婚約者を寝取られましたが、案外平気です
ファンタジーですが、あまりファンタジーっぽくないです。
「ということで、お前とは婚約解消する」
私の目前で腕を組んで偉そうな元婚約者の第二王子が傍に一人の女性を連れてそう宣言した。
「ごめんなさいね、お姉様。私、彼を愛しちゃったの」
元婚約者の腕に抱きついて、義理の妹が見下したような視線をくれた。
義妹は父が親族に言われて再婚した女性の連れ子で、大きくパッチリとした瞳に長く豊かな髪をゆるふわにしていて可愛かった。
私はどちらかというと、つり目気味で、表情も豊かではなく、よく悪役っぽい顔と言われてきた。
しかし義妹の性格は自己中心的で、散財が好きな我儘プーだった。
母親も綺麗な外見だけど、父の他に愛人が沢山いて、その人たちにかなりの額を貢いでいる。
呆然としている私の隣で私と同じく跪いていた父が呆れた視線を王子達にむけた。
「では、殿下はうちの娘との婚約は止めるということですね?」
「お前の下の娘と婚約するのだ。母上も納得しているし、何か異議あるか?」
嘲笑してこちらを見下す王子に父は述べた。
「その子は私の娘ではありません」
その言葉に焦ったのは義妹だった。
それはそうだろう。王子との婚約に王子の母親が賛同したのは義妹が父の子供、つまりは公爵令嬢であったからだ。
「何言っているの?お父様とは確かに血が繋がってませんが、義理の娘ではありませんか」
「黙れ。お前の母親は妊娠したそうだよ。私以外の男の子をな」
「なっ、そんな訳ありませんわ!お父様との子に決まっています‼︎」
ムキになって反論する義妹を父はさらに追い詰める。
「私はお前の母親を抱いた事は一度たりともない。それで何故子供ができるという?ただの浮気程度なら許していたが、此度の件は許すわけにはいかない。だから、離婚届を出したのだ。お前とは、縁が切れたのだよ」
止まらない父の口撃にそっと横に手を伸ばして止めた。
「父よ、もう良い。義妹…いや、お前は私の事を義姉だとは思っていまい。アンナニーナ、私との縁も切れた。第二王子様、婚約破棄は了承した。好きにその子と婚約でも何でもするがいい」
「……ああ。例えニーナが公爵令嬢ではなくても、母上を納得してみせる」
「セイディさま…」
自分の事を悲劇の主人公だとでも思っているのだろうか?爆弾を落としておこう。
「ちなみにアンナニーナ、恋人関係のある方々と付き合うのはやめた方がいい。母の二の舞になる前にな。もう遅いかも知れないが」
医療魔法の得意な私は魔力を込めてアンナニーナの腹を見る。誰の子か知らないが、孕んでいた。
「ニーナが ⁉︎俺が初めてだと言っていたじゃないか‼︎」
「セイディさま!そんなのこの女の戯言ですわ‼︎」
慌てて言い訳をしているが、王子の疑いは晴れるどころか深まるばかりだ。
「では、私達はこれで」
お辞儀をして彼らに背を向ける。
その後に続く父はさらに爆弾を落とした。
「ちなみに、私の娘との婚約が無かったことになったので、私の領地は独立させていただきますね」
父は先王の時代に僅か15という歳にして、現れ出た魔獣の大群を打ち漏らさずに全滅させるという人間離れした力を使って領地と爵位を頂いた。
その際に領地は完全に王領から独立していたが、娘との婚約で先王が繋ぎ止めていたのだ。
しかし今回の件で完全に縛られることはなくなり、独立国となる。
この大陸の一番大きな国から頂いた領地は小国よりも少し大きいぐらいに広い。
海も湖も山などの自然豊かな土地だから魔力もよく溜まり魔獣も強いが、領地には最先端の魔法技術があるので問題無い。
「あ、勝手にうちの国土に入らないで下さいね、強者どもを配置しておきますので斬り殺されますよ」
宰相が私達の後に続く。その後ろにも薬学長や筆頭騎士、魔術師長などが続いて城から出て行く。
みんなうちの領地で育った人たちだ。当然だろう。元はこの国のあちこちで倒れていたり、死にかけていた人たちを私が拾ってしまったのだが、忠義に厚いもの達ばかりだ。
近い将来、この国は倒れるだろう。
因みに第一王子は恋人連れてうちの国に移住しています。
あ、婚約破棄されても案外平気です。
むしろ婚約破棄してくれてありがとうございます。
続編を書くかもしれません。