいだね」

「そうだな」



 真白と《魔王》のそんな会話が聞こえてくる。《暗殺者》にもそれは聞こえてきてたのか満足そうにニコニコと笑っていた。





 帰り際、《魔王》と《暗殺者》と別れた後、必死に真白に弁解してみたけど、「照れなくてもいいよ」と優しげな笑みとともに気を使われてしまった。


 


 誤解なのにーーーーー!!!!




ごめんなさい。何となく謝りたい気分だったから謝っとく。

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