番外編・魔王の隠し子騒動(後日談)
前回の後日談です。
「それで、お父さんとはもうキスぐらいはしたんですか?」
「っな……!?」
ある日の夜、アリスは自室でお茶を飲みながら、青いリボンで銀の髪を結ったホムンクルス、今ではアリスよりも大きくなったコスモスと雑談をしていました。
「早く告白しないと、お父さんを別の女に取られてしまうかもしれませんよ、お姉ちゃん?」
「そ、それはその……まだ勇気が出ないというか……そういうのはしかるべき手順を踏んでからでないと……あと”お父さん”という呼び方は色々と誤解を招くので、魔王さまのことは『魔王さま』か『創造主』と呼ぶように言ったじゃないですか!」
「人目がある時はちゃんとそうしてるから大丈夫ですよ。それよりも、お父さんはそういう恋愛方面はものすごく鈍いのですから、はっきり言葉にしないと絶対に気付いてもらえませんよ」
「……それは、その、折を見てというか」
今ではすっかり幼児性が抜けて流暢に喋れるようになり、その上で結構言いたいことをズバズバ言ってくるようになったコスモスにアリスは終始押され気味です。
ドラゴンの群れに囲まれても眉一つ動かさないのに、恋愛に関しては超が付く臆病のアリスと、魔王軍の中で密かに「もしかして異性に興味がないのでは?」という疑問を持たれるレベルで恋愛方面に疎い魔王とでは、はっきり言ってこの先何百年も今以上の関係に進展しない可能性も否定できません。
「あ、でもこの間、魔王さまと一緒に人間の町に出かけた時にですね……」
「おや、いつの間にかデートなんてしてたんですね」
「デ、デートというか、食材の買出しに……魔界産の物とは微妙に違いがあるとかで。それで、その時に……うふふ」
「ほほう、その時に?」
「人混みがすごくてはぐれそうになって……それで、魔王さまがはぐれないようにって手を繋いでくれたんですよ!」
「……喜んでるところに水を差すようですけれど、それ、お父さんの方は深い意味とかなくて本当にただはぐれないためだけに繋いだんだと思いますよ」
その時の手の感触を思い出したのか、嬉しそうに語るアリスにコスモスが冷静なツッコミを入れます。
「まったく、手をつないだだけとか子供ですか……いっその事、歩き疲れたからとか何か適当な理由をつけて、そこらの宿に連れ込んで押し倒してしまえばよかったんですよ。既成事実さえ作ってしまえば後はどうとでもなります」
「押し……ッ!? な、なな、なんてことを言うんですか!?」
コスモスが半ば本気、半ば冗談で言った言葉を聞いて、アリスの顔が一瞬にして真っ赤に茹で上がりました。
「そ、そんなはしたない事できるはずがないでしょう! ああ、そんなことを言うようになってしまって……ちょっと前までの純真で可愛らしいコスモスはどこに行ってしまったんでしょう?」
「純真で可愛らしいコスモスちゃんならば、見ての通り目の前にいますが。何か?」
「…………」
「おや、無反応ですか。悲しいですね、泣いてしまいそうです」
そんな台詞を眉ひとつ動かさない無表情で顔で言うコスモスを前に、この話題においては勝ち目がないと悟ったアリスは、多少強引ではありますが話を打ち切る事にしました。戦略的撤退です。
「……あ、あら、もうこんな時間ですね! 寝不足は健康に悪いですしそろそろ眠りましょう、そうしましょう!」
「そうですね、アリスお姉ちゃんをからかって遊ぶのは楽しいですけれど、度が過ぎて泣かれてしまっては困りますからね。今日はこの辺で勘弁してあげましょう」
「なっ!?」
「それでは、お休みなさい。良い夢を」
そう言うと、コスモスはアリスが何か言う前に素早くドアから出て行きました。
からかわれていた事に気付いたアリスは一瞬追いかけようか迷いましたが、そうするとまたひどくからかわれそうな気がしてやめました。
夜遅いのは本当だったので、アリスはそのままベッドへと向かおうとして、
「ああ、一つ言い忘れました」
と、コスモスが戻ってきて一言。
「呼び方のことですけど、私としては早くお姉ちゃんのことを”お母さん”と呼びたいので、もっと色々とお父さんとのことを頑張って下さいね。それでは失礼します」
と、言いたいことだけ言ってまたすぐに出て行きました。
アリスは励まされたのか再度からかわれたのかも分からずに、しばらく判断に迷っていましたが、考えているうちに何だかそんなことで悩むこと自体が負けな気がしてきて、よく分からない敗北感を感じながらふて寝をするようにベッドに潜り込みました。
「……お母さん、か」
自分が誰かにそう呼ばれる未来がいつか来るのだろうか?
微睡む頭でそんなことを考えながら、アリスは夢の世界へと落ちていきました。
■コスモスのキャラ補足
・容姿は長身の銀髪美女、アリスから貰ったリボンで髪を結っている
・沢山いる魔王作のホムンクルスたちの長子でリーダー格
・前回の事はちゃんと覚えていて、その時の記憶からアリスの事が好き。ただし愛情表現に少々難あり
※(追記)活動報告に偽次回予告を投稿しました





