表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮レストラン  作者: 悠戯
二つの世界編
53/382

予想外


「どうすべきか……私のなすべき事とは……」


 初日の会議が終わった後、パーティーの誘いを断って与えられた部屋へと戻り、ひたすらに自問を繰り返す。

 だが、当然ながら答えが出るはずもない。勇者と女神さまを引き合わせて以降、自分なりに考えてみたのだが、何が正しいのか答えが見えぬ。



「魔王ならば、どうするのだろうな……」



 一国の王と一つの世界の王とでは、同じ王でもスケールが違うのは先刻承知。だが、今日の会議の場で魔王の姿を実際に見て、私としても色々と感じ入るところがあった。

 かの御仁は一見ただの優男のようにも見えるのだが、一切の緊張や気負いを感じさせず、一つの世界をその双肩に背負っているなどとは思えぬほどの自然体であった。


 仮に、私が一つの世界など背負おうものならば、たちまちの内にその重責に潰されてしまうだろう。これが王としての器の違いというものなのだろうか?



「失礼いたします、少しよろしいですか?」



 部屋のドアをノックする音が聞こえたので、私は思索を中断して来訪者を部屋に招き入れた。



「夜分遅くに失礼いたします、陛下」


「いや、お気になさらず。して何用かな、神子殿」



 来訪者は我が国の機密でもある神子であった。今は女神さまが憑依してはいないようで、ヴェールも付けておらず素顔を晒している。



「ワタクシ、勇者さまに一度ご挨拶をしたいのです。先日、女神さまがワタクシが眠っている時に憑依して一度お会いしたそうですが、なにぶん寝ていたものでワタクシその時のことを覚えていないのです」


「なるほど……だが、今はやめておいた方がいいかもしれません」



 人伝に聞いただけだが、勇者は女神さまの話を聞いた後、ショックが大きすぎたのか部屋に閉じこもっているらしい。落ち着くには今しばらくの時間が必要であろう。

 それにいくら中身が違うとはいえ、神子と女神さまは外見的には完全に同一ゆえ、勇者が神子殿に良い感情を持つとは考え難い。



「……もしや、勇者さまに何かあったのでしょうか?」



 私の様子から尋常ならざるモノを察したのだろう。神子殿がそんな疑問を口にした。私は適当な言葉で誤魔化そうかとも思ったのだが……しばしの逡巡の後、全てを正直に話すことにした。

 目の前の彼女はただの操り人形ではない。

 特異な才を持つというだけでなく、極めて聡明な人物である。

 この神子の勘の良さを前にしては、安易な隠し事をするのは得策とは言えぬ。加えて、我ながら情けない話ではあるのだが、誰かに懺悔をすることで少しでも楽になりたかったのかもしれない。



「神子殿、実は……」



 女神さまが勇者に伝えた、友人である魔王を倒さねば故郷に帰れないという事情。そして勇者が退席してからの私と女神さまのやりとりも含め、包み隠さず神子に話した。



「……まあ、そんなことが。勇者さま、お可哀想に……」



 神子は本心から勇者の境遇に同情しているようであった。

 才知のみならず深い慈悲をも持ち合わせているとは、まさしく神聖なる御役目を担う御仁に相応しい。だが続けて神子が言った言葉の内容は、私の予想を遥か超えるものであった。



「やれやれ女神さまったら、どうやらまた悪い癖が出てしまったようですわね……陛下、その件ですが恐らくワタクシが何とかできると思いますので。恐れながら、任せて頂いてもよろしいでしょうか?」


「何とか……できるのですか!?」


「はい、恐らくは。それと申し訳ないのですが、陛下の部下の方にお願いしてワタクシの部屋に、砂利とお塩を届けて頂きたいのです。量は、そうですね……大きめのバケツにそれぞれ二杯分ほど」


「砂利と塩? もちろん構いませぬが、そんな物をいったい何に……」


「ふふふ、それは秘密ということで。では今夜中には何とかしますので、宜しくお願い致します。それでは、ワタクシは部屋に戻っておりますので」



 何だか予想もしない展開になってしまった。

 そんな物で本当にこの事態が解決できるのだろうか?





 ◆◆◆





「まさか、そんなことになっていたとは……」


「わたし、もうどうしたらいいのか分からなくて……」


 昨夜に女神さまから話を聞き、それからほぼ丸一日悩み続けた勇者(わたし)は、心配して部屋を訪ねてきたアリスちゃんに全ての事情を話しました。まだ何も解決してはいませんが、誰かに話したことでほんの少しだけ楽になった気がします。



「……コレはあくまで私の印象ですが」



 そう前置きした上でアリスちゃんが言いました。



「その女神ですが、あまり信用できないように思います。言っていることの全てが嘘とまでは言いませんが、恐らくは真実を全て伝えているわけでもない。真意は読めませんが、意図的に必要以上にあなたの不安を煽って思考を誘導しようとしている……ように思います。あくまで根拠のない勘ですが」



 それは、どうなんでしょうか?

 顔見知りの人物に紹介されたからか、わたしは特に疑わずにその言葉を信じてしまったのですが、言われてみれば話の運びに不自然な点があったような……?



「まあ、その辺りのことは現時点では推測するための材料が少なすぎて何とも言えません。それに今のあなたには何より休息が必要です」


「そう……ですね」



 たしかに今のわたしは、自分でも分かるほどに感情が昂ぶって冷静さを欠いています。少し休んで落ち着きを取り戻し、それから改めて情報を集めるなり、誰かに相談するなりすべきでしょう。



「今夜はもう遅いですから、明日の朝にでも魔王さまに相談しましょう。魔王さまなら絶対に何とかしてくれますよ」



 アリスちゃんが笑顔と共に口にした言葉はとても優しげで、なおかつ自信満々。わたしを励ますための虚勢などではなく、本当に魔王さんならどんな困難でもどうにかしてくれるに違いないという信頼が感じられました。


 その言葉を受けて多少なりとも安心したせいでしょう。

 今までまるで感じなかった眠気が一気に押し寄せてきました。



「眠れそうならそのまま横になって寝た方がいいですよ。今夜は私がそばにいますから、安心して休んで下さい」


「……ではお言葉に甘えて。おやすみなさい」



 眠気はたちまちの内に意識を蝕み、わたしは朦朧とした意識のままどうにか布団に潜り込むと、そのまま深い眠りへと落ちていきました。

 




 ◆◆◆





 翌朝目覚めたわたしは、昨日とは打って変わって全身に活力が満ち満ちていました。今ならどんな苦難だろうと、きっと何とかできるに違いない。そんな根拠のない自信が体中にみなぎっています。



「おはようございます、どうやらよく眠れたようですね」


「はい! それじゃあ早速魔王さんに会いに行きましょう!」


「随分気合が入っていますね。ふふ、でも元気なのは結構ですけど、ヨダレの跡くらいは拭いた方がいいですよ?」



 昨日落ち込んでいた反動か、気合が入りすぎて空回りしてしまったようです。

 洗面所で顔を洗い、髪に櫛を入れ、身だしなみを整えます。


 そうやって身だしなみを整えている間にも、落ち着くどころか逆に活力がどんどんと湧いてきて、どんな予想外の困難が襲い掛かってきてもどうにかしてやるぞ、という気持ちになってきます。



「それでは、魔王さまの所へ行きましょうか。今の時間なら多分レストランにいると思いますよ」


「はい!」



 わたしは魔王さんへと会いに行くため、勢いよく部屋のドアを開き……、



『この度は……誠に申し訳ございませんでした……っ』



 部屋の前で泣きながら土下座している女神さまの姿を目撃しました。

 いくらなんでも予想外すぎると思います。



小説の息抜きにウチのメインヒロイン描いてみました。

挿絵(By みてみん)

ちゃんと表示されてます?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ