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迷宮レストラン  作者: 悠戯
二つの世界編

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勇者、女神と出会う


 勇者(わたし)が魔王さんたちに出会ってから早くも二ヶ月が経過しました。その間、わたしや周りの人々はそれぞれ忙しく動き回ったり、逆にヒマを持て余して遊んでいたり。ちなみに、わたしは言うまでもなく後者です。


 人間界と魔界の会議の準備も着々と進んでおりまして、開催地である迷宮周辺には立派な議事堂が新たに建てられました。メインの議事堂をはじめ比較的小規模の小会議室(「小」といっても学校の教室三つ分くらいの面積があります)が二十、休憩室や食堂も複数完備されています。さらに大勢の宿泊客が出ることを見越して迷宮周辺に大型ホテルや病院なども建設されました。


 ちなみに、それらの施設のスタッフはホムンクルスの皆さんです。各種専門知識や技能をある程度のレベルで備えて生まれてくる彼らよって、各施設は円滑に運営されています。


 そういった施設の建設に加えて、迷宮から周辺の人間の街に繋がる道を舗装したりもしたそうです。ゴーレムやスケルトンなどの休息不要、ついでに給金も不要の労働力の威力は凄まじいものがありました。最早、何も無い場所に一つの街が突然現れたようなものでしょう。


 そうこうしている内に、各国から訪れた会議の参加者がポツポツと到着し始めました。身分の高い人が多いせいか、まるで大名行列みたいに何台もの馬車を連ねてくる人や、魔族を警戒しているのか何十人もの兵隊に周囲を守らせている人もいます。

 実際に会議に参加する人は精々十数人か、多くても三十人というところでしょうが、その従者や護衛まで含めると総人数は数百人にもなるでしょう。


 しかし、ホスト側の準備は万端。

 数百人どころか千人を超えても問題はないそうです。

 宿泊場所や衣食等は勿論、医療や入浴、果ては全員分の土産物まで用意してあるほどの念の入りよう。特に大きなトラブルもなく、会議の準備は順調に進んでいきました。



 そんなある日のことです。見覚えのある人物が、わたしをこの世界に召喚した国の王様がこの場所に到着しました。



「久しいな勇者よ……どうやら、妙なことになっているようだが」


「あ、どうもご無沙汰しています」


「報告では聞いているが、俄かには信じがたいのでな。まさか魔王が……」


「わたしもビックリしましたけど、魔王さんすごく良い人でしたよ。あ、そうだ。後でちゃんとご紹介しますね」


「う、うむ、よろしく頼む……」



 最初は本当にビックリしたものです。

 でも、悪い人じゃなくて良かったですね。

 王様の言葉からは「勇者(オマエ)の返事の軽さに驚いたよ」というニュアンスを感じたようにも思いますが、恐らく気のせいでしょう。



「それはさておき、勇者よ。後程、そなたに会ってもらいたい御方がいるのだが、先約はあるかな?」


「いえ、特にありませんよ。いつでも大丈夫です」



 戦いがなければ勇者の仕事はありません。

 ぶっちゃけ毎日ヒマなのです。



 「そうか、では今日の夕刻に迎えを寄越そう。では、また後でな」



 そう言うと王様は他国の使節団との話し合いの予定があるとかで、この場から離れて行きました。

 それにしても、紹介?

 どなたでしょうか?

 王様が「御方」というからにはすごく偉い人っぽいです。

 この世界に来てから色々な経験をしましたが、偉い人とお話するのはどうも緊張して慣れません。実はわたしもこの世界だと「偉い人」扱いされているらしいのですが、未だに実感がありませんし。


 ……などと、この時は思っていたのですが。結論から申しますと、わたしが会うことになったのは「偉い人」ではありませんでした。





 ◆◆◆





 それから数時間後、わたしは王様の配下の方に案内されて、新たに増築された議事堂の小会議室の一つにいました。配下の方はすでに退室し、現在広い室内にはわたしと王様、そしてもう一人の三人だけです。


 そのもう一人の人物は身体のシルエットから恐らく若い女性だと思われますが、ヴェールで顔を隠しているので表情は伺えません。その人物がおもむろにこんな言葉を口にしたのです。



『わたくしが神です』



 おおっと、いきなり反応に困る発言が飛び出しましたよ。



「……あ、えーと、はじめまして。勇者をやらせていただいてる一ツ橋リサと申します」



 とりあえず挨拶を返してみました。



 『…………』


 「…………」



 いきなり会話が終わってしまいました。気まずい沈黙が流れます。ここは一つ小粋なジョークでも飛ばして空気を温めた方がいいのでしょうか?



「勇者よ、余の方からも改めてご紹介しよう」



 気まずい沈黙をどうやって打破しようかと悩んでいると、空気を読んだ王様が助け舟を出してくれました。ずいぶん前にも思いましたが、この王様実に気が利きます。



「そなたをこの世界に召喚した術式が、偉大なる女神から我が王家に授けられたものだというのは覚えておるか?」


「はい、覚えていますけど?」



 そういえば、そんな設定でした。

 で、その話がこの女性に何か関係あるのでしょうか?



「信じられぬかもしれんが、この御方こそが、その女神様本神(ほんにん)なのだ」


「へー、すごいですね!」



 地球だったら「私が神だ」なんて言ったら良くてただの変人か可哀想な人扱いですが、なにしろここは魔法とかが普通にあるファンタジーな世界。きっと、そういうこともあるのでしょう。



「う、うむ……そこまであっさり信じられると逆に拍子抜けだが……」


『正確にはわたくしは現世で活動するための肉体を持っていないので、この神子(みこ)の身体に憑依している状態です』



 ははぁ、有名な青森県恐山のイタコみたいなものでしょうか。

 後で知ったところ、普通の神官や巫女はその声を断片的に聞くことができるのみで、神を降ろすことはどれだけ修行を積んでも不可能なのだとか。

 神そのものをその身に降ろせる神子は通常の神官とは一線を画した稀少な存在であり、その才能を持つ者は百年に一人いるかどうかというほどだそうです。



「勇者よ、神子の存在は我が国の機密なのでな。すまぬが他言は控えてくれ」


「はい、わかりました」



 存在自体が国家機密とは神子さんも大変です。

 日常生活とかどうしているのでしょうか……なんて呑気な心配は、この直後の女神さまの発言で脳裏から消し飛びました。

 


『さて、そろそろ本題に入りますが……勇者、貴女は魔王と友好関係を結び、魔王の持つ世界を渡る能力で元の世界へと帰還しようとしている。これに間違いはありませんか?』


「はい、そうですけれど」


『残念ですが、それは無理なのです』


「無理?」


『勇者召喚に使われた術式。それにより貴女の魂はこの世界に縛られています。故に正規の手段、すなわち魔王の打倒以外の方法でこの世界から離れようとすれば、貴女の魂は砕け死に至るでしょう』


「…………え?」



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