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迷宮レストラン  作者: 悠戯
勇者と魔王と元魔王編
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閑話・???ゴーレム

クリスマスということでケーキの話です。




 皆さん、おはようございます。

 もしくは、こんにちは。

 ないしは、こんばんは。

 勇者です。


 突然ですが、皆さんはゴーレムという魔物をご存知でしょうか?



 ファンタジー系のゲームや小説などではそこそこメジャーな、大雑把に言うと魔法的な不思議パワーで動くロボットみたいなアレです。

 ゴーレムは使われている素材によって色々な種類があり、石とか木とか鉄とか、凄いのになると全身純金で出来ているゴールデンゴーレムなんていうのまでいるのだとか。


 ゴーレムは一応生物ということもあり、多少の損傷であれば自前の魔力で直すことも出来るそうです。元の素材が金属だろうが石だろうが、傷口がグニャグニャ動いて勝手に直ります。科学的にどうなっているのかは考えてはいけません。


 ゴーレムは魔術師が素材に魔力を込めて作り出すパターンが主ですが、自然の魔力の濃い所に素材に適した素材があれば勝手にポコポコ生まれてくることもあるそうです。そういうのは制御が甘いせいか、すぐに魔力が切れて壊れてしまうことが多いらしいのですけれど。


 ここまでゴーレムに関する基礎的な事柄を述べましたが、ここで重要なのはゴーレムの素材は多種多様。はっきり言って、割となんでもいいという点です。


 さて、それでは本題に入ります。



『お菓子でゴーレムを作ってみよう』





プロジェクト×(バツ) 

~ケーキゴーレムの製作に挑む~




 さて、たまたまオヤツ中に魔王城の窓からゴーレムを見かけた魔王さんと勇者(わたし)の、ちょっとした思い付きで始まった今回のプロジェクト。当初は簡単に出来るものかと楽観していたものの、計画はいきなり暗礁に乗り上げました。


 お城の厨房にあるオーブンをフル稼働させて大量のスポンジケーキを焼き上げたまでは良かったものの、それを人型に成形しようとすると自重で崩壊してしまったのです。


 スポンジでは強度が足りない。 

 ならば、中に芯になる金属の棒でも通せばどうでしょう? 


 最近活躍の場が無くて忘れられがちだった、どんな形にもできるという設定の便利な聖剣を、針金で編んだ人形のようにしてスポンジケーキに潜り込ませました。


 これによりスポンジケーキを自立させることに成功。


 ですが、プロジェクトには更なる試練が立ちはだかります。

 そう、大量のクリームを表面に塗っても段々と零れ落ちてしまうのです。

 更にトッピングに使用したカットフルーツが、ちょっとバランスが悪いとすぐに落ちてしまったり。生クリームより粘度の高いバタークリームを使用する案も出ましたが、それでは脂っぽくなりすぎて味が落ちてしまいます。


 クリームの種類を色々と変えたり、フルーツの配置に気をつけてみたり。

 あれこれと工夫を重ねてはみたものの、決定的な打開策が見つからないまま時間だけが過ぎていきます。


 悩む勇者と魔王。 

 そして、それを生温かい目で見守る元魔王。


 ですが、打開策は意外なところから見つかったのです。アリスちゃんが用意した夕食の巻き寿司を見て、我々の脳裏に稲妻のような衝撃が走りました。


 そうだ、普通のケーキではなくロールケーキにすればいい!


 クリームとフルーツを表面ではなく内側にするという、まさに逆転の発想。

 この発想によりプロジェクトは大きく前進しました。


 こうして、ずんぐりとした体型の人型ロールケーキが完成。

 表面には粉砂糖が散らしてあり、頭頂部や肩などの安定性のいい場所にはクリームやチョコレートなどの飾り付けが。舌飽きを防ぐために、スポンジの場所によってクリームやシロップの種類も変えてあるほどの凝りようです。


 こうして準備が整い、最後の仕上げに魔王さんが巨大ケーキに魔力を込めました。

理論は合っているのです。成功すれば動き出すはず。


 ……魔力を込め始めてから十秒、二十秒、三十秒。

 一体どれほどの魔力を注ぎ込んだことでしょう。もし仮に攻撃魔法に転用したならば、惑星の三つや四つは軽く崩壊しているかもしれません。


 いえ、今はそれよりロールケーキが産声を上げるかどうかが問題です。

 もしや失敗か、という不安が我々の胸に浮かび始めたその瞬間……ゴーレムの指先がピクリと動いたのです。続いて腕、足、頭と動き出しゴーレムは無事に動き出しました。一歩、二歩……と重々しくも力強い足取りは安定しており、不安視されていた二足歩行には問題がない様子。


 が、プロジェクトはまだ終わっていません。

 続いて再生機能の確認するために、勇者(わたし)がケーキナイフ状にした聖剣で腕を小さく切り取ってみました。そして傷口を観察。

 ゆっくりとではありますが、クリームもフルーツもスポンジも見事に再生。これらが何で出来ているのかを考えると一瞬不安になりますが、味見をしてみても特に異常はなさそうです。


 ともあれ、プロジェクトは無事成功。

 いくら食べても自然と再生するゴーレムにより、これからはいつでも好きなだけ甘味を楽しむことが出来るようになったのです。主婦が考えた台所の便利グッズみたいな扱いを受ける聖剣も、これで浮かばれることでしょう。




 ちゃんと成功したことだし、皆でケーキを食べて打ち上げをしよう。

 そういう流れになったのは、ごく自然な事だったのでしょう。


 それがまさか、あんなことになるとは夢にも思いませんでした。

 いえ、夢にも思わないというか夢に見てうなされそうというか……。


 それでは切り分けようか、と魔王さんが言ったのを聞いていたのか。

 ゴーレムがそれには及ばないとばかりにケーキナイフを手にすると、止める間も無くおもむろに自らの腹部に突き刺したのです。そして適量を抉り出して皿の上に盛り付けて差し出してきました。


 そう、切腹(ハラキリ)です。


 このゴーレム、天晴なことに人ならぬ身でありながら真の武士(もののふ)の心を備えている様子。己を生み出した主に忠義を尽くすためならば、迷わず己の身を切り刻んで見せようという意気込みが感じられました。まさに武士の鑑のようなロールケーキです。


 が、引きました。

 一同、思い切りドン引きしました。


 真っ赤なイチゴソースに染まったスポンジ生地が何やら別のモノに見えてしまい、食欲をそそらないこと著しい。スイーツと残酷(ゴア)表現って、絶対ニコイチで運用しちゃダメな組み合わせだと思うんですよ。

 ゴーレムの視線の圧、スポンジ生地にぽっかり空いた穴に気圧されて、とりあえず出された分だけは気合で完食しましたが。


 続いておかわりを差し出そうとするゴーレムを置いて全員ダッシュで部屋を出て、ゴーレムが出て来れないように魔王さんが部屋ごと封印。それはもう厳重に、神だろうが悪魔だろうが決して出てこられないレベルの封印を施しました。

 こうして作業に使われていた魔王城の一室は、魔王さんですら恐れた魔物が封じられた「封印の間」と魔族の皆さんの間で呼ばれることになったそうな。



 ちなみに出られないのはゴーレムだけで、他の人は自由に出入りできるので、いつの間にかこの「封印の間」は、一部の特殊な嗜好の好事家や甘味マニアの憩いの場となったとかならないとか。



※実験に使用した食材は(完成品以外)スタッフが美味しく頂きました。

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