1. 前世の記憶を思い出しました。
7/1 改稿しました。内容が微妙に変わってます。
「先生、ここの列、一部資料が足りてません」
そう言って1人のクラスメートが立ち上がった。
まったく。あの担任、いつものごとく数えもせずにプリント配ってやがるな。ここに余りがあるし、仕方ないから渡しに行くか。
「はい、うちの列にあまりがあったから」
「ありがとう」
私が資料を差し出すと、その子は少し首を斜めに傾けて、満面の笑みを浮かべた。サラサラの黒髪がその動作に合わせて揺れる。これがアニメだったら間違いなくキラキラエフェクト発生だ。
……ここまで歩いてくるのも面倒だと思ってたけど、これはむしろラッキーだったかも?そう思っちゃうくらい、女の私から見ても、その笑顔は文句のつけようのないほどの可愛さ、……美しさの方がしっくりくるかな?”現世に降臨した女神”なんて、二次元めいた呼び名をからかいや嘲笑なしに拝命しちゃってるくらいだもんね。
兎にも角にも、さすが真白 清華。女神の異名は伊達じゃない。
目の前で笑っているのは、今年初めてクラスが一緒になる生徒。だけど、入学した当初から彼女のことは知っていた。
彼女はこの学校、この学区、いやこの街一番と言ってもいいかもしれない。ともかく、すごく美人だ。経てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはまさにこの真白さんのためにある言葉だとこの学校全員が思っていると言い切れる。間違いない。
そんな彼女と会話したことに得した気分になりながら席に着く。クラスの男子が羨ましそうにこっちを見ていた。ふふん、と見当違いな優越感に浸りながら、たった今配られた資料に目を落とす。
表紙には大きく”高校受験の手引き”と書いてある。その文字を認識した途端、真白さんが与えてくれた明るかった気持ちは一瞬にして陰鬱さに塗り替えられてしまった。
「いいかー、お前らもとうとう受験生だ。今から受験に関する大切な話をするから。寝るんじゃないぞー」
いつもながら感に触る喋り方だ。またこいつが担任になるなんて、本当についてない。苛立ちにため息をつきながら、気をそらすために手元にある資料に目を落とす。
資料はA4用紙が左端で止められたかなり簡素なものだ。表紙をめくると、学校の行事とテストの予定がぎっしり書き込まれたスケジュール表が出てくる。同じページ下部には「先輩の生活習慣」とかかれた円グラフ。360度あるそれを24つに分けて、1日の行動をグラフにしたものだ。
うわー、この先輩1日の4分の1を勉強に使ってるよ。ここが勉強じゃなくて”オタク活動”ならほぼ完璧に私の生活習慣を再現するのに。……いや、もっと長いか。
「後半はここいら近辺の高校の情報が載ってるからこの資料はなくすなよー」
頼むから、黙ってくれー。心の中で悪態を吐きながら次々に資料のページをめくる。資料の半分以上は担任が説明した通りこの学区にある高校の資料だった。暇だから学校の資料でも見て暇を潰そう。そう思って、一番最後のページに目を落とす。
「ん?」
思わず声にもらしちゃったけど……なんだ、これ?なんか異様に読みにくい名前の学校があるんですけど。
”聖亜細誕巫亜学園”?
学園創設者は厨二病か。なんてどんまいな学園───
って、あれ?
ちょっと待って……。読みにくい、はずなんだけど………。
読め、る?
「せんと……」
「んじゃまず最初のページをひらけー」
相変わらず間延びした担任の声が遠くに聞こえる。でもその声は私には届いてこなかった。目の前の不思議な学園の名前に、意識が釘付けになる。
せんと・あじたんふあ
あじたんふあ
あじたんふぁ
……反対から読んだら?
ファンタジア
「セント・ファンタジア!!!!!!」
クラス中の視線が集まる。担任も注意するのも忘れるくらいこっちを見て驚いていた。
だが、みんなの視線を一身に浴びた当の本人の私はそんなこと気にしてられなかった。
頭の中に大量の記憶が一斉に流れ込んでくる。
あまりの量と勢いにひどいめまいが襲った。
「平野の奴、また変なこと言ってるぜぇ?」
「知ってる?あーいうの、厨二病って言うんだって」
「あー、ありゃ確かに病気だ病気」
そんないつもなら気に触るクラスメートの言葉もただ鼓膜を揺らしただけで消えていく。
そして私はそのまま意識を手放した。
後から聞いた話だが、この時私は白目をむいてよだれを垂らして気絶していたらしい。
こんな感じで、私の中学三年は始まっていった。
そして、”ヤツ”との戦いも。