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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
305/382

ss『お雑煮(ファンタジー風味)』

300回記念ssの四回目。

今回のお題はうぃんてる様より頂いた『ファンタジー風お雑煮』です。

うぃんてる様、どうもありがとうございました。


 雑煮。

 古くは「煮雑にまぜ」と言われ、現代日本においても正月には欠かせない料理ではありますが、そのバリエーションは実に多種多様。お餅が入ったあつものという共通点こそあれど、地域ごと、家庭ごとによって同じ名前の料理とは思えないほどの違いがあります。


 醤油味の澄まし汁仕立て。

 塩気の効いた味噌仕立て。

 同じ味噌でも、白味噌や胡桃味噌を用いた甘い味付け。


 主役の餅にしても、丸餅であったり切り餅であったり。四国の徳島県あたりでは、小豆の入ったあんこ餅を汁に浮かべる事もあるのだとか。


 それらに加えて、トッピングに用いられる具材まで考え始めると、もうキリがありません。鶏、豚、魚といった肉類に野菜類。贅沢な物としては、殻付きの伊勢海老が入っていたりもします。



 同じ名前の料理が内包する多様性としては、日本国内でどうにか対抗できるのはラーメンくらいのものでしょうか。

 雑煮という料理をあえて定義しようとするならば、「餅入りのスープ料理」くらいの大雑把な括りになってしまいそうです。


 いえ、それは大雑把というよりも、懐の深さと言うべきなのかもしれませんが。








 ◆◆◆







「あら、わざわざありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらず~。まだ沢山ありますので~」


 とある年の年明けから数日後。

 昨年末から迷宮都市を空けて魔物退治の依頼に当たっていたメイ達が、大量のお土産と共に帰ってきました。

 

 その退治した魔物とはコカトリス。

 大きな鶏の身体に蛇の尾をくっ付けたような形の有名な魔物です。

 厄介な石化の呪いを用いるので準備無しで挑むのは危険ですが、有名であるために対処法も広く知れ渡っています。対応する種類の魔法薬や護符さえあれば、あとはそこそこの腕があれば倒すのは難しくありません。


 それでも戦う術を持たない一般人には危険極まりない存在ですし、今回は村落の近辺での目撃情報があったので、大急ぎでの対応が必要だったのですが。



「コカトリスですか。あれ美味しいですよね」



 アリスくらいになれば特に意識せずとも大抵の呪いは弾いてしまえますし、それこそ「単に大きいだけの鶏」くらいの認識です。


 メイがお土産として持ってきた肉だけでも全部で20kg以上はありそうです。

 魔法薬の材料として値が付く脳味噌や心臓ハツ肝臓レバーはありませんが、骨付きのモモや皮付きの胸肉、人の腕より大きな手羽だけでも使い道は色々あります。

 細かく切ってから串に刺して焼き鳥にしてもいいですし、定番の唐揚げも捨てがたい。砂糖と醤油で大根や芋類と一緒に甘辛く煮るのもいいかもしれません。

 店で料理として出すかどうかは味見をしてからの判断になりますが、アリスの頭の中では鶏肉料理のレパートリーが目まぐるしく踊っていました。



「そうそう、出発前に頂いたアレと一緒にスープにしたんですけど、美味しかったですよ~」


「ああ、お餅ですか。確かに、お雑煮にも良さそうですねえ」


「オゾウニ? なるほど~、お餅入りのスープだとそういう名前になるんですね~」



 昨年末、メイ達が出発する際にアリスは切り餅を渡していたのですが、それを旅先でスープに入れて、要するにお雑煮にして食べたのだとか。お餅はカロリーが高く腹持ちも良いですし、煮るか焼くかすれば簡単に食べられます。冬場であれば数日程度は問題なく日持ちもしますし、意外と冒険者の携行食として向いているのかもしれません。


 メイからそんな話を聞いたアリスは、 



「まだお餅は残ってましたし、ええ、では今夜は私達もお雑煮にしてみますね」



 コカトリス肉の味見を兼ねて、今夜の自分達の夕食のメニューを決めました。







 ◆◆◆







 その晩。閉店後。



「コンソメ味のお雑煮? ちょっと変わってるけど、美味しそうだね」


「ええ、メイさんから味付けを聞いて参考にしてみました」



 アリスと魔王は、コカ肉入りのお雑煮を味わっていました。

 味付けが味噌や醤油ではなくコンソメ風味なのは、メイに聞いた話に倣った形です。


 野外での食事といえば干し肉に硬いパン、塩分補給用の岩塩、あとは干し果物でも付けば上等というのが数年前までの常識でしたが、その価値観は今やすっかり過去の物。少なくとも、迷宮都市近辺で活動する冒険者達に関しては、すっかり舌が肥えてしまって粗末な食事に満足できなくなってしまいました。

 おかげで商売がやりやすくなって大変結構、とはコスモスの談。

 野外での活動の際に調味料の瓶を持ち運ぶのは破損の恐れもあって難しいのですが、昨今では便利なコンソメキューブやカレーのスパイスミックス、ホールトマトの缶詰なども売り出されており、幅広い人気を集めています。


 まあ、細かな背景事情はさておき、このコンソメ味は冒険者にとっては今や定番の味付けというわけです。干し肉や干しキノコで出汁を取れば味わいに変化も付けられますし、料理の心得がなくとも、最低限お湯さえ沸かせられれば何とかなります。



「コンソメも結構イケるね」


「はい、悪くありません」



 元々、餅というのは、どんな味付けにしても問答無用で美味しくなってしまう、それでいて高カロリーという恐ろしい食品です。



「コカ肉も、ちょっと固めですけど良い味が出てます」


「うん。これはモモでこっちは胸かな。で、これが」


「ああ、それは尾っぽの蛇ですね」


「なるほど、一匹で二つ分味わえてお得だなぁ」


「ですねぇ」



 コンソメだろうがトマトスープだろうが、あるいはファンタジー世界の怪生物だろうが、少なくとも元の味が悪くないのであれば、何と組み合わせても合わないはずがありません。


 この翌日、店にやって来たリサがこの雑煮を振る舞われ、蛇の部分を目の当たりにして悲鳴を上げることになるのですが……まあ、発展には犠牲が付き物。食文化の発展という偉業の為であれば彼女としても本望でしょう。多分。



コカトリスは色々な物語に登場する魔物で、有名なだけに形状や生態についてのバリエーションも多くありますが、本作の世界においては『大きい鶏+蛇の尻尾』というよくあるタイプ。

石化能力への対策が確立されているので、冒険者や兵士が相手だと真価を発揮できないまま狩られる悲しい存在ですが、対策を用意せずに不意に出くわした場合の危険度はかなり高いです。

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