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迷宮レストラン  作者: 悠戯
旅行編
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閑話・聖剣ver.2.04開発秘話

   

「聖剣さん、ところでコレどうやって使うか分かります?」


 リサは魔王たちと会った喫茶店から帰る道すがら、受け取った宝石を見ながら、手にしたスマートフォンに向けて問いかけました。

 ですが、別に電話で離れた所にいる聖剣と会話をしているわけではありません。そもそも、忘れがちですが聖剣に発声機能は付いていないので電話越しに会話はできません。



【おおよその見当は付く。帰宅したら試してみるとしよう】



 ですが、ちゃんと返事が返ってきました。

 タネを明かすと聖剣は現在スマホカバーへと姿を変えているのです。スマホの背面側に文字を浮かびあがらせて意思疎通をしており、遠目で見る分には普通にスマホを操作しているようにしか見えません。


 まさか日本で剣の形のまま持ち歩くわけにもいきませんし、鳥や猫などの小動物の形でも白銀ベースの色合いや金属的な質感など見るからに不自然です。


 そこでリサと聖剣とで人前でも目立たずに会話ができる形をあれこれ試行錯誤した結果、スマホカバーの形へと落ち着きました。


 リサは帰宅してから食事と入浴を済ませて自室に戻るとパジャマに着替え、通学カバンの一番奥にしまっておいた宝石を取り出します。そして、それを照明に向けて持ち上げてじっくりと観察してみました。

 受け取った時や帰宅中は人目が気になったり薄暗かったりで、まだじっくりと見てはいなかったのです。



「綺麗な宝石ですねぇ、不思議な色合い……」


【ああ、なにしろ神器だ、売れば十年遊んで暮らせるというのも過言ではあるまい】



 宝石の知識などほとんど無いリサも、宝石の美しさに思わず引き込まれてしまいました。大きめの飴玉くらいのサイズの宝石は見る角度によってその色合いを変え、目を飽きさせるという事がありません。形容するならば空にかかった虹を固めたかのような見事な逸品です。



「でも宝石を使うって言ってもどうするんです?」


【ああ、それを床に置いてくれ】



 リサは言われた通りに部屋の床に宝石を置きました。それからどうするのかとリサが聖剣に目を向けると、聖剣はおもむろにスマホカバーからその形を変化させて……、



【それを、こうするのだ】


「えっ!?」


 

 その姿を猫へと変えた聖剣はおもむろに宝石を口に入れてボリボリと噛み砕き、そのまま飲み込んでしまったのです。



【ふむ、たしかに機能が強化された実感があるな、どうやら成功のようだ……む。我が主よ、どうかしたか?】


「えー……いや、それはちょっとどうかと思いますよー……」



 至上の芸術品と言っても過言ではない宝石は無残にも粉々に噛み砕かれ、聖剣に取り込まれてしまったようです。元より換金するつもりなどなかったリサですが(というか出所不明の宝石を売る伝手なんてありませんが)、その扱いにはちょっと物申したくなりました。



【だが、そういう仕様なので仕方あるまい。それよりも追加機能の実験をするとしよう】


「……そーですね」



 すでに終わってしまったことですし、リサは気を取り直して機能の確認をすることにしました。



「たしか手紙には次元とか時空とか斬れるとか書いてありましたね」


【うむ、では我は剣になるので軽く振るってみるがいい】



 リサは久しぶりに剣になった聖剣を手にし、家具にぶつけないように気を付けながら振ってみました。



「……? 別に何も起こりませんね」


【ふむ、では今度は世界を斬ることを意識して念じながら振ってみるがいい】


「念じながら……世界を斬るって言われてもよく分かりませんけど」



 言われた通りに今度は念じながら聖剣を振ってみると、今度はちゃんと斬れました。世界が。


 何もないはずの空間に奇妙な切れ目が現れ存在感をアピールしています。切れ目の奥は薄暗くてよく見えませんが、きっとどこかの空間に繋がっているのでしょう。



「おおっ、斬れました!」


【この裂け目に入ればこの世界のどこか、あるいはどこかの異世界に移動できるはずだ。うっかり人が生存できない環境の世界に行くと死ぬので無闇に入らぬように】


「…………」



 どうやら取り扱いには気を付けないと大変なことになってしまいそうです。いくら勇者のスペックでも無酸素の世界や恒星のような超高温の世界に放り出されたら一溜りもありません。ちなみに、空間の切れ目はそのまま一分ほどかけて徐々に小さくなり最後は自然に消滅しました。



「他の人が何かの間違いで入らないように使う場所には気を付けたほうが良さそうですね」


【では、次はどこに行きたいかを念じながら斬ってみるがいい。恐らくその場所へと繋がる穴ができるはずだ】



 リサはどこに移動するか数秒ほど考え、それから小さく剣を振りました。



「あ、ちゃんと空きました」



 目の前の壁の近くと部屋の反対側の壁際近くの空中、その二箇所に同じような穴が空いています。


 リサは少し考えてから、机の上にあったプラスチック定規を手にとって片方の穴に入れてみました。すると、もう一方の穴から定規の端が出てきました。手に持った方を深く挿し入れると、もう片方の穴から連動して入れた分だけ出てきます。そのまま定規を抜き差ししたり穴の中で動かしたり捻ったりと実験してみました。



「これならわたしが入っても大丈夫そうですね」


【ほう、まず目の届く範囲で実験をしてみたのか。慎重なのは良い事だぞ】



 わずか三メートルほどの距離でしたが、たしかに瞬間移動が成功しました。これならば人間が入ってもちゃんと移動できそうです。



「これなら異世界に行く以外でも旅行や通学にも使えそうですね」


【ああ……む、我が主よ。もう穴が閉じそうだぞ】


「え、はい……え!?」



 いつのまにか空間の裂け目に定規が入ったままの状態で穴が小さくなって閉じてしまい、リサが手にしていた定規はほぼ真ん中あたりでスッパリと綺麗に切断されてしまいました。もう一つの穴があったあたりの床に目を向けると切断された定規のもう半分が落ちています。



「……これ、じつはすごく危なくないです?」


【うむ、手足で試さなくて良かったな】



 実際、早い段階でこの危険性に気付けたのは非常に幸運だったと言えるでしょう。空間の裂け目が開いてから閉じるまでには一分ほどの時間がかかるので気を付けてさえいれば問題は無さそうですが、それも危険性を知っていてこそです。一歩間違えれば大事故に繋がる可能性もありました。



「正直、この機能使うの怖いんですけど」


【そうだな、当分は最低限の使用に止めた方がよかろう。次に会った時にでも女神に改善の要望を出すとするか。安全性に難あり、とな】





 ◆◆◆




 それからしばらく後、追加の宝石(という名の修正パッチ)により無事に不具合は改善されました。


 要望を出した当初、女神(メーカー)側は、直すのが面倒だったのか『不具合ではありません、仕様です』『事故が起こってないから被害者はいない』『秘書がやりました』『政治が悪い』などの曖昧な返答を繰り返していましたが、被害者(ゆうしゃ)側が神子に告げ口しようとすると急遽態度を一変させて全面的に非を認め、ようやく不具合の修正に当たった、とのことです。



《聖剣ver2.01からver2.04への変更、改善点》

 ・空間転移時における安全性を強化。異空間を繋ぐ穴に異物がある場合、穴が一定以下の大きさには閉じなくなりました。


 ・ユーザーの要望に応え機能強化時の仕様を変更。宝石を砕いて取り込むのではなく丸ごと取り込む形式に変更しました。宝石は原型を留めている為、装飾としての使用も可能です。


 ・カラーリング機能を追加。従来の白銀色以外の色も選択できるようになりました。


 ・前回のアップデートで追加された音声再生機能を応用し、発声による意思疎通ができるようになりました。


もう少しだけ旅行編は続きます。

料理ネタもぼちぼち増やさないとですね。

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