お礼とオヤツ
「じゃあ次はこっちを着てみましょうね」
「うん」
「折角だから髪型も変えてみましょうか? 新しいリボンも買ってきたんですよ」
「ん」
この日、アリスはお人形遊びを……もとい、ライムを着せ替え人形にして楽しんでいました。幸い、と言っていいのかは分かりませんが、この日はお店の客入りもイマイチ。存分に心行くまで趣味に没頭できるというものです。
アリス自身が着るには恥ずかしいような攻めたデザインの実験台、という側面もなくはありませんが、まあ一応、大半は普通に可愛らしい子供服です。
ライムとしても、どちらかといえば動きやすい格好が好みではありますが、別に可愛い服が嫌いなわけではありません。おとなしく師匠の趣味に付き合っていました。
「ふぅ、実に充実した時間でした」
そうして、かれこれ二時間近く。
用意していた服は一通り着せ終わり、アリスもすっかり満足していました。
服や小物の組み合わせを試している間に新たなデザインのアイデアが出てきたりもして、きちんとメモに取ってあります。しばらくすれば、それらの案を元にした服の現物が出来上がることでしょう。
「あ」
……と、ここで、ライムはアリスに渡す物があったのを思い出しました。
愛用の肩掛けカバンから取り出したのはいくつかの布包み。
「これ。おれい」
「お礼? ああ、いつもありがとうございます。ご両親にもよろしく伝えてくださいね」
「うん」
アリスが作った子供服は、今回のように着せ替えを楽しんだ後は、手直しを加えたくなった場合などを除いて、基本的にそのままライムへのプレゼントということになります。
ライムは素直に喜んでくれますし、アリスとしてもむしろお礼を言いたいくらいなのですが、ライムの保護者である両親の心情としては一方的に貰いっぱなしというわけにはいきません。何かしらのお返しを、大抵は森や畑で採れた食べ物などを、時折こうしてライムに持たせているというわけです。
「ええと……干した桃に杏に葡萄に林檎、これは野苺と、おやブルーベリーまで」
今回のお礼の品は、森で採れた果物を干したドライフルーツでした。
「おや、これはなかなか。ほら、ライムもどうぞ」
「ん。おいしい」
師弟揃って干した林檎をつまみ食い。水分が飛んで新鮮な瑞々しさは失われていますが、その分、深く凝縮された甘みと心地良い酸味が感じられます。
「そうだ。折角ですし、これでオヤツを作りましょうか」
ドライフルーツを見て何やら思いついたらしいアリスは、手を洗ってからライムと一緒に厨房へと向かいました。
「今日のは簡単ですから、ライムもやってみます?」
「うん」
「じゃあ、まずはさっきの果物を────」
本日のオヤツの作り方はとても簡単。
正確な計量なども要りません。
「包丁、気を付けてくださいね」
「ん。ねこ」
「そうそう、猫の手ですよ」
まず適当な量のドライフルーツを、ざくざくと粗いみじん切りに。ライムの背丈では調理台で作業をするのに苦労するので、適当な木箱を持ってきて踏み台にしています。
「他にも合いそうなのを入れちゃいましょうか。胡桃とアーモンドと、おつまみ用のピーナッツと、ついでにコレも」
アリスが「コレ」といって取り出したのは昨日の売れ残りのクッキー。普段なら売れ残りのお菓子は身内で消費するのですが、それもナッツ類と一緒にボウルに放り込みます。
ボウルから飛び出さないよう気を付けながら、ナッツやクッキーを麺棒でゴリゴリ砕き、全体がある程度小さくなったとこで先程の刻んだドライフルーツも投入。
そしてそこに、厨房に来た時から常温に晒して少しだけ柔らかくなったバニラアイスをドサッと入れ、あとは木ベラでよくかき混ぜて全体に具が行き渡ったら出来上がりです。
「かんたん」
「ええ。でも、これが結構美味しいんですよ」
別に決まった名前のあるお菓子というわけではありません。
今回は一応ドライフルーツが主ですが、余り物のお菓子や甘味に合いそうな食材を適当に入れれば、なんとなく雑に美味しくなる。そんな極めて大雑把なアイスデザートです。
二人は出来上がった品を器に盛ってフロアの席に運び、温かいお茶と一緒に食べ始めました。
様々なドライフルーツの濃縮された甘みや酸味。
炒ったナッツの香ばしさと歯触りが楽しいカリカリ食感。
おつまみ用のバターピーナッツの塩気も良い仕事をしています。
クッキーはアイスに混ぜられて湿気ていますが、そうして変化した風味がまた楽しい。
「おいしい」
「ふふ、自分で作ると美味しいですよね」
「ん」
調理を手がけたライムシェフもご満悦。
単純な工程とはいえ、自分で作ったら味わいも格別というものです。
「まだ沢山残ってますし、持って帰ってご両親にも食べてもらったらどうですか? ライムが作ったって伝えれば、きっと喜んでくれますよ」
「うん」
表情や言葉のバリエーションが少ないのは相変わらずですが、だんだんと付き合いも長くなってきて、アリスにもライムの喜怒哀楽が読み取れるようになってきました。
自分が作ったお菓子を見せて驚かせたい。
両親の喜ぶ顔を見るのが待ち遠しい。
そんなライムのワクワク感がなんとなく伝わってきて、アリスも何故だか愉快な気分になるのでありました。
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《おまけ》
◆ライムの年齢設定はレストランでの初登場時点で七歳。今回のような単発の話だとそれほど明確に時期を設定していないのですが、大まかに八歳~九歳くらいをイメージしています。
◆ちなみに続編のアカデミア開始時点では十九歳。
そちらでは年長者として立派にお姉さんしてる……ような気がしないでもない。
背丈は伸びたけど、それでもまだアリスよりもちょい小さめの140cm台前半。この世界のエルフ種族の成長期は長くて三十歳くらいまで(以降は何百年も全盛期)なので一応まだ希望はある、はず。





