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迷宮レストラン  作者: 悠戯
迷宮都市編

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閑話・エルフの里帰り


「ただいま。おや、君は誰だい?」


「…………だれ?」


 私の名はタイム、放浪画家をやっているエルフだ。


 なんとなく気が向いて、たぶん二十年ぶりくらいに秘境っぽい森の奥深くにある実家に顔を出したのだが、家にいた見知らぬ幼女に誰何されてしまった。私と同じく金髪を三つ編みにしている子だ。


 可愛いなあ幼女、持って帰りたい。

 あ、そういえばここが家だっけ、手間が省けた。



「あら、タイムじゃない、おかえりなさい」


「やあ、母さん。ただいま」



 幼女とのエンカウントに戸惑っていたら家の奥から母さんが出てきた。久しぶりに顔を見たけど全然変わってない、というか私が物心ついた時から二百年以上容姿がまったく変化してない気がする。

 若い時期が長いエルフにしてもかなり若作りの部類だろう。私の方が背が高いのでヘタをしたら私より年下に見えるかもしれない。


 それはさておき、母さんがいるということは、どうやらここは私の実家で間違いないらしい。久しぶりなので家を間違えたかと思ったがちょっと安心。



「ところで母さん、この子は?」


「ああ、そういえばタイムは会ったことなかったわね。この子はライム、あなたの妹よ」



 なんと、知らぬ間に私は姉になっていたらしい。

 エルフの出生率は長い寿命に反比例するように低いのだが、きっと父さんと母さんが色々と頑張ったのだろう。グッジョブ両親。



「やあ、はじめまして。私はタイム、君のお姉ちゃんらしいよ」


「…………」



 初対面の妹に挨拶をしたのだが、人見知りなのか母さんの後ろに隠れてしまった。それはそれで小動物っぽくて可愛いのでまた良し。



「ほらライム、お姉ちゃんにご挨拶しなさい」


「…………ライム、よろしく」



 ホント可愛いなこの子。母さんの後ろに隠れたまま顔だけ出して挨拶してくれた。やけに人見知りな性格みたいだけど別に気にしない。


 私や母さんは珍しく社交的な方なのだけれど、エルフとは根本的にコミュニケーション能力に難がある者が多い種族なのだ。私の父さんも無口だし、ライムは父親似なのだろう。


 寿命が長いので自然と様々な知識が増え、エルフのことを『森の賢者』なんて呼ぶ人間もいるけれど、基本的には人見知りでひきこもり気質な種族なのである。寡黙なのも思慮深いからじゃなくて口下手なだけの場合がほとんどだし。

 あと関係ないけど『森の賢者』ってゴリラやオランウータンの異名でもあるので、面と向かって言われると尊称なのにちょっとヘコむ。



「そうだ母さん、お土産があるんだ」


「お土産?」



 私は荷物袋から取り出したソレを見せる。ここまでの道中で自分で食べたせいで少し減ってしまったけれど、沢山買ってきたのでまだ半分以上は残っている。



「ほら、プラリネっていうアーモンドのお菓子だよ」


「おかし!」



 お土産を取り出したら急に妹のテンションが上がった。可愛い。



「ほーら、甘くて美味しいよ」


「……ん!」



 試しに一つ渡してみたら、リスみたいに両手で持ってカリカリかじって食べた。可愛い。



「母さんもどうぞ」


「あら、美味しい。ちゃんとしたお菓子なんて久しぶりだわ」



 日常的に果物や木の実を好んで食べるエルフには甘党が多い。ただ森の奥に引きこもっていると、お菓子作りにほぼ必須な砂糖をはじめ安定して手に入らない材料が多いので、お菓子を食べられる機会というのは少ないのだ。


 普通は何ヶ月かに一回、ハチミツや麦で作ったクッキーを食べられる程度、それ以外だと私みたいに森の外に出た者が何年かに一度、こうしてお土産を持ってきた時くらいだろうか。



「うん、美味しい」



 私も一つ取って口に入れたが、相変わらず美味しい。表面の苦くて甘い砂糖の部分と中の香ばしいアーモンドがよく合っている。



「ほらライム、いっぱいお食べ」


「ん、もぐもぐ」



 私が言うまでもなく遠慮なしに食べているが可愛いのでよし。一応、全部なくなる前に他の家に渡す分は確保しておかないといけないが。


 迷宮都市からここまで二週間くらいかかったが、まだほとんど味は落ちていないようだ。日持ちするというのは本当だったらしい。



「あと砂糖も買ってきたから、これもあとで村の人に分けてあげて」



 そう言って荷物から砂糖の入った大きな袋を取り出した。



「まあ、白いお砂糖がこんなに。高かったでしょう?」


「いや、それがそうでもないんだ」



 まだ迷宮都市限定ではあるが、最近は高級品だった砂糖や香辛料が手頃な値段で手に入りやすくなっているのだ。どうやらエルフの村までは少し前にあった魔界と人間界のあれこれの話や、迷宮都市の話は届いていなかったらしい。なにせ外部とのやり取りがほとんど無い、ほぼ物々交換だけで成立しているような森の奥のド田舎なので仕方ないが。



「あとでゆっくり話すよ」



 お互いに積もる話もあるだろう。幸い時間はいくらでもあるし、しばらくはのんびりしていこう。




 ◆◆◆





「…………俺の分は?」


「やあ、おかえり父さん、久しぶり」


「お帰りなさい、あなた」


「……おかえり」


 その晩、狩りに出ていた父さんが帰った頃には、お土産のお菓子はすっかりなくなっていた。私は妹に気を取られて、母さんとライムはお菓子に意識がいって、父さんのことをすっかり忘れていたのだ。


 他の家におすそ分けしたのはまだ残っているかもしれないが、一度あげたお土産を取り返しにいくほどの図太さは流石にない。



「ほら、砂糖舐める? 甘くて美味しいよ」


「…………」



 砂糖で誤魔化そうとしたが無理だった。無言のまま視線で不満を訴えてきている。母さんとライムも、父さんのことをすっかり忘れていたせいでどこか気まずそうに視線を逸らしている。



「……また今度買ってくるよ」



 まあ、なくなってしまった物は仕方がない。片道二週間は結構しんどいが、また近いうちにお土産を持ってくるとしよう。ライムも可愛いし。


 そういえば魔王のレストランにある転移の魔法陣、あれは便利だった。頼んだら迷宮都市からここまで来るのに使わせてもらえないだろうか?



プラリネはアーモンドを溶かした砂糖に絡めて作るお菓子で、二週間から最長で二ヶ月くらい日持ちするそうです。

ちゃんとした洋菓子店で売ってるのはすごく美味しいですよ。

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