表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
314/382

夏らしい飲み物


 とある夏の朝。

 コスモスとアリスは二人で散歩をしていました。

 まだ早い時間にも関わらず、日陰にいても汗が滲み出てきそうな暑さです。


 しかし、夏が暑いのは当たり前。

 そうと分かっていれば、それなりの準備もできるというもの。



「ふう、暑い時はこれに限りますな」



 コスモスが提げていたポシェットから取り出したのは地球製の保温機能付き水筒。中身は煎った大麦から煮出した自家製の麦茶です。冷たい氷を一緒に放り込んでおいたおかげで、香ばしい麦茶はキンキンに冷えています。



「あら、いいですね。私にも一口もらえます?」



 暑い中、すぐ隣で冷たい飲み物を飲んでいるのを見たら自分も欲しくなるのが人情。

 もちろん、アリスはちょっとやそっとの暑さで音を上げるほど柔ではありません――多分、魔法の護りがあれば活火山の火口に飛び込んでも無傷で生還するでしょう――が、それはあくまで「耐えられる」「我慢できる」という意味であって、この暑さがそのまま快適に感じられるワケではないのです。暑い日には普通の人と同じように冷たい物が恋しくもなります。



「ええ、もちろん。一口と言わずお好きなだけどうぞ」



 コスモスとしても、ここでアリスの頼みを断るほど狭量ではありません。喜んで水筒を差し出しました。受け取ったアリスは喉が渇いていたせいもあってか一気に傾け……、



「そう、これこれ。この醤油とカツオ出汁の風味が……っ!?」



 麺つゆでした。

 しかも冷えてもいない常温のまま。

 芳醇なカツオと昆布の合わせ出汁が口一杯に絶妙な不快感を演出します。



「ふふふ、初歩的なトリックです。あらかじめ、ポシェットの中に全く同じ見た目の水筒を用意しておいたのですよ。あとは隙を見てすり替えただけで」


「ゆ、油断しました……」


「ははは、では口直しにこっちの水筒をどうぞ」


「は、早く渡して下さいよ、まったくもう! そうそう、このスパイシーな風味。やっぱり夏といえば……カレーッ!?」



 カレーでした。

 どうやら、ダミーの水筒は他にもあったようです。

 刺激的なスパイスに油、汁に溶け込んだ肉や野菜の風味。こちらもまた冷たくも熱くもない絶妙な生暖かさで味覚を蹂躙してきます。



「アリスさま、口に含んだ食べ物を吹き出すなんてお行儀が悪いですよ?」


「よりにもよって貴女が言いますか!? 今度こそちゃんと口直しの水筒を……いえ、今度は途中で目を離しませんから、先にコスモスが毒見してから渡してください!」


「ええ、構いませんよ……ふう、やはり夏は冷えた麦茶に限りますね。おや? 失礼、残っていたのを全部飲み切ってしまいました。これはうっかり」


「わざとですよね!? 絶対、わざとやってますよね!」



 コスモスが水筒を逆さに振ってみせますが、麦茶はもう一口分も残っていません。

 もちろん、わざとです。

 アリスからツッコミの逆水平チョップが連続で叩き込まれていますが、狙い通りのリアクションを引き出せたからか、コスモスは実に嬉しそうな笑顔を浮かべていました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ