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迷宮レストラン  作者: 悠戯
迷宮都市編

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閑話・元勇者の平穏な日常


 皆さん、こんにちは。

 元勇者こと一ツ橋リサです。


 わたしが日本に帰ってきて早数ヶ月、異世界との逆カルチャーギャップを感じることも近頃は少なくなり、地球での平和的な日常を満喫しています。


 ……などと脳内の認識を捻じ曲げて現実逃避をしていたわたしの眼前を亜音速の銃弾が通過していきました。


 どうしてこんなことになっているのか?


 その発端は五分ほど前に遡ります。




 この日の夕食後、わたしは自宅でテレビの情報系バラエティ番組を見ていたのですが、突如番組の内容が切り替わったのです。緊急生放送と題して放送されたその内容は、



「あれ、この銀行ってたしかうちの近所じゃ……え、銀行強盗?」



 なんと、我が家の近所にある銀行に銃で武装した二人組の強盗が入ったというのですから驚きです。この時点で事件発生からすでに二十分ほどが経過しているらしく、画面内には大勢の野次馬や警察官の姿が映っています。


 犯人グループは銀行内で逃げ遅れた行員一名を人質に取り立てこもっているようで、画面越しにも現場の緊迫した空気が伝わってきます。


 と、この時点では近所で起こっている事件とはいえ、まだわたしは当事者ではなかったのですが。



【これは一刻を争う事態のようだ、行くぞ我が主よ】


「あの、聖剣さん?」


【義を見てせざるは勇なき也だ、行くぞ】


「……はい」



 まあ、わたしも元とはいえ勇者ですし、わたしにできることがあるならやりますが。とはいえ、一つ問題がありまして……。



「正体がバレたらまずいですよね?」



 異世界では最初から勇者として活動していたのでその点は気にする必要はなかったのですが、こちらの世界で考え無しに人間離れした活躍をして、後で身元がバレたりしたら大変です。うちの店に料理以外のことでマスコミが殺到したりしたら困ります。


 ですが、テレビ画面では警官隊が突入の機会を伺っている状況で、いつ犠牲者が出るか分からない状態です。あまり悠長なことは言っていられません。



「……仕方ないからコレでいきます!」



 わたしは自室にたまたまあった顔を隠せるモノをかぶり、部屋着からなるべく特徴のないジャージに着替えました。そして長剣状となった聖剣さんで空間を切り裂き、渦中の銀行内部へと突入したのです。



「あの、怪しい者ではありません。話し合いましょう」


「な、なんだ手前は!」


「やっちまえ!」



 何もなかったはずの空間に突如出現したわたしに対する強盗犯の対応は迅速なものでした。身バレを防ぐために、たまたま部屋にあったデパートの紙袋をかぶってきたのが不審すぎたのか、「怪しい者ではない」と言っているにも関わらずノータイムで撃ってきたのです。避けましたけど。


 目元のあたりに穴を開けただけの紙袋は視界があまり良くないのですが、今のわたしは魔力によって反射神経や動体視力がやたらと強化されているため、弾が飛んで来るのを見てからでも身をかわす程度は楽勝です。


 それで無駄を悟ってくれたらよかったのですが、強盗犯たちは突如現れた不審者(わたし)が銃弾にもひるまず近寄ってくるのに恐慌を起こしたのか、ますます銃を乱射してきたのです。



「撃て、撃ちまくれ!」


「無駄、無駄、無駄、無駄ですってば」



 マシンガンなんて持ち出してきたのにはちょっとビックリしましたが、不幸中の幸いとしてわたしはちょっと前から銃器の類は見慣れているのです。



「やったか?」


「これだけ撃てば生きちゃいねえだろう」



 などと強盗犯たちがフラグを積み重ねていますが、もちろんやっていません。紙袋越しの視界にも慣れてきたので飛んできた弾をヒョイとつまんでみました。



「ヒイっ! バケモノ!?」


「銃が効かねえ!」



 跳弾や壊れた物の破片で人質の方がケガをするといけないので、飛んできた弾を片手で三十発ほどキャッチしただけだというのに、バケモノだなんて失礼ですね。



「ち、近寄るな!」


「こ、こっちには人質がいるんだぞ!」



 と、犯人たちが縄で縛られていた人質の方に銃口を向けましたが。



「な、なんだこれ……?」



 銃口の先には、ヒト一人が入れるくらいの大きさの銀色の箱がありました。こんなこともあろうかと、撃たれてる最中に空いている方の手で箱を作って放り投げ、人質の方にかぶせておいたのです。銃弾くらいなら何百発撃ち込んでもキズ一つつかないでしょう。



「なんだ、何がどうなってるんだ……」


「俺たち夢でも見てるのか……」



 どうやら強盗犯たちは異常事態の連続で戦意を喪失したようです。銃を取り落として床にへたり込んでしまいました。この様子ならばもう心配は無用でしょう。



「突入! 突入!」


「銃声がしたぞ! 人質を救出しろ!」



 どうやら先程の銃声が聞こえたのか、銀行内に警官隊が突入してきたようです。長居は無用。人質の方が入っていた箱を消して、あとは本職のお巡りさんに任せるとしましょう。



「犯人に告ぐ、武器を捨てて投降しろ!」



 ご安心下さい。

 すでに犯人は無力化していますので。



「容疑者二名確保しました!」



 これで事件解決ですね。

 めでたしめでたし。



「そこの紙袋をかぶったジャージの女、お前も両手を上げろ!」



 ……はい?



「どうやら犯人は二人じゃなく三人組だったようだな」


「お前はもう包囲されている、仲間の二人と一緒に投降しろ」



 お巡りさんたちはそんな感じのことをわたしに向かって言っているようです。



「あの……怪しい者ではありません」


「本気で言っているのか?」



 ……まあ、怪しいですよね。

 捕まるのは困るので逃げますけど。



「ええと……失礼します!」



 お巡りさんが視認できない速度で逃げました。傍からはわたしが突如消えたように見えるはずです。そのまま人気のない物陰に移動し、再び空間を斬って自宅へと帰りました。




 ◆◆◆





 翌日、テレビのニュースで昨日の事件のことが報道されていました。


 どうやら犯人の二人と人質の方の証言で、紙袋をかぶった謎の人物は強盗の一味ではなく、事件を解決した側であることがはっきりしたそうです。ホッとしました。


 犯人の二人は取り調べに対し、



「あの紙袋野郎、飛んできた銃弾を空中でつかみやがったんだ」


「超スピードとか催眠術なんてチャチなもんじゃねえ、もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ」



 などと意味不明の供述しているとのことです。

 いえ、アレは普通に超スピードなんですが。


 何はともあれ無事に事件が解決して良かったです。


 それに、あんなことはそう滅多にないでしょう。せっかく地球に戻ったことですし、わたしもこうしてのんびりとテレビを見たりして平穏な日常を満喫……、



『番組の途中ですが臨時ニュースです。現在太平洋上、高度一万メートルを飛ぶジャンボジェット機がハイジャックされました』



 ……平穏な日常を満喫したかったのですが、



【行くぞ、我が主よ】


「はい……」



 なんだか、わたし異世界にいた時より働いている気がします。



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