6. アミューズメントパーク③
「この辺で少し休憩するか」
「そうだね」
ぶっ続けでアトラクションに乗っていたので、さすがに休憩しようということになった。《魔王》の提案で、近くにあったフードコートで休むことにする。
最初のコースター同様、真白と《魔王》、私と《暗殺者》が隣同士っていうのがお決まりの組み合わせになったわけなんだけど、ついでに真横の《暗殺者》から常に睨まれてるっていうのもデフォルト化していた。
私なんか睨んでいる暇があったらアトラクションを楽しめばいいのにね。てか、宙づりでいったん停止するようなアトラクションでも、ひたすらこっち睨んでくるって……どんな神経してんのよって話ですよ。
転生組は人並み外れた能力を持ってるっていうのは何となくわかるけど、まさか、《暗殺者》は現世でもそれに準じる仕事についてるなんてことありませんよね?
「おい、隼人、どこに行くんだ?」
「トイレ」
4人席に座ろうとしていたら、《暗殺者》だけこっちに来ずに、どこかへ歩いていく。《魔王》の問いに簡潔に答えると、そのまま人ごみに消えて行ってしまった。
まったく、とことんマイペースだな。こっちは誰かさんのせいでたーんまり精神的疲労が溜まっているところなんだけど、まぁ、そんなのお構いなしですよね。わかっていますとも、コチンチクショウ。
「私は喉渇いたから飲み物買ってくるね。奈美の分も買ってくるけど何がいい?」
「ジンジャーエール、お願い」
「鬼勢君は?」
「俺は大丈夫だ」
「じゃあ、行ってくるね」
笑顔でそういった真白がスタンドのほうへかけていく。真白は私と違ってまだまだ元気みたいだ。私も《暗殺者》の睨む攻撃を受けてなかったら、あれくらい元気にパークを満喫してるはずなんだけどな……。それもこれも、全部《暗殺者》を連れてきた《魔王》のせいだよ!!
「ねぇ、何であいつを連れてきたの?」
「ん?隼人のことか?」
「そうだよ!態度悪くて無愛想なんて、全然ダブルデート向きじゃないじゃん!」
「べ、別に、俺はデートのつもりだったわけじゃ……」
いやいや、頬を染めて照れてほしいわけじゃないから!そこに反応してほしいわけじゃないから!全く、この期に及んでデートのつもりじゃないとか意味わからんこと言いよるし。こんなのにいちいち反応してたらきりがないから、スルーだ、スルー!!
「で、なんであの後輩君を連れてきたわけ?」
「何でも何も、あいつがここのペアチケットをくれたんだ」
「え?そうなの?」
「あぁ、それで真白とお前を誘ったらどうだって言われて……」
え、つまりこのシチュエーションのお膳立てをしたのが《暗殺者》ってこと?あの態度からしていやいや《魔王》に引っ付いてきたとばかり思ってたのに……一体、あいつ何考えてるの?
やっぱ真白に対して好意は抱いてるけど、それをはるかに凌ぐ勢いで《魔王》への愛が優ってるから、《魔王》のために協力してあげてるってこと?
「まぁ、隼人はここに遊びに来たかっただけだろう」
いやいや、絶対違うでしょ!遊びに来たかったくせに人のこと睨み続けるとかあり得ないから!何でそんなかわいい理由で決め付けちゃってるの!?なんか、《魔王》ってこんな常に獲物を狙ってるような狼みたいな雰囲気かもし出してるくせに、結構抜けてるというか……おおらか?まぁ、たまに子犬とダブるような狼だもんな。ヘタレだし。
「おまたせー」
両手にジュースをもった真白が笑顔で席に戻ってくる。やー、もうなんか真白って本当にいちいち眩しいくらいにかわいいんですよね。《魔王》と《暗殺者》のせいで廃れていた心を洗い流してくれるわー。
もうちょっと《魔王》から《暗殺者》のこと聞きたかったけど、真白が帰ってきたなら仕方ないよね。この笑顔でたっぷりと癒されて、最後まで体力が持つように回復させていただこう。
それにしても、ここまで一緒に行動してるっていうのに、《暗殺者》の謎は深まるばかりだわー。
このまま迷宮入りコース?まぁ、今回のデートをお膳立てしてくれるくらいなんだし、《魔王》の恋の応援をしてるって考えてもいいよね?それなら私に不都合はないし、そのまま迷宮入りさせとくかなー。できることなら、深くかかわりたくないしね。
■ □ ■
《暗殺者》が戻ってきた後、休憩ついでに腹ごしらえも済ませちゃって、さらにアトラクションを制覇しにかかる。ご飯を食べた後だから絶叫系は避けて、カートに乗ったり、エイリアンハウスに入ったりした。エイリアンハウスっていうのはお化け屋敷とシューティングゲームが合わさったやつで、なかなか面白かった。
え?お化けは苦手じゃなかったかって?エイリアンはお化けじゃありませんからね。私がともかく苦手なのは和風の幽霊系であって、ゾンビとか西洋風なのも結構平気だったりする。というわけで、がっつりお化け屋敷ーって感じのはスルーさせてもらった。
お腹が落ちつたところでまた絶叫系に乗りまくってたら、あっという間に時間は過ぎていく。気が付いたときには太陽がだいぶオレンジ色に染まっている時間帯になっていた。
「人もだいぶまばらになってきたね」
真白の言う通り、あたりを見渡してみると数人の人がちらほらと出口に向かって歩いてるくらいで、ここから見る限りアトラクションも動いてるものはあんまりないみたいだ。そもそも今日はお客さんが少なかったみたいだし、閉園までまだ少し時間はあるけど、私たちもほとんどの乗り物を乗りつくしてしまったし、そろそろ帰り時かもしれない。
「そだね。次で最後にしとく?」
「そうだな……」
《魔王》はかぁなり名残惜しそうな顔をしながら私の問いに答える。真白とこんなに近くに長い時間一緒にいたのって初めてだろうし、すごく楽しかったんだろうねぇ。いっつも基本無表情のくせに、パークにいる間、顔緩みっぱなしだったもんなぁ。
呆れ半分、微笑ましさ半分で《魔王》を見ていたら、今日は滅多に見せなかったしかめっ面を浮かべる。
どうしたんだ?なんか真白のほうをちらちら見ながら話しかけたそうにしてるけど、なんか躊躇してる?
「……」
「わ、わかってるよ……」
あ、しびれを切らした《暗殺者》になんかどつかれてるし。一体なんなんだ?
首をかしげる私の前で、《魔王》はパンフレットを見ながら最後の乗り物を一生懸命考えている真白に一歩近づく。
「そ、その……最後は、あれに乗らないか?」
「あれって……?」
《魔王》が指さしたほうを私と真白は同時に振り向く。そこにあったのは観覧車だった。
あーん……なるほどね。いろいろ合点承知。まぁ、確かに最後の乗り物の定番っちゃ定番か。これがデートならなおさらのこと。《魔王》がさっきまで言い渋っていたのも頷ける。
てか、《暗殺者》に促されたってことは、このチョイスにも奴が一枚かんでるってことか?
「今乗ったら夕日がきれいに見えそう」
真白の反応も上々。《暗殺者》の計らいなのかどうかはともかくとして、せっかく《魔王》が勇気を振り絞ったんだから、最後くらいちょっと背中を押してあげようかね。
「いいんじゃない?そうと決まればさっさと移動しよう」
「あれ?なんで奈美そんなに張り切ってるの?」
「どうせだったら夕日がきれいなうちに乗りたいじゃん」
真白の手を取って先陣切って歩き出す。別に夕日を見ることにそんなに関心があったわけじゃないけど、真白にはそれらしい理由を伝えておく。ま、よりいい雰囲気であることに越したことはないだろうから、夕日が沈んじゃう前に乗りたいしね。
ちょっとおかしそうに笑いながらも、真白も私に合わせて早足で観覧車へと向かった。
観覧車に到着すると、幸いなことにあんまり人が並んでなかった。今列を作ってる人もすいすい前に進んで行ってるし、これは5分くらいで、順番が回ってきそうだな。
「空いててよかったね」
真白が嬉しそうに笑う。その笑顔に《魔王》は「あぁ」とだけ短い返事をするだけ。なんだか上の空だ。まぁ、理由は何となく察するけどね。きっと、どうやったら2人きりでゴンドラに乗れるか考えているんだろう。
私たちの前にいるのが残り2組になった頃には、目に見えて焦ったように真白のほうを見たり視線を逸らしたりしている。挙動不審すぎるぞ、《魔王》。
「次の方、どうぞ」
とうとう私たちの番が来てしまって、《魔王》はなんも言えずじまいで、ゴンドラへと乗り込んでいく。全く、こんな大切な場面でちゃんと詰め切れないなんて、呆れちゃうね。
《魔王》に続いて真白がゴンドラに乗れるように道を譲る。そして、真白がゴンドラに乗り込むのを見届けて、私は列の先頭にとどまった。
「あれ?奈美?」
当然、私も後に続くんだろうと思っていた真白がゴンドラに乗り込んで首を傾げる。
「私は次のゴンドラに乗るから」
「え、みんなで乗るんじゃ……」
「また、あとでね」
半ば強引に言葉をさえぎって手を振る。その間に係りの人が《魔王》と真白の乗ったゴンドラの扉を閉めた。中から、驚いた真白の顔と、そして《魔王》の顔が見える。ばっちりと目が合うと、すごく意外そうな顔をしていた。
まぁ、今まで散々協力しないって豪語してたのに、こんなことしてるんだから驚くか。ダブルデートの話に乗った時点でその発言は撤回してたつもりだったんだけど、《魔王》は案外頭が固いというか律儀というか……。ま、これくらいはパークのただ券くれた分のお礼のおまけとして丁度いいでしょう。
「次の方、どうぞ」
自分の対応に自己満していたら、私の番がやってきたようで係りの人に声をかけられる。私は観覧車にそんなに乗りたかったわけじゃないんだけど、まぁ、ここまで並んじゃったし、今抜けたら係りの人にも迷惑かもしんないし、夕日も本当にいい感じの傾き具合だから、乗っちゃうか。そう結論づけて、ゴンドラに乗り込む。
あ、考えてみれば、1人で観覧車って初めてかも。
って、1人で観覧車乗る人とかいるのかな?うわっ、もしかして私、今後ろに並んでるお客さんに、超寂しい奴だと思われてる!?それ、なんかすっごい嫌だ!!
私は成り行きで1人で乗ることになっただけであって、決して一緒に乗る人がいないというわけでは……いや、いないんだけど、でも別にそれを寂しいと思ってるわけではなくて、ってなーんでこんな必死になって弁解してるんだ……私。
あれだな、前世で散々「1人でちょー寂しそう」みたいな視線をいろんなところで浴びまくってたからトラウマになってるんだろうな。心の中で弁解したところで意味なんてないのにね。
と、ともかく、気を取り直して夕日でも眺めて心を落ち着かせ────
そんなことを考えてたら、ゴンドラがぐらりと、大きく揺れた。
「ん?」
「……」
反射的に入り口のほうに目をやると、今、私が座っているゴンドラに乗り込んできた人物と目が合う。
その人物はなんと、《暗殺者》だった。
そして、迷うことなく淀みのない動作で私の向かい側の席に座る。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
「いってらっしゃいませー」
暖かな係りの人の声と扉の閉まる音で、やっと現状把握。
私、《暗殺者》と一緒に観覧車乗ってます。
あれ?どうしてこうなった……?




