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迷宮レストラン  作者: 悠戯
二つの世界編
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閑話・売店


 迷宮内で営業中の売店。

 そこでは実用性の無い土産物以外の品物も幅広く取り扱っています。


 というよりも、店を始めたばかりの頃はペナントや木彫りの人形など、どこに需要があるのか分からない物しか取り扱っていませんでしたが、当然そんな物を買っていく物好きなどほとんどいません。流石にこのままでは不味かろうと、客寄せのために売れそうな商品を後から増やしたという経緯があったりするのです。


 この迷宮を訪れる客層のほとんどは冒険者や行商人などの旅慣れている者が大半のため、缶詰や乾物などの保存食。それから主に女性向けの衣類や下着類などが定番商品として人気を集めていました。



「いらっしゃいませ、本日は何をお探しですか?」


「下着を見せてもらえるかしら? できれば何枚かまとめて欲しいのだけれど」


「ここのはデザインも可愛いし、着心地もいいんですよね~」



 紫のリボンで髪を結ったホムンクルスのアサガオが、冒険者の女性二人組の接客をしていました。まだ誕生から数か月も経たない若年とはいえ、そこは流石の人造生命体。なかなか堂に入った働きぶりです。



「なるほど、では新製品のこちらなどはいかがでしょうか?」



 そう言ってアサガオが取り出したるは、一見ただの紐と見間違えてしまいそうなほどに布面積の少ない一品でした。



「これを着て街を歩けば周囲の視線はお客さまに釘付け。いわゆるファッションリーダーというやつです」



 日常生活での着心地や実用性などを度外視して、極めて限定的なある種の用途を目的としたそれは、着用して人前に出れば良くも悪くも周囲の視線を釘付けにすることは間違いありません。場合によってはそのまま官憲のお世話になったり、正気を疑われて医療機関のお世話になったりする可能性も大いにありますが。



「……もう少し、布が多い物はないのかしら」


「これは、ちょっと着れませんね~……」


「では、こちらはいかがでしょうか? 布面積は先程の物より広いですが、通気性を優先したデザインなので長時間身に付けても蒸れることはありません」



 続いてアサガオが取り出したのは、先程の紐下着よりはだいぶ布面積の大きい物でした。特筆すべき点として、通気性を重視しているので蒸れにくく、長時間の着用にともなう痒みや汗疹などを大幅に抑えることができるメリットがあります。



「ソレ、通気性っていうか……ところどころ隠すべき部分にピンポイントに穴が開いているように見えるのだけれど」


「それもちょっと~……もっとごく普通の物でいいんですが~?」


「それは、残念です。もちろん普通の物もございますが、そういう物はどうにも面白味に欠ける物ばかりなので。果たして、お客さまのご期待にお応えできるかどうか……」


「下着に面白味は求めてないから大丈夫よ」


「毎度のことですけど、なんでまずはネタ商品を勧めてくるんでしょうね~?」





 ◆◆◆





「いらっしゃいませ、本日は何をお探しですか?」


「保存食を買いにきました。何かオススメはありますか?」


「オレは肉がいいな、この前買った牛の干し肉(ビーフジャーキー)は絶品だった」


 赤いリボンを付けたホムンクルスのユウガオが、保存食を買いに来た冒険者の男性二人組の接客をしていました。



「オススメですか。でしたら、コチラなどいかがでしょうか?」



 そう言ってユウガオが取り出したのは、何とも形容しがたい毒々しい赤紫っぽい色合いをした何かの干し肉。



「こちら、希少な多頭竜(ヒドラ)の肉を加工して作った干し肉でございます。複数の香草に漬けて臭みを取り、胡椒をはじめとした各種香辛料(スパイス)で味付けをした逸品です」



 ヒドラの干し肉は見た目からは想像できない美味しそうな匂いが漂ってきて、容赦なく食欲を刺激してきます。ですが冒険者たちには一つの懸念事項がありました。



「でも、ヒドラって毒ありますよね?」


「猛毒な。暗殺者が毒薬の材料にするって聞いたことがある」



 しかし、ユウガオは顧客の不安を解消すべく説明します。



「心配はございません、当方の商品製造班におります『ヒドラ調理師免許』を持った者が、ヒドラのノドの部分にある毒腺を丁寧に取り除き、更に念の為頭部や首ではなく脚の肉を使用しておりますので」



 更に、二人をより安心させる為にユウガオは言葉を続けます。



「よろしければ試食用に小さく切った物がございますので、お味見はいかがですか? ご不安でしたら私が先に毒見をいたします」



 ユウガオはそう言うと試食用に小さく切ったヒドラの干し肉を口に入れ、咀嚼してから飲み込みました。冒険者たちはその様子を見ていましたが、ユウガオが食べる前と変わらず平然としているのを確認すると、自分達も恐る恐るヒドラの肉を口にしました。



「……あれ、美味しい?」


「ああ、トリ肉の味をうんと濃くしたような……美味いなコレ」



 二人は安全に食べられるということだけでなく、ヒドラの肉の意外な美味しさにも驚いたようです。ずいぶんと気に入ったのか、試食しただけでなくヒドラジャーキーを一キロも買っていきました。




 ◆◆◆




 その日の閉店後。



「おや、ユウガオ。あのヒドラ肉売れたのですか? 見た目が悪いから、いっそ着色料にでも漬けてみようかと思っていたのですが」


「はい、アサガオ。はっきり言って食欲を減退させるようなグロい色合いでしたが、ダメ元で勧めてみたら意外と売れてしまいました。いやはや世の中には奇特な方がいるものです。そちらは例の紐下着と穴下着は売れなかったようですね。色合いが地味なのがいけなかったのでしょうか?」


「その可能性はありますね。では次は同じデザインの物をレインボーカラーに染めてみましょう」


「いいと思います。それと仕事中に思いついたのですが、クリアカラーの下着というのは斬新ではないでしょうか?」


「検討の価値はありますね。では製造班にその案を伝えて試作品を作ってもらいましょう」



 顧客の求める物を的確に察知する判断力と、柔軟な発想から次々と生まれる新製品の数々。それこそが商売繁盛の秘訣である……と彼女たちは思っているのですが、どういうわけか自信を持って勧める商品はロクに売れず、彼女たち曰く面白味に欠ける品々が売り上げの大半を占めている今日この頃。


 その結果に首を傾げつつも、彼女たちは今日も明日もその先も、自分たちのセンスと信念に従って更なる商売繁盛に向けて奮闘するのでありました。



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