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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語

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修行の成果⑦


 常日頃からの修行の成果を遺憾なく発揮して、見事故郷の武術試合で好成績を残すことができたシモン少年。それ自体は大変結構なことですが、アリス曰く、どうもライムがそんな彼を相手に修行の成果を披露したいらしい。


 さては、仮にも大勢の騎士達の頂点に立ったシモンを叩きのめすことにより、己が武名を広く天下に知らしめるつもりなのでは……などとは流石にシモンも考えません。数年ほど前にボコボコにされた記憶が脳裏にチラついて、少しばかり肝が冷える心地がした程度です。


 それに、そんな微笑ましい誤解もすぐに解けることとなりました。

 アリスから修行の成果云々の話を聞いたすぐ翌日。



「えらく豪勢だな。なに、俺の優勝祝い?」



 いつものように午前の勉学と稽古を終えたシモンが魔王の店に顔を出すと、まだ料理を注文する前から山のようなご馳走の数々が厨房から運ばれてきたのです。


 前菜として魚介のマリネ、卵やチーズやほうれん草のキッシュ。

 薄切りのトマトにモッツァレラチーズ、バジルを合わせたカプレーゼ。

 琥珀色のコンソメスープはよほど丁寧にアクを取ったのか微塵の濁りもありません。

 魚料理は大きなスズキのパイ包み焼き。

 肉料理は、大きなローストポークに加えて百科事典みたいに分厚いビフテキ。

 口直しや食後のデザートとして、見栄えよく飾り切りが施されたカットフルーツに、ホールのままのチーズケーキにチョコレートケーキ。


 一つ一つの料理だけなら普段のこの店で見かける物もありますが、これらが一度に同じテーブルに並ぶと迫力が違います。この店でも滅多に見かけないほどのご馳走です……が、しかし真に驚くべき点は他にあります。


 場所は魔王の店ではありますが、現在テーブル上に並んでいる料理の数々は彼が作った物ではありません。もちろんアリスやリサやコスモスでもありません。



「ほう! これを全部ライムが?」


「ん。それほどでも」


「いやいや、大したものだ。食ってもいいのか?」


「うん。そのために作った」



 ここまで来れば一目瞭然。

 ライムが披露したかった修行の成果とは、つまり料理修行の成果だったというわけです。彼女は以前から家の手伝いやアリスに教わったりなどで時々料理をしていましたが、今回シモンの勝利を祝うために一段と気合を入れて練習したのでしょう。



「どう?」


「うむ、美味い! 言っておくが、お世辞ではないぞ。このキッシュなど特に……ちょっと焦げておるが、なに、この程度なら失敗のうちに入らん。香ばしくて美味いぞ」


「そう」



 流石に全部が全部プロ並みとは言えないにせよ、それでも十分に美味しいと思える範囲。少なくとも明確な失敗はなさそうです。

 ライムは一見するといつもと同じ無表情に見えますが、シモンが新しい料理に手を付けてそれを褒めるたびに長い耳がぴょこぴょこと上下に動いています。彼は普段から魔王や城の料理人の作るモノを食べ慣れていますし、いくら短期間で猛練習をしたとはいえ内心では気に入ってもらえるか不安だったのかもしれません。



「おっと、俺ばかり食べているのもなんだな。どうせ一人では到底食い切れぬほどあるのだ、ライムも一緒に食おう。他の皆も……と、わざわざ俺の為に作ってくれたという話だったが、皆に分けても問題ないか?」


「うん。そのほうがいい」


「だそうだ。店が忙しくないようならアリスも、ついでに魔王にも分けてやるか。そうだ、アリスよ。手間をかけさせるが、どうせならリサやコスモスにも声をかけてやってくれ」



 以降はいつもの面々を加えての大宴会。

 流石にライムが最初に用意した料理だけでは足りなくなってきましたが、なにしろここはレストラン。食べ物ならそれこそ売るほどあるのです。


 好きに飲み食いやお喋りを楽しんで、たまに誰かが厨房に引っ込んでは何か作って持ってきて、また飲んで食べて大いに笑う。



「シモン」


「どうした、ライム?」


「楽しい?」


「うむ、もちろんだ! 城でも家族や城の者達にずいぶんと祝ってもらったのだが、立場上、どうしても堅苦しくなってしまうのでな。俺には今日みたいな砕けた集まりのほうが気楽に寛げてよい。料理も美味いしな」


「そう。良かった」



 と、このようにライムの修行は大成功。

 確かな手応えを得た少年少女は、より一層の熱意と理想を胸に、身も心も更に大きく成長していくことでしょう。



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― 新着の感想 ―
果物やその他は狩りで仕留めるか、菜園の物で肉は狩りですね。熊を狩りにいくから、他の動物もシーズンになったら狩りに行くライム。ハートよりも先にシモンの胃袋を鷲掴みにしてましたか!
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