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5. アミューズメントパーク②




 《魔王》がくれたペアチケットは、太っ腹なことに入場券と乗り放題チケットが一緒になってるものだった。このアミューズメントパーク、ともかく絶叫系が多いから来てみたいとは思ってたけど、結構値段高いから今まで来れてなかったんだよね。《暗殺者》とサシで話すチャンスかもと思ってきたけど、そんな隙なさそうだし、ここはもうパークを遊びつくして帰るしかないよね!!



「じゃあ、最初は何に乗ろうか?」

「そうだな……」



 真白が入り口でもらったパンフレットを広げて、パーク内の地図を見る。お客がパーク全体をまんべんなく歩くように、目玉の乗り物はいろんなところにちりばめてあった。

 まだ開園してそこまで時間もたってないし、今日はそこまで混んでないみたいだ。もし混み混みなら目玉のやつからどんどん潰して、あとで空いているのに乗るのがいつもの戦法だけど、今日はそこまで焦らなくても大丈夫かも。

 んー、だとすると、やっぱ近場から順々に責めていくべきかな?ここから適度に近くて序盤の準備運動的な感じで丁度よさそうなのは……。



「これかな」「これ」



 私がパンフを指さすのと同時に、他の方向からもにゅっと指が突き出された。その指も、私が目を付けた手ごろな絶叫系のアトラクションを指している。反射的に顔を上げると、パンフを指さした《暗殺者》とばっちり目が合う。


「……」

「……」


 ま、まさかの《暗殺者》と被りとは……。てか、偶然被っただけなんだから、そんな睨んでこないでください!



「2人とも同じの選んだみたいだし、それにしよっか。鬼勢君はどう?」

「あぁ、俺は何でもいい」

「じゃあ、いこっか」



 真白が音頭をとって、アトラクションに向かって歩き出す。《魔王》と真白が並んで歩いて、私はその少し後ろを、さらに数歩離れたところを《暗殺者》が歩いてたんだけど、その間も背中にひたすら鋭い視線が浴びせられるのを感じる。



 恐る恐る振り返れば、案の定こっちを睨んでくる《暗殺者》の視線。



 もー……なんでそんな睨んでくるんだよ。さっきのアトラクションが被ったこと根に持ってるのか?そんなに私と被ったのが嫌だったのか?もう被らないように気を付けるから許してくれー。


 

 そんなこんな思いながら歩いていたら、目当てのアトラクションの前についた。入り口に近いアトラクションだから多少人はいたけど、5分も待たずに乗れそうだ。

 私たちが乗る番になって、真白は一直線に一番前の席に向かっていく。真白、本当に絶叫系好きだよね。小走りで懸命に一番前の席を取ろうとする真白が、かわいすぎて仕方ない。



 なぁんて、微笑ましく真白の姿を見守っていたら、《魔王》が真白の後ろの席に座るのが視界に入った。

 おいおい、やつは何をやっているんだ!?



「ちょい待ち」

「なんだ?」

「なんで当然のように真白の後ろに座ろうとしてんの?」

「いや、まだ1つ目の乗り物だし……」



 前の真白に聞こえないように問い詰めると、ちょっとたじろぎながらそんな答えを返してくる《魔王》。いやいや、君の場合、このまま隣に乗るタイミングなくしちゃって、そのままずるずる引きずっちゃうタイプでしょ?今までさんざん話すチャンスあったのに1人でうじうじしてた君は、まさにそういうのに陥っちゃうタイプだよね?なぁんでそんなことがわかんないのかな、この《魔王》様は……。


「……ヘタレめ」

「お、おい……」


 少し強引に《魔王》の手を引いて、真白の後ろの席からどかす。素早く私がそこに座って、前に座っている真白に声をかけた。


「真白、私一番前はさすがに怖いから後ろに乗るね」

「え?奈美ってジェットコースター大好きじゃ……」

「1つ目だからさ、ちょっと肩慣らししたいし」

「そっか。鬼勢君は一番前平気?」

「あ、あぁ……」


 私に席を取られて行き場なく立ち尽くしていた《魔王》に真白が笑いかける。真白に隣を進められて断るなんて、《魔王》がするはずないよね。ちょっと照れながらも《魔王》は真白の隣に座った。

 まったく、世話が焼ける……。ここに来るのに誘っちゃってるんだから、腹くくってさっさと隣に座ればいいのにね。そりゃ私だってできれば真白の隣に座りたいけどさ、そんなことしたら何のためにわざわざ《魔王》と来たのかって話になっちゃうし。一応ただ券もらってる身だから、その辺に報いるぐらいの行動はしないと罰が当たっちゃうだろうしね。



 なぁんて、《魔王》にあきれ返りながらシートベルトを装着していたら、《暗殺者》が何も言わずに私の隣に座った。



 え?隣に乗ってくるの???てっきりほかの席に乗るもんだと思ってたんだけど……。つか、すっげぇ、こっち見られてるんですけど……。や、さすがにそんなに至近距離で睨まれるのはきつ過ぎる……。ひ、ひとまずこっち睨むよりも、シートベルト締めたほうがいいと思うよ?



「お客様、シートベルトをお締めください」



 ほら、スタッフさんに注意された。声をかけられた《暗殺者》は言われた通りシートベルトを締めるため、いったん私から視線をそらす。そして、その作業が終わると、またさっきと同じように私を睨み始めた。



 なんなんだよぉ、本当に!何か言いたいことがあるならちゃんと言ってくれよ!



「走行中はしっかりとレバーにおつかまりください」



 出発のアナウンスが流れて、コースターがスタートする。さすがに《暗殺者》も前を向くかなぁと思ってたら、コースターが最初の坂を上り始めても、ひたすらこっちをじぃっと睨んでいた。




 え、……ちょっと待って、もしかして、ジェットコースター乗ってる間、ずっとこの状態?





 嫌な予感がよぎるのと同時に、コースターが勢いよく走り出した。





 ■ □ ■





「奈美、もしかして今日調子悪いの?あのくらいでへばるなんて……」



 1つ目のコースターを降りた後、ぐったりとしている私に真白が心配そうに声をかけてきてくれる。どうやら、はたからみても私は今へばっているように見えるらしい。



「いや、ジェットコースターにへばったわけじゃないんだけど、ちょっと、ね……」



 正直、絶叫している暇なんてありませんでしたよ。なんか隣からものっすご睨まれまくってたんだもん。最初の坂をおり始めても、すっごい急カーブになってみんな叫びまくってる時でも、お隣の《暗殺者》さんはまぁったく顔色1つ変えず、こっちを睨み続けていらっしゃいました。

 あんな中でどうコースターを楽しめと?私、あんな真横で睨まれて全く気にしないほど高いスルー能力持ってないんですけど。


「休みたくなったらすぐに言ってね?」

「うん、ありがとう」


 やさしげに微笑みかけてくれる真白の笑顔だけが私の癒しだよ。こうして真白と話してる間も執拗に睨みつけられているんですけれどもね!

 ここがRPGよろしくスキルなんかが手に入る世界だったら、私はとっくの昔に威圧耐性なんてスキルを身に着けて、とっくに最高レベルまで上がっちゃってたところだよ。実際には一向に耐性なんかできてくれそうにないんだけど……。



「じゃあ、次の乗り物は……」

「これなんか、どうだ?」

「うん、面白そう!あ、でもこっちでもいいかなぁ……」



 真白と《魔王》は2人でパンフレットを開きながら、楽しそうに次の乗り物を決めている。

 あんなに引っ込み思案でネガティブで真白を影からこっそり見てることしかできなかった《魔王》が、真白と隣り合って普通に話しているなんて……。人って変わるもんなのね。

 《勇者》には申し訳ないけど、このまま2人がいい感じになって付き合うようなことにあることもあり得るかもな。私は手を貸したりはしないけど、あえて邪魔もしたりしない。

 だって、私の目的はそもそも《勇者》と真白をくっつけることじゃなくて、《冥王》の付け入る隙を与えないこと、だからね。


 一応友達って言える間柄なのに薄情かもしれないけどさ、私は”冥王エンド”を回避できるなら、他のどんな結果になったって全然かまわないんだよ。

 結局、自分の人生が一番大事で行動してるだけ。真白と友達やってるのだってそれが理由といっても過言じゃないんだから。《冥王》のことがなかったら、私は真白と友達にすらならなかっただろうし、まして、体を張ってまで助けたりなんかしない。正真正銘、薄情な人間なんだから。



「奈美ー、行くよー!!」

「あ、うん……」



 すでに次のアトラクションへ歩き出した真白に呼ばれて我に返る。

 なんか、真白が襲われるようになって以来、自分の薄情さとかダメさとか情けなさを痛感して、たまに沈み込んでる自分がいる。どんなに落ち込んだところで、そんな自分を変えてやろうなんて気概がわいてくるわけでもなく、それはひたすらただただ時間を浪費する行為にしか過ぎないのにね、やれやれだ。


 気を取り直して真白たちを追いかけて歩き出す。

 《暗殺者》のせいでアトラクションすら楽しめそうにはないけど、せっかく《魔王》と真白がいい雰囲気なんだ。せめて2人の邪魔にならないように振る舞わなきゃね。 



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