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迷宮レストラン  作者: 悠戯
勇者と魔王と元魔王編
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魔王、ラーメン屋になる


「へい、らっしゃい!」


 店内に入った勇者(わたし)を魔王さんの威勢のいい声が出迎えました。

 その声に対するこちらの返答はもうすでに決まっています。



「麺かため、脂少なめ、味の濃さは普通で。あ、ライスも下さい、大盛りで」


「へい、毎度!」



 魔王さんは元気良く注文に答えました。

 ちなみに本日の彼は普段のエプロン姿ではなく、黒いTシャツを着てバンダナのように頭にタオルを巻いた格好です。ラーメン屋さんって何故かTシャツ率高いですよね。


 そして、席に座ってメニューを眺めたりお冷を飲みながら待つこと少々。



「お待たせしました!」



 注文したラーメンとライスが出てきました。

 

 おおっ、一年ぶりのちゃんとしたラーメン……!


 日本にいた頃は別段ラーメン好きというわけでもなかったのですが、久しぶりに嗅ぐスープの香りには抗いがたい魅力を感じます。


 そういえば旅をしていた時には、小麦粉を捏ねてラーメンモドキの創作麵料理らしきモノを作ったりもしたものです。寸胴については聖剣を変形させればいいとしても、馬車の旅では常に鍋を加熱し続けるわけにもいきませんし、使える材料も自然と限られてしまいます。

 特に味噌も醤油も使えなかったので貧弱なダシの塩ラーメンしかできず、大いに不満が残る出来となったものです。幸い、そんなラーメン初心者の作った「モドキ」でも、仲間の騎士さん達は先を争うように食べてくれましたが。


 おっと、そんな昔語りをしている間にスープが冷めたら一大事。

 今は目の前の一杯に集中するのが食べる側の礼儀というものでしょう。


 豚骨系の濃厚なスープ、太麺の上にチャーシュー、ノリ、ほうれん草、タマゴの乗った、いわゆる「家系」というタイプのラーメンのようです。


 まずはレンゲでスープを一口。

 濃厚な豚骨の旨味と脂のコクが口内に強烈な刺激を与えてきます。


 続いて、すかさず麺を一すすり。

 スープの良く絡んだ太麺には強いコシがあり、小麦の味も生きていて、濃厚なスープに負けない存在感を主張しています。


 更にはチャーシュー、ノリ、ほうれん草などの具を攻略していきます。

 肉の存在感を残しつつも箸で切れるほど柔らかく仕上げられたチャーシューは、単品でご飯のおかずになりそうなほどのインパクト。

 ラーメンのチャーシューって大きく分けてトロトロに柔らかく煮込まれたソフト系と、お肉の歯応えを強めに残したハード系がありますけど、今回はどちらかというと前者寄り。漢字で書くと「焼豚」ですが、実質的に煮豚に近いタイプのようです。ええ、実に結構。


 ほうれん草は濃い目の味で飽きかねない口内をさっぱりさせて、味覚をリセットさせてくれる名脇役。ノリはあえてスープに浸してシナシナになったところで、ライスを巻いていただきます。これがなんとも美味しいんです。


 そして忘れてはならないタマゴです。

 半熟の黄身がこぼれないように二つに割って半分はそのまま食べ、もう半分をチャーシューと共にライスに乗せて食べるのです。大盛りのライスの上に半分に割ったタマゴとチャーシュー一切れ。そこにレンゲでスープをかけながら食べるのが勇者(わたし)の流儀。更には卓上に用意されていたゴマやコショウも駆使して、舌飽きを回避しつつ味を上乗せしていきます。

 世の中にはラーメン丼のほうにライスを投入する流派もあるようですが、白米に対するスープの染み具合を好みの加減にコントロールしやすいのが、我が茶碗派のメリットでしょうか。


 まあ、このあたりに絶対的な優劣はありません。

 幾度となく食の実戦を積み重ねながら、個々の好みで自分に合ったやり方を見つけるのが良いものかと。ラーメンライス道とは、かくも深く険しい道のりなのです。


 まあ、そんなこんなで麺やらスープやらと格闘すること十分少々で完食。

 最後に氷の入ったお冷を飲んで身体の火照りを冷まします。ただの水なのに濃い味のラーメンを食べた後のお冷の美味しさは異常だと思います。むしろ、この水のために我々はラーメンを求めていると言っても過言ではないような……ああ、いえ、それは普通に過言ですが。






 さて、すっかり満足したわたしの脳裏には「次は餃子も頼もう」とか「ライスは普通盛りでよかったかも」とか色々な考えが浮かんでいましたが、それらは一旦後回し。

 差し当たって今一番気になっていることを、目の前の黒Tシャツとタオルを装備した魔王兼ラーメン屋さんに聞いてみました。



「なんで、お店がラーメン屋さんに変わってるんですか!?」


「マイブームだからかな? あと、綺麗に完食してからツッコムあたり勇者さんも魔王軍(ウチ)の芸風に染まってきてますね!」



 なんとも爽やかな笑顔で返されました。


 ほんの二、三日離れている間に、見慣れたレストランがラーメン屋に改装されていた。それを「マイブームならしょうがないかな?」と、その理由に納得してる自分がちょっとだけ怖いです。






【追記】

・翌日、マイブームが去ったのかラーメン屋の内装は取り払われました。


・現在はケーキバイキング用の内装へと変わっています。チーズケーキが美味しいです。


・次のマイブームが何になるかは魔王さん本人ですら予測できないようです。


・その時の内装に関わらず通常メニューも注文できます。



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