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迷宮レストラン  作者: 悠戯
二つの世界編

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ホムンクルスのおしごと

書籍版一巻発売しました。

書籍版の感想は活動報告の方にお願いします。


 私の名はコスモス。

 お父さん、つまりは魔王さまにより生み出されたホムンクルスです。


 魔王さまが創り出したホムンクルスは現時点で六十体ほどおりまして、男女比率はほぼ半々。身体的特徴として全員が銀色の髪と瞳を有しています。

 本来、同時期に製造された我々に年功序列の考えを当てはめるというのも妙な話ですが、諸事情により他の個体よりもやや早く生まれた私が、長女として彼らのリーダーを務めさせて頂いております。


 我々の主な業務は魔王さまが創り出した迷宮、およびその周辺施設の保守管理。魔王さまが大まかに全体的な運営の方向性を決定し、それをお姉ちゃん……もとい、アリスさまが現実的な資金や時間的余裕などの要素を考慮しつつ検討。その指示を受けて我々が実行するというのが、基本的な迷宮運営の流れとなっております。


 主に魔王さまの気紛れのせいで、急な業務変更は日常茶飯事。予定にない迷宮の改築をしたり、土産物屋を設置したりなどの仕事が増えることもございますが、お給料や休日などはキチンと設定されておりますし、おおむね不満もなく充実した毎日を過ごしています。


 それに近頃は魔王さまとアリスさまは最近知り合った黒髪の女性、勇者さまと迷宮下層のレストランでおとなしく過ごしていることが多いせいか、我々の業務が急に増えることも比較的少なくなっているような気も。

 間接的にではありますが、無駄な業務やそれに伴う心労を減らす要因になった勇者さまには、我々ホムンクルス一同感謝の念を抱いております。


 しかしこれは私の個人的な事情なのですが、魔王さまとアリスさまが恋仲になることを望んでいる身としましては、魔王さまの周りに若い女性が増えて何かのはずみでフラグなど立ってしまわないか心配でもありまして。

 なにしろ、アリスさまときたら超がつくほどのヘタレ……もとい、非常に奥ゆかしい方ですので一向に魔王さまとの仲が進展しないのです。


 事実上の同棲関係にありながら、それ以上の関係に踏み込めないアリスさまを応援するべく、私なりのアドバイスをすることもありますが、何故か聞き入れてもらえません。

 具体的にはさっさと押し倒して既成事実を作ってしまえという類の助言を幾度かしたのですが臆病(チキン)……ではなく純情なアリスさまは、どうやらそういった強行手段に出るつもりはないご様子。



 さて、話が少々逸れましたが、本日は迷宮内の業務に携わる我々ホムンクルスの姿をご紹介したいと存じます。


 我々の業務の代表的なものの一つに清掃が挙げられます。


 たかが掃除、されど掃除。


 一般家屋ならばともかく、広大な迷宮すべてを掃除するとなると、綿密な計画を事前に立て各人員がその予定通りに業務を遂行しなければ、完遂は不可能と言っても過言ではありません。


「クスノキ、ヒマワリ、業務の進み具合はどうですか?」


 私が声をかけた二人はクスノキとヒマワリ。

 前者が男性型、後者が女性型のホムンクルスです。

 規則で決まっているわけではありませんが、ホムンクルスの命名には植物の名前が付けられることが慣例となっております。ついでに言えば男性が樹木、女性が花の名であることが多いでしょうか。あくまで傾向程度のもので、絶対的なルールというほどのものではないですが。



「リーダー。私の担当区域の清掃、予定より二分遅れとなっております」


「リーダー。(それがし)の担当区域の清掃は予定通り進行中。あと十二分で終了する予定です」


「それではクスノキは担当区域の清掃が終了したらヒマワリの補助に付きなさい。二人とも作業が終了したら休憩に入るように」


「「了解しました」」



 作業に少々の遅れがあるものの、この程度であれば許容範囲内でしょう。



「それはさておきクスノキ。何故、一人称が(それがし)なのですか?」


「はい、個性(キャラ)が被らぬよう思案した結果、一人称の変更を思いつきました」


「なるほど、納得しました。特に問題はないでしょう」



 我々ホムンクルスは全員が例外なく銀髪銀眼という身体的特徴を持ちます。

 更には生後一年未満という人生経験の浅さゆえに人格の発達も充分ではなく、どうにも個性というものに欠けがちなのです。有り体に言ってしまうとキャラが被っているのです。


 そのため各々が髪型やアクセサリを変えたり、このクスノキのように一人称を変えたりなどの工夫をして個性というものを模索中。言い方を変えれば、キャラを作っているとも言いますが。



「それでは業務に戻りなさい、私は他の場所を見て回ります」


「「了解しました」」


 

 清掃に続く我々の代表的な業務としては売店での接客、販売。

 開店当初は用途不明の木彫りの人形や木刀、キーホルダーくらいしかありませんでしたが、現在では取り扱い品目を大幅に増やしております。


 主に魔界での余剰生産分の食料を加工して作られた乾物や缶詰等の保存食や菓子類、弁当などの食料品。シャツやズボン、スカート、コート、下着類などの衣類。貴金属を加工して作ったアクセサリー類などが主な売れ筋商品でしょうか。



「アサガオ、ユウガオ。売れ行きはどうですか?」



 この両名は共に女性型のホムンクルス。

 アサガオは紫のリボン、ユウガオは赤のリボンでそれぞれ髪を結っています。

 名前が似ているせいか、あるいは外見が似ているから似た名前が付けられたのだったか。この二人は元々似た容姿に寄りがちなホムンクルス達の中でも、特にそっくりの双子のような外見を有しています。正直、私もリボンの色を見ずに見分けられる自信はありません。



「リーダー、直近の販売傾向について報告します。冒険者の方々が保存食や下着類をよく購入されていきます」


「リーダー、売れ筋商品の増産を進言します。具体的な各商品の売り上げについては、データをまとめて後ほど提出しますので」


「分かりました、前向きに検討しましょう」



 どうやら売店の営業は順調のようですな。

 将来的に店舗の拡大や増設も視野に入れるべきでしょう。



「ところでリーダー、一つ質問があるのですが」


「なんですか?」


「あの店の隅に置いてある木刀、開店以来売れたことがないのですが、何故撤去しないのですか?」



 確かにこの店に来るような冒険者の方でしたら大抵は金属製の武器を持っていますし、わざわざ武器としての性能で劣る木刀を購入する意味はないでしょう。ですが。



「魔王さまによると、土産物屋に木刀は必須なのだそうです」


「そうなのですか?」


「そうなのです」



 正直に申しますと、私としても売れない品は撤去してスペースを別のことに活用すべきだとは思いますが、魔王さまが仰る以上は仕方ありません。それに木刀を置いているスペースなど大して広いわけでもありませんし、放っておいても問題はないでしょう。



 さて、次の業務として迷宮の警備があります。



「ヒイラギ、何か異常はありますか?」


「リーダー、今日も(・・・)異常はありません」



 実のところ警備担当から「異常なし」以外の報告が上がってきたことは、これまで一度しかありません。その一度もどこからか子猫が迷い込んできたというだけで、それ以外に問題らしい問題は起こった試しがありません。

 平和なのは良いことですが、あまりにもヒマすぎるためか最近はこの業務の存在自体を疑問視する声が担当者から上がってきています。



「……リーダー、別の部署に転属したいのですが」


「考えておきましょう」



 組織の運営とはまことに難しいものです。


 さて、こうして我々の業務の一部をご紹介しましたが、いかがでしたか?

 今回ご紹介した業務以外にも、売店で販売する商品の生産や搬入、迷宮の改築や点検などの裏方の仕事をする者もおりますが、そのご紹介はまたの機会があれば。






 今回は最後に私の特別業務をご紹介して終わりたいと思います。



「それじゃあ、コスモス。夕方には戻るからお店を頼んだよ」


「はい、行ってらっしゃいませ。魔王さま、アリスさま」



 ある日のこと、魔王さまとアリスさまが珍しい食材を見に行くとかで、どこぞの街まで二人でお出かけすることになりました。


 そして魔王さまがレストランを空けている間にお客さまがいらっしゃった時に備えて、私が魔王さまの代わりに厨房に入ることになったのです。フロア側にも給仕(ウェイター)として警備担当のヒイラギが臨時で入っています。調理や給仕に関する知識は生まれつきありますし、事前に調理の練習をしておいたので恐らく問題はないでしょう。


 でも、そんなことはどうでもよいのです。


 私の関心はすでに二人のデートのことで埋め尽くされています。

 正直に言いますと、今も仕事を放り出して二人のデートをこっそりと見守りたい衝動をガマンしています。まあ恐らく、ほぼ確実に何事もなく健全に終わってしまうのでしょうけれど、万が一ということもあるかもしれません。



「折角のデートなんですから頑張って下さいね、お姉ちゃん」



 多分ムダに終わるとは思いますが。私は愛すべき()の恋路を祈るのでした……まあ、祈るだけならタダですので。 



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