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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
312/382

ぷるぷるできらきら


 暑い。

 暑い。

 とにかく暑い。



「いらっしゃいませ……って、あら? 今日は二人とも元気がないですね」


「なにしろ、こう暑いとな……」


「ん。こげそう……」



 この日、午後のお茶の時間に姿を見せたシモンとライムは、この二人にしては珍しいことにイマイチ元気がありません。一日の大半を涼しい地下で過ごすアリスにはピンと来ないのですが、どうやら例年以上の暑さに夏バテ気味の様子。

 話を聞くに、いつも一緒に遊んでいる近所の子供たちも大体似たような状態なのだとか。体格の関係上、まだ成長途上の子供は地面からの輻射熱の影響をより強く受けますし、体内に蓄えておける水分量も多くありません。単純な体力差もあって、幼い子供ほど暑さによる影響を受けやすいのです。



「とりあえず、冷たい水をくれぬか。このままでは干乾びてしまいそうだ」


「ひものになりそう」


「ちょっと待っててくださいね。そういう時は……」



 アリスは普段客用に出しているお冷をそのままではなく、厨房から取ってきた食塩と砂糖をそれぞれ少々、そして半分に切ったレモンの汁を絞り入れてから持ってきました。



「前にリサから聞いたんですけど、汗を沢山かいた時は水分だけじゃなくてナトリウムやビタミンっていう物を摂ったほうがいいとかなんとか。たしか、スポーツドリンクもどき? とか言ってましたね」


「なるほど。よく分らぬが、たしかに身体に染み入るような美味さだ」


「うん」



 人体というのは上手くできているもので、身体にとって不足している成分を好ましく感じるようになっているのです。きっと、炎天下を歩いて大量に汗をかいた後でなければ、このスポーツドリンクもどきをこれほど美味しく感じることはなかったでしょう。

 無論、本格的な熱中症や脱水症状であればこれだけで治ったりはしません。しばらく安静にして休む必要がありますが、シモンたちは一気に元気を取り戻したようです。



「ふっかつ」


「うむ、生き返った気分だな。食欲も出てきた気がする」


「ふふ、それは良かったです。それじゃあ、もっとちゃんとしたお菓子でも出しましょうか。ちょうど夏向きのさっぱりしたのがありまして」



 元気を取り戻したら自然と食欲も出てくるもの。

 お菓子といっても重くどっしりとしたクリーム系やアンコ系は厳しいものがありますが、アリスもそこはきちんと理解しています。


 夏にぴったり。

 爽やかな風味。

 きらきらと輝く見目。

 舌触りの良いぷるぷる食感。



「はい、お待たせしました。ミックスフルーツゼリーです」


「おお、これは美しいな」


「きれい」



 涼やかなガラスの器に鎮座するのは、宝石のようにキラキラ輝くフルーツゼリー。ルビーのように赤いイチゴ、向日葵を思わせるオレンジ、瑞々しいメロンの緑。パインやキウイは酵素でゼラチンが溶けないようシロップ煮にしてあるようです。



「ぷるぷる」


「うむ、この舌触りが良い」



 匙ですくって口に運べば、暑さも忘れる夢心地。

 一口、また一口、さらに一口。

 食べれば食べるほどに食欲が湧いてくるかのよう。



「げんき」


「うむ、いつもの力が戻ってきたようだ」



 器が空っぽになる頃には、二人ともすっかり元気を取り戻していました。

 それ自体はもちろん良いことではあるのです、が。



「よし、これならまだ動けるな。ライム、外でさっきの続きをやるか」


「ん。まけない」


「続き? 何かの遊びですか?」



 気になったアリスが尋ねてみました。



「いや、遊びではなく勝負だ。あとついでに鍛錬だ。中央市場の近くに大きめの公園があるだろう。あそこでどちらが速く走って一周できるか朝からずっと勝負をしていたのだ。昼食の時以外ずっとな」


「まけない」


「うむ、その意気や良し。では元気も出てきたところで早速」


「いやいやいや、二人とも待ってください。早速、じゃありません」



 子供だからとか関係なく、炎天下で何時間も走り続けていたら誰だってグロッキーになるでしょう。むしろ、そこまでやってちょっと調子が悪い程度で済んでいたのが不思議なほど。

 なんにせよ、アリスとしては流石に見逃せません。

 子供が危険な遊びをしようとしていたら、それを止めるのが大人の役目というものです。幸い、今の時間は店はさほど混み合っていません。



「そうだ、良かったら私の部屋で一緒に遊びませんか?」


「アリスの部屋でか? まあ、おれは構わんが」


「わたしも」



 何も暑い時にわざわざ外遊びをする必要もありません。

 快適な屋内で楽しく過ごせばいいのです。









「ふふ、ちょうど新しい子供服が出来たところだったんですよ。試着してサイズが大丈夫そうだったら、このままプレゼントしますね」


「いや、待て待て! それはどう見ても女物だろう。どうして、ライムではなくおれに着せようとするのだ?」


「え、だって似合いそうですし?」


「うん。わたしもそうおもう」


「似合ってたまるか! こら、二人とも服を脱がそうとするでない!?」



 繰り返しになりますが、こういう日は快適な屋内で楽しく過ごせばいいのです。ただし、全員が全員楽しいとは限りませんが。 



「あら、可愛い」


「ん。シモンかわいい」


「いっそ殺せ……」



 フリルたっぷりのスカートを着せられた“シモンちゃん”。事情を知らなければ美少女にしか見えない美少年は、色とりどりのアクセサリーを付けられて、奇しくも先程のフルーツゼリーのように煌びやかであったそうな。




◆アカデミアがキリの良いところまで進んだので、いつものように章の合間にレストランを何話か更新していきます。

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