序章:一つの結末
どうしてこうなってしまったんだろう?
その場にいた全ての者がそんなことを思っていました。
静寂で満たされた広い空間に、時折金属を打ち鳴らすような音が鳴り響いています。その音はまるで聖堂の鐘のように清澄で、なのに音を鳴らす者の心境が伝わってくるような空虚な音でありました。
音の発生源である二人の人物、勇者と魔王がそれぞれの武器を打ち合わせる動作は美しくすらあり、まるで熟練の剣闘士による剣舞のようにも思えます。
しかし、それは決して剣舞などではないのです。
剣戟の回数はたちまち十を越え、五十を越え、そして百に届こうかという時、戦いの均衡が崩れました。剣を打ち合わせた拍子に勇者と魔王の視線が交錯し、どのような想いによるものかほんの一瞬だけ魔王が動きを止めたのです。
それは髪の毛一筋ほどの刹那の間ではありましたが、勇者はその虚を見逃さず、動きを止めた魔王の頚部に向けて逆袈裟に聖剣を振るいます。
魔王は勇者の聖剣がまるでスローモーションのように迫ってくるのを、避けるでもなく防ぐでもなく、ただ軽く微笑みながら見つめていました。その表情には恐怖や苦痛を押し殺した様子などなく、むしろ剣を振るう相手を安心させようと気遣うかのようでありました。
聖剣がゆっくりと魔王の頚部へと吸い込まれていき、そして……。
「これでいいんだ。これで君は家に帰れるんだから」
そんな声が聞こえた気がしました。





