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迷宮レストラン  作者: 悠戯
迷宮都市編
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閑話・シモンの手紙

  

『拝啓。父上、母上、兄上たち、姉上たち、城の皆も息災でしょうか? 私は元気にしております。この街での暮らしにも馴染み、新たな友人もできました』



 ◆



「ふむ……じい、書き出しの文面はこれでおかしくはないだろうか?」


「ええ、よろしいかと。陛下たちも、さぞ喜ばれるでしょう」


 レストランでのカレー勝負の翌日、シモンは滞在している大使館の中の一室で書き物をしていました。

 普段であれば、クロードが学問などを教えているのですが、今日は学問ではなく手紙を綴っています。先程から書物やクロードの助言を参考に、ああでもない、こうでもないと四苦八苦しながら文章を考えているようです。



「やれやれ、国に送る手紙を書くのはよいが、こういうのはどうも慣れぬ」


「少し休憩いたしましょうか、お茶を淹れて参ります」


「うむ、たしか昨日の帰りに買った菓子があったな。あれも出してくれ」



 シモンたちが迷宮都市に来てから、早いものでもう一ヶ月が過ぎようとしていました。元々は旅行という名目で来たのですが、予想以上の長逗留になっています。


 シモンの当初の目的であった魔王の正体の見極めは早々に済んでいますが、新たな交友関係も生まれ、日々色々と面白いこともあります。シモンとしてはまだ当分この街にいたいので、滞在の理由を旅行から留学に変更しようかと検討中です。



「むむ、他には何を書いたものか……」


「そうですな、若から見たこの街の様子など書いてはいかがですか」


「なるほど、それなら書けそうだ」



 助言に従ってシモンは筆を走らせます。



 ◆



『この街は噂に違わぬ活況ぶりで、市場には珍奇な品が並び、斬新な文化が花開き……』


 ◆



「そうだ、城の者たちに買った土産も送らねば」


 王子とはいえ予算(おこづかい)には限りがありますが、家族や城の使用人に送るための土産物を日頃から選び、買い集めてあります。


 魔王のレストランに入り浸っているようにも思えますが、それだけではなく日々街中を歩き回り、時には市場や商店で買物をしたりもしているのです。

 

 買物など人任せにできる身分ではありますが、教育係のクロード氏の方針で、見聞を広め金銭感覚や品物の良し悪しを見極める眼を養うために、こうして日頃から自分で店に足を運ぶようにしているのです。



「……さて、あとは何を書くか。口で喋るのと勝手が違うせいか、イマイチ言葉が出てこぬ。じい、何かよい考えはないか?」


「そうですなあ、たとえば……今朝方に若がベッドに描いた地図のことはいかがですかな?」


「そ、そんなこと書けるはずがなかろうっ!」


「ほっほっほ、久々の超大作でしたなぁ」



 昨日、辛口のカレーを食べる際に水をガブ飲みしたせいでしょう。今朝シモンが起きた時、ベッドには大きな地図が描かれていました。最近は寝小便をしなくなってきて油断しており、寝る前にトイレに行かなかったのが敗因だったようです。



「いいか、絶対に誰にも言うんじゃないぞ!」


「ええ、心得ておりますとも。絶対に言いません」



 クロードは「言うな」と言われたのでこの件を口頭で誰かに話すのは諦めましたが、「書くな」とは言われていません。シモンの手紙と一緒に送る予定の報告書に、その件も書く気満々でありました。

 世間の厳しさを教えるのも教育係としての勤め。心を鬼にして泣く泣く……などという事情はなく、単純に面白いからですが。

 


「うむ、こんなところか」



 最後に時候の挨拶を書き、インクが乾けば手紙の完成です。溶かした蝋で封をして印を押し、いつでも送れる状態になりました。



「どうだ、ちゃんと手紙を書けたぞ」


「お見事でございます。それでは、お土産と共に送る手配をしておきましょう」




 ◆◆◆




 数日後、シモンの故郷の王城、玉座の間にて。



「はぁ~……なんかやる気出ないのぅ……」



 シモンの父、すなわちこの国を治める王様は非常にダウナーな気分でした。可愛がっている息子が遠く離れた地に旅行に行って、もう一か月以上。心配やら寂しいやらで、どうにも公務をやる気になりません。



「陛下、いくらシモン王子に会えなくて寂しいからとはいえ、もうちょっとシャキっとして下さい」


「大臣はいけずじゃのぅ」



 横に控える大臣が注意してもほとんど効果がないようです。



「それにしても、シモンがこれほど城の皆に慕われておったとはの」


「まったく困ったものです。いえ、王子の責任というわけではありませんが」



 士気が低いのは王様だけではありません。

 皆に可愛がられているシモンが国を離れてからというもの、王族一同をはじめ、城の文官も武官も執事もメイドも、上から下まで城のほとんど全員が寂しがっています。そのせいで城中に暗い空気が流れ、業務も全体的に滞りがちになっているのです。



「はぁ~…」



 王様が再び溜息を吐いた直後、



「陛下! 失礼いたします!」



 この国の武官のトップである将軍が、走ってきた勢いのままに玉座の間に飛び込んできました。どうやら急ぎの要件があるようです。



「将軍や、どうかしたのかの?」


「陛下! シモン王子からのお手紙が届きました!」


「なんじゃと!? 早くこれへ!」



 王様は、将軍が持ってきた手紙をひったくるように受け取り、封を開けました。



「ふむふむ、どうやら元気でやっておるようじゃな……何!?」


「ど、どうかなさいましたか?」



 突然声を荒げた王様に大臣が恐る恐る問いました。



「……このまま迷宮都市に留学したいと……まだしばらく帰りたくないそうじゃ」



 ホームシックの気配などまるでなく、それどころか滞在の延長を希望する内容に王様はションボリと意気消沈しています。



「……王子の希望を却下すればいいだけでは?」


「だって……そんなことをして嫌われたら困るしのぅ……」



 年を取ってから出来た息子ゆえ、ついつい甘やかしたくなってしまうのでしょう。会えなくて寂しいが、嫌われたくもない。この王様、王としてはそれなりに名君なのですが、親としてはダメダメでした。



「そうじゃ、いいことを思いついたぞ! さっさと退位して、わしもシモンと一緒に迷宮都市に住めばいいんじゃ!」


「「止めてください!」」



 その場にいた大臣と将軍は、親バカを通りこしてバカ親的な判断を下そうとする主君を必死で引き留めます。仕事が遅れるくらいならまだしも、その場のノリで退位されてはたまったものではありません。



「王子……! 早く帰って来てください!」



 大臣の悲痛かつ切実な叫びが、玉座の間に響きました。



おかしい

前にちょっとだけシモンの回想で出たシモンの姉(14歳、中二病)を出す予定が、何故かオッサンしか出ていない

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