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2. 屋上




「離せって!」

「残念ながら、君のお願いを聞いてあげることはできないんだ」



 屋上に到着すると、腕を完全に固められて地面に倒れこんでいる《勇者》と、がっちり彼を押さえ込んでいる《女騎士》の姿。もしかして《女騎士》最強説?



「やぁ、平野君、来たね」

「お待たせ」

「ひ、平野!お前からも馬場に俺を放すようにいってくれ、逃げねぇって言ってるのに離してくれないんだよ!」

「……本当に逃げないの?」

「本当だ!」



 ここまで散々逃げ回られちゃってたから《女騎士》が疑うのも仕方ないよね。まぁ、あのままの姿勢じゃ、さすがにかわいそうか。



「本人が逃げないって言ってるし、離してもいいんじゃない?」

「平野君がそういうなら」

「……はぁ、やっと解放された」



 《女騎士》が腕を離すと、《勇者》はやれやれといった感じで立ち上がり、固められていた腕を回す。


「おまえ、少しは手加減しろよな」

「手加減なんかしたら逃げられちゃうだろう?」


 楽しげに微笑んで見せる《女騎士》。どうやら、彼女は《勇者》捕獲をかなり楽しんでやり遂げたみたいだ。何より。


「んで、こんなことまでして俺のこと引き止めて、なんなんだよ?」

「そんなの決まってるだろう。君がいきなりお昼に来なくなったことについてだよ」

「……」

「真白君、君に避けられるってすごく傷ついてるよ」


 《女騎士》の言葉に、ピクリと《勇者》が肩を震わせる。ちょっと顔をゆがめたかと思ったけど、すぐにその表情を消してぷいっとそっぽを向く。


「別に、俺に避けれてるからって傷つくことないだろ」

「友達思いの真白君が傷つかないわけないだろう?」



「っだから、俺は所詮、友達の1人で、あいつにはたくさん友達がいるんだから、俺1人が離れたって、何の問題もないだろうって言ってんだよ!!!」



 うわっちゃー……《勇者》よ、かなりキちゃってるのね。そりゃ、今までほかの誰よりちょっと真白に近いって思ってたのに、その距離をあっさり、しかも真白のほうから《魔王》に詰められちゃったら虚しくもなるか。



「……平野君、私にはあまり話が見えないんだが、武蔵野君は一体何をあんなに怒っているんだい?」

「ほら、最近、真白とうちのクラスの鬼勢昇が仲いいでしょ?だから……」

「あぁ、つまり、君は鬼勢というやつにやきもちを妬いているということなのか」

「!」


 あ、《女騎士》、ストレートに言いすぎ。図星を思いっきり突かれた《勇者》の顔が見る間に赤く染まっていく。


「べ、別に妬いてるわけじゃ……、い、今まで全然真白に近づきもしなかったくせに、ひょっこり出てきて当たり前みたいにそばにいるのが気に食わないだけだよ!」


 おい、ちょっと待て。


「それをやきもちって言うんだよ」

「うんうん。見事なやきもちだね」

「うっ……」


 私と《女騎士》で順に突っ込むと、とうとう《勇者》は言い返す言葉をなくしたのか、赤くなったまま黙り込んでしまった。

 ま、私としては《勇者》が拗ねてる理由なんて最初からわかってたから確かめるまでもなかったんだけど……しかし、私が思ってたよりもショック受けてるみたいだなー。確かにちょっとかわいそうだなって同情はする。

 でもね、だからって真白が悲しそうな顔をしてるのを放って置けるわけないんですよ。なんてたって、私は徹底徹尾、真白の味方なのですから。

 


「君がすごく怒ってるし傷ついてるのもわかった。けどね、それは真白を避けて傷つけていい理由にはならないよ」

「……俺は、何もしてない」



 顔を逸らして、こっちの話に聞く耳を持たないポーズ。お、予想以上に頑なだな。欲しかったおもちゃを買ってもらえなかった子供並に拗ねまくった顔をしている。《勇者》がこんな顔するなんてちょっと意外だけど、理由が理由なんだから、あきれちゃうよね。



「だからねぇ……」

「あっちが、勝手に傷ついてるだけだろ!俺には関係ないことだ!!」



 私が続けようとした言葉を遮った《勇者》は、勢いよく扉のほうへと駆け出した。そしてご自慢の俊足であっという間に扉のところまでたどり着く。



「あ、こら!逃げないって言っただろう!」

「お前たちとこれ以上話すことなんてない!俺のことは放っておいてくれ!!」



 いち早く反応した《女騎士》が《勇者》を止めようとしたけど、一歩遅かった。さすがに《勇者》の俊足には《女騎士》もかなわないらしい。怒鳴るように言い残した《勇者》はドアを乱暴に閉めて、校舎の中へと消えてしまった。



 そんな見えなくなった《勇者》の背中を無意識に睨みつける。



「すまない、平野君。油断していて逃がしてしまった」



 ……何、あの態度?こっちの言い分も聞かずにトンズラだと?それが仮にも前世で《勇者》だった人間がする行動だっていうのか?てか、完全にキャラ変わってんじゃん。何、あの駄々っ子わがまま身勝手キャラ?今までの爽やかいい奴代表好青年な《勇者》はどこいったよ!?



「……平野君?」

「あ、ごめん。何?」

「もしかして、君すごく怒ってるかい?」

「……まぁまぁ」



 《女騎士》に顔を覗き込まれて、やっと怒りで頭に血が上っていたのを自覚する。《女騎士》の声にも気づかなかったくらいだ。これぞ、まさに怒り心頭ってやつだろう。

 でもさ、無理もないと思うんだよね。



「はぁ……あんなに《勇者》が女々しい奴だなんて知らなかった」

「《勇者》?」

「あ、えっとー、こっちの話」

「まぁ、確かにちょっと意外だったかな。同年代の中ではなかなか見込みのある男だと思っていたけど……やはり、恋愛が絡んでくると、彼もただの高校生になってしまうのかもしれないね」



 《女騎士》が苦笑交じりに言う。恋愛が絡んでくると、ねぇ……。それにしたってキャラ変わりすぎだと思うけど。たまにウザイと思うくらいポジティブキャラだったのにさ。



「ともかく、これはしばらくそっとしておくしかなさそうだ」

「はぁ、これだから恋愛なんてのは面倒くさいんだよね……」

「そうだね、恋愛なんてものはなかなか困ったものだ」

「そんな言い方するってことは……好きな人いるの?」

「さぁ、どうだろうね?」


 んー、カマかけてみたけどいつもの爽やか笑顔で交わされてしまった。ま、《女騎士》が《魔術師》に惚れてるってのは私の中でほぼ確定事項だけど。

 しかし、《魔術師》相手にガチの恋愛感情抱くって……そりゃいろいろと困ったことも多いだろうね。なにせ、あの《魔術師》だもんね。


「平野君はどうなんだい?」

「いないよ、そんな人」

「興味もないのかい?」

「ゼロってわけじゃないけど、今はいいかな」

「”今は”なんて、女子高校生から出てくる言葉とは思えないなぁ」


 そりゃ、中身三十路前のオタクこじらせ女子ですから。


「じゃあ、もし平野君のことを好きだって男子が現れたら、君はどうするんだい?」

「そんなの”もしも”で考える余地もないくらいありえない」

「そんなことないと思うよ?君はかわいくて、なかなか出会えないくらいに面白い人だから、きっと君を好きになった人は夢中になってしまうだろうね」

「……」



 えっとー……最後のセリフってほめられてる?”かわいい”は《女騎士》が女の子みんなに抱いてる感覚っていうのはもうわかってるから無視するとして、”かなかな出会えないくらい面白い”って……つまり、遠まわしに”変人”って言われてる気がするんですけど……。

 《女騎士》には悪意はないんだろうけどさ、やっぱこの人《魔術師》の幼馴染だわ、今確信した。




 ふん、変人で結構ですよー。


 《勇者》をあんなにキャラ変させちゃうなんて、恋愛が人の心を狂わせる面倒なものだと再確認したことだしね。


 私はそんな煩悩に惑わされたりしないぞ。


 漫画とゲームとアニメに囲まれた人生を目指して突き進むのみだ!!!




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