1. A組の教室
体育祭の後、私は思春期の高校生男子の心が想像以上にデリケートであることを知ることになった。
「勇気君、やっぱり今日も来ないね……」
「教室を覗いてみたんだが、授業が終わると、すぐに教室を出て行ってしまうらしいよ」
体育祭の振り替え休日も終わってすでに一週間がたっている。けど、体育祭以来、《勇者》はお昼休みに一緒に昼食を食べに来なくなった。以前まではほぼ欠かさず毎日のように真白のいる教室に来ていたのに、だ。
《勇者》様、絶賛ご機嫌斜め中ってところだろう。
「私、何かしたのかな……?」
「真白君が原因と決まったわけじゃないだろう?もしかしたら私か平野君に思うところがあるのか、それかなにか個人的な事情があるのかもしれないじゃないか」
悲しそうにうつむく真白に《女騎士》がやさしく笑いかける。ホント、《女騎士》がいてよかった。私は事情を知ってるから、こういうときうまく励ましてあげられないしね。
実際、真白の予想は当たってるちゃ、当たってて、《勇者》が真白を避けてるのは、間違いなく体育祭のときの真白と《魔王》のやり取りを目撃したことが原因だろう。
確かにあのときの2人の雰囲気はすごくよかったもんなぁ。去年は《勇者》と真白でこっそりフォークダンス踊ってみたいだけど、それと張るぐらいいい雰囲気だった。
《勇者》としては、真白が少しでも自分のことを特別だって意識してくれてるっていう思いがあったから、余計にショックだったんだろうな。そう考えると気持ちはわからなくもない。
しかしだ!それにしてもだ!どんな理由があるとしても、だ!!真白にこんな悲しそうな顔させるなんて、許せん!!
《魔王》のウジウジが直ったと思ったら、今度は《勇者》かよ!ホントお前らめちゃくちゃ面倒くさすぎるんだよ!もうちょっと男気出して、ガツンとぶつかってこいよ!ちょっと傷ついたからって、女々しく引きこもってるんじゃないよーーーー!!!
……という鬱憤を本人に向かってぶつけたいところなのだが、どうも私も《女騎士》も避けられているらしく、このところ《勇者》の姿すら目撃ていないのが現状だ。
まったく、《勇者》といい《暗殺者》といい、なぁんでこう同じ校舎の中なのにこうもうまく逃げられちゃうかね。そういうとこにチート能力使ってるなら、ホントやめてほしいね。
「平野君、武蔵野君は捕まりそうかい?」
真白が他の生徒に話しかけられてる隙に、《女騎士》がボリュームを落として尋ねてくる。
「私もすっごい避けられてるみたいで、全然姿見ないんだよね」
「仕方がない、ここは隣のクラスの私が一肌脱ぐしかないね。捕獲は任せといてくれ」
本当に《女騎士》は頼もしいな。何度この人がちゃんと男の人で恋愛的な攻略対象だったらよかっただろうと思ったことか。あっという間に真白の心を虜にして、今頃は《冥王》の付け入る隙皆無くらいラブラブになっていただろうに……。
「わかった、そっちはよろしくお願いする」
私も声を落として答えると、《女騎士》は軽くうなずいて何事もなかったかのようにお弁当を食べる準備を再開した。
そして、その日の放課後、《女騎士》から一通のメールが届く。
『捕獲成功。屋上に来てくれ』
いやいや、仕事早すぎでしょ。ともかく、この機を逃すわけにはいかない。
「真白、私ちょっと生徒会の先輩のとこ行かないといけないから、ここか図書館で待ってて」
「わかった」
真白にそれだけ告げて、屋上を目指す。まったく、《魔王》といい、《勇者》といい……拗ねたときには屋上で黄昏るなんてベタなことしてくれちゃって。なんか正反対に見えて、みょーなとこだけ似てるんだから。やれやれだよ。
短めですいません。




