表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮レストラン  作者: 悠戯
迷宮都市編
77/382

閑話・聖剣の趣味


 皆さま、本日はお日柄もよく如何お過ごしでしょうか。


 元勇者ことわたし一ツ橋リサは、地球は日本国にある自宅でかつてない種類の危機に直面していました。より具体的には自室の学習机、その上に見慣れない物体が置いてあるのを見て、現在進行形でダラダラとイヤな汗をかいています。


 その物体の名称を婉曲的に表すと『おはじき』でしょうか。ですが困ったことに、昔懐かしい平べったいガラス玉のオモチャのことではありません。


 『拳銃(おハジキ)』。

 鉄砲とかピストルとかチャカなどという呼び方もありますが、とにかくそういう種類の黒光りする金属塊がいつの間にかわたしの机の上に置いてあったのです。

 同じ武器でも剣や槍ならば勇者時代に見慣れていますが、銃火器という物には独特の迫力があります。地球育ちの身としては、ある意味で刃物以上に武器としての生々しさみたいなものを感じるのです。



「な、なぜ……?」



 言うまでもありませんが、日本国において民間人がこの手の品を所持することは重大な違法行為です。仮に第三者が今この部屋に入ってきて目撃されたら相当マズイことになってしまいます。


 どうしようかと混乱していたせいでしょうか。本来ならこの状況で不用意に触れるべきではなかったのかもしれませんが、わたしは重厚感のある拳銃を手に取り、そして気付きました。



「……聖剣さん?」



 触った時に独特の魔力の流れといいますか、言葉では表現しにくいのですが、とにかく触った瞬間にそういうファンタジーっぽい感覚を覚えて、わたしは拳銃の正体に気付きました。



【どうかしたか、我が主よ?】



 わたしの目の前で黒光りする拳銃がたちまち色と姿を変え、聖剣さんは銀色の小鳥の姿になりました(最近バージョンアップして色を変えたり、声を出せるようになったのです)。わたしはほっと安堵の息を吐き、それから尋ねました。



「なんで銃なんかになっていたんです?」


【うむ、元の世界には無いタイプの武器だからな。インターネットで構造を調べて再現できるかどうか試していたのだ】



 どうやらそういうことだったようです。

 そういえば、近頃わたしのスマホで何やら調べていた気もしますが、あれは銃の製法を調べていたのでしょう。



【どうやら元の世界に無い武器でも、構造さえ分かれば問題なく再現できるようだ。我もさすがに火薬にはなれないのだが、銃身内で魔法による小爆発を起こせば、結果的に通常の銃器と同じように弾を飛ばすこともできるだろう。弾は無限に生成できるから弾切れもない】



 結果は成功だったようです。

 さっき銃の形の時に触れたら使い方を自然と把握できた気もしますし、わたしもその気になればきっと使いこなせるでしょう。いえ、使う予定は一切ありませんが。



「でも、絶対に人前ではその姿にならないでくださいね」



 もし誰かに見られたら、わたしの人生が銃刀法違反で終了してしまう恐れがありますので。わたしは「絶対に」を強調して聖剣さんに言いました。



【うむ、分かった人前ではこの姿にならぬようにしよう】



 聖剣さんも分かってくれたのか了承してくれました。

 これにてこの件は一件落着……とはいかなかったのです。




 ◆◆◆




 翌日、わたしの部屋に昨日の拳銃よりもはるかに大きな銃火器が置いてありました。



【我が主よ、拳銃ではまずいと言っていたからな、今日は対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)の再現に挑戦してみたぞ。理論上の最大射程は二キロ超、近距離ならば厚さ五センチの鉄板程度は貫通可能だ】



 どうやら、聖剣さんはわたしの言ったことを誤解していたようです。たしかに拳銃にはなっていませんが事態はより悪化しています。いつになく熱くスペックを語る聖剣さんに今度は誤解のないよう言いました。



「……あのですね、この国では銃の所持自体が禁じられてますので、種類に関わらず銃の姿になるのは止めていただけないかと」


【そうだったのか、残念だ。ならば今後は気を付けるとしよう】



 どうやら分かっていただけたようです。

 これで銃刀法違反の危機は去り……ませんでした。




 ◆◆◆




 さらに翌日。

 わたしの部屋に対戦車ロケット砲が置いてありました。



【銃ではないから問題なかろう?】


「アウトです」




 ◆◆◆




 さらにその次の日には、部屋の中を一見ラジコンに見える、ですが構造は本物そのものの戦車がキャタピラの音を響かせながら走り回っていました。さすがにインターネットでは詳しい構造までは分からなかったそうですが、ネット上の動画や資料から独自に解析して再現したそうです。


 次の日には部屋の中を超小型のステルス戦闘機が飛び、更に次の日はミニチュアサイズの戦艦大和がお風呂場で航海していました。


 ここまでくると一周回って銃刀法違反の危機は去ったようにも思えますし、そもそも冷静に考えたら人に見られても即座に姿を変えれば誤魔化せるでしょう。というか、正直そろそろ驚き疲れてどうでもよくなってきました。




 ◆◆◆




【次は大陸間弾道弾(ICBM)に挑戦しようと思っていてな】【列車砲か、あれは浪漫心を刺激される】【今こそ完全なるパンジャンドラムを作り上げてみせよう】【潜水艦もいいな。我の場合、動力は原子力ではなく魔力になるが】


「そーですかー、よく分からないですけど頑張ってくださいねー」


 途中から難しい専門用語が混ざってきたせいもあり、正直わたしには言葉の意味がまるで分かっていません。最近では適当に生返事を返すばかりです。


 聖剣さんのやることならば、そうそう悪いことにはならないでしょう。わたしにできることはそう信じて目の前の現実からひたすら逃避することだけでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 聖剣よ、剣?要素はどこへゆく・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ