デカいは正義
デカ盛り。
いわゆる「大盛り」や「特盛り」の更に上。
読んで字の如く、極端に多く盛りつけた料理のことです。
「最近、流行ってるんですかね?」
「言われてみれば看板とかでよく見るかも」
迷宮都市の中でも飲食店が多く並ぶ一画。
アリスとリサの二人がとある目的のため歩いていると、盛りの多さをアピールする看板や張り紙がやたらと目に付きました。「デカ盛り」以外にも「爆盛り」や「激盛り」など、店によって文言は多少違いますが意味するものは同じでしょう。
料理が美味しいと嬉しい。
美味しい料理が沢山あれば、もっと嬉しい。
そういった気持ち自体は特におかしなものではないはずです。
「わ! アリス、アレ凄いよ」
「天ぷら屋さん? えっ、アレ天丼ですか!?」
たまたま窓から店の中が見えてしまったのですが、タライみたいに大きな器いっぱいにご飯が敷き詰められ、その上に様々な種類の天ぷらが山のように積み上げられています。
これにはリサ達もビックリです。同じような感想を抱いた人は少なくないようで、二人と同じ通行人や店内に居合わせた他の席の客からも感嘆の声が上がっていました。漏れ聞こえてくる周りの話からするに、なんでも予約限定の特別メニューなのだとか。
「流石に一人で食べるわけじゃないんですね。それでもかなりの量になりそうですけど」
「取り皿が普通サイズのドンブリなんだね」
件のデカ盛り天丼を頼んだのは、恐らく冒険者と思しき風体の大柄な男性四人組。見るからに沢山食べそうです。彼らは取り皿として用意された空のドンブリにご飯と天ぷらをそれぞれ確保すると、凄まじい勢いで食べ始めました。一人頭の量は目測で三人前から五人前くらいになりそうですが、このペースで食べ進めば完食は難しくなさそうです。
「おっと、いつまでも店の前で立ち止まっては迷惑でしたね」
すっかり見入っていた二人でしたが、ほどほどのところで見物を切り上げました。
迷宮都市には冒険者や建設業など肉体を動かす仕事をする人間が多くいますし、そういった人間は大飯喰らいと相場が決まっているものです。もちろん一定以上の美味しさがあるのが前提ですが、たっぷり安く食べられるメニューに少なからず需要があるのは容易に想像できます。
店側としても使う材料の種類は同じで量を変えるだけなら、メニューを増やすためのコストもさほどかからないはず。しいて言うなら特大サイズの食器を用意するくらいでしょうか。
先程の店が特別メニューを予約限定にしていたのもコストを抑えるための工夫でしょう。見た目のインパクトから宣伝効果も狙えます。一見すると奇異に見えるのは否定できませんし、食べ切れない量を頼んでのお残しは論外ですが、あれはあれで相応の合理性はあるようです。
「じゃあ、魔王さんの店でも真似してみる?」
「うちのお店で? うーん、現状でも特に困ってはないですし、今は別に……ですかね。そういうリサのご実家のお店ではそういうのやらないんですか?」
「こっちもあんまりお店の雰囲気に合わないかな? 言ってもお父さんやお爺ちゃんに却下されそうだし」
一定の合理性は認めるにせよ、ならば他でもどんどん真似すべきかというと、決してそういうわけではないのでしょう。元々のお店の雰囲気や客層の違いもありますし、安易に取り入れても良い結果に繋がるとは思えません。
うちはうち。
よそはよそ。
価値は認めつつも適性を考慮して適度な住み分けをするのが大事だよね、と。そんな良い話風な教訓を雑にまとめたところで、二人はようやく本日の目的地に辿り着きました。
「あ、ここじゃないかな?」
「もう結構並んでますね。早めに出てきて正解でした」
そうして二人が辿り着いたのは、まだオープンから間もないと思しき真新しい店構えのスイーツ店。恐らくはアリス達と同じ目的で来たと思われる、多くの女性客やカップル客が店の前に行列を作っています。
「あのガルドさんが絶賛してましたからね。一日限定三十食のドラゴン盛りデラックスパフェ。果たしてどんなシロモノが出てくるのか気になります」
「わたしなんて今日のために先週からカロリー制限してたからね。今日はダイエットとか気にせずに最初っから全力で行っちゃうよ!」
彼女達のお目当ては最近スイーツ好きの間で評判の特大パフェ。
迷宮都市のあらゆる甘味店を一つ残らずチェックしていると噂の冒険者、あの“竜殺し”ガルド氏がオススメしてきたとなれば、ただ単にサイズが大きいだけで味はそこそこという凡庸な品ではないはずです。
料理が美味しいと嬉しい。
美味しい料理が沢山あれば、もっと嬉しい。
そんな人類普遍の真理に従って、アリスとリサは約束された幸福へと歩を進めるのでした。