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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
300/382

神と人と


 迷宮都市から遥か彼方。

 人類の生存圏から遠く離れた秘境にて。



「ええと……ここは、こんな感じでいいですか?」


『そうですねぇ。もう、あと30mくらい下げてもらっていいですか?』


「はーい」



 リサは女神の指示の下、長く伸ばした聖剣で山の頂上をスパッと斬り飛ばしておりました。人類未踏の高山は誰に知られる事もないままに標高を30mばかり下げ、鏡面のように真っ平らになった切り口を晒しています。



「すいません、こっちも確認お願いします。火力はこんなものでいいですか?」


『はいはい。ええ、大丈夫そうですね』


「じゃあ、このままやっちゃいます」



 一方、近くの休火山の火口付近では、アリスが太陽表面の数倍にも達する超高温の大火球を、玉入れ感覚でぽいっと投げ入れていました。大きな刺激を受けた火山は活動を再開し、この調子だと数日以内か、遅くとも数ヶ月以内には噴火を起こすことでしょう。



 さて、斯様に人目に付かない場所で環境破壊に勤しんでいる彼女達ではありますが、別に気が狂ったわけでも、悪の道に走って世界を滅ぼそうとしているわけではありません。この自然破壊にはちゃんとした理由があるのです。



『お疲れ様でした。それでは、今日はこのくらいにしておきましょうか』



 アリスとリサに破壊活動の依頼をしているのは、よりにもよってこの世界を司る女神本人。より正確には、地上で活動をするために神子みこの身体を借りた状態の女神でした。

 この世界そのものとも言える女神が破壊活動を推進するのは、まるで遠回りな自虐であるようにも思えるかもしれません。

 女神と今代の神子の関係は極めて特殊なものであり、調子に乗って「おいた」をした女神に対し神子が痛みを伴う「おしおき」をすることがあるのですが、それがキッカケで、とうとう痛みを肯定的に受け入れる被虐趣味マゾヒズムにでも目覚めてしまった……なんて困った理由でもありません。少なくとも、現時点ではまだ女神はソッチ側に目覚めてはいません。将来的にどうなるかはともかくとして。



「それにしても、これが治療というのは説明されてもピンと来ませんねえ」


「針治療とかお灸のスケールを大きくしたみたいな感じなのかな?」



 この活動の目的は、破壊そのものでも特殊なプレイでもなく、広義の治療が目的でした。

 この場合の患者というのはこの世界。より厳密にはこの惑星。

 アリスとリサは、女神から指示された通りに環境を刺激することで、世界を健康にする手伝いをしているのです。



『まあ、一種の健康法みたいなものですよ』



 惑星を人体に例えるなら、適切なツボを刺激したり温めたりすることで血流を良くする療法にも似ているかもしれません。


 この場合の血流にあたるのは、魔法使いが霊脈や龍脈などと呼ぶ魔力の流れ。

 この流れが集中したり、逆に流れが滞って瘤のようになった霊地(魔力溜り)では、植物の成長が早くなったり、傷や病気の治りが早くなったりもするのです。

 溜まり過ぎた魔力が人や動植物の想念と反応し、周囲の土地が天然の迷宮へと変異してしまう危険もあるので、扱いに注意をする必要はありますが。


 その魔力を吸い上げて、より能動的に幅広い用途で利用することも出来るため、実力のある魔法使いが居を構えていたり、歴史の長い国だと主要な大都市はそうした霊地を中心に作られている場合も少なくありません。

 


「過激な健康法もあったものですねえ」



 アリス達がこうして協力するのは今回が初めてではありません。

 何ヶ月かおきに場所を指定され、そこまで転移してから一時間か二時間ほど。

 ある時は河川の流れる向きを変え、またある時は水平線の果てまで埋め尽くす流氷を溶かし、活動内容は毎回違いますが色々とやってきました。

 彼女達にしてみれば大した労力ではないにせよ、それがもう二年以上も続いています。



 以前、アリスとリサが本気でケンカをした時のことですが、途中でなんだか楽しくなってしまったり、珍しく怒って我を忘れたりで、うっかり世界を滅ぼしかけてしまったことがありました。「うっかり」の一言で片付けるには規模が大き過ぎますが。

 ケンカの原因でもある魔王が場を収めたので本気で不味い事態だけは避けられましたが、それで全部が円満解決とはいきません。


 暴れたのは人が住んでいない地域だったので、被害を受けたのは僅かに生息していた野生動物と自然環境くらいのものでしたが、その自然環境こそが問題でした。

 なにしろ、その環境というのは女神にとっては自分の肉体も同然。

 それが一切の遠慮もなく無秩序に荒らされたのだから、文句の一つも言いたくなっても無理はありません。当時はショックのあまり本気で泣いてしまったほどです。



『それでは、次は再来月あたりにお願いしますね』


「ええ。借りを返すまでは付き合いますよ」



 そんなワケで、女神に大きな借りを作ってしまったアリスとリサは、その迷惑分を返し終わるまでは頼みを聞く約束になっているのです。

 無論、正義や人道に背くような命令は除きますが、この活動については彼女達も良いモノであると、少なくとも悪いモノではないと現状では判断していました。



『おかげさまで、この「杖」を立てる土地の選定も進んでいますし、この調子で順調に進んでくれるといいのですけれど』



 女神は手の中の短杖を、聖剣とよく似た白銀色の杖を、クルリと回して呟きました。


 霊脈の流れを整え、勢いを強め、そして新たな霊地を意図的に作り出す。然る後に、土地に満ちた魔力と、そこに集うであろう人々を糧としてこの聖杖を成長させる。

 

 現時点では、まだ計画を始めるための準備段階に過ぎませんが、それでも順調に越したことはありません。最終的な目的を果たすまで、どれだけの時間がかかるのかも今はまだ判然としませんが……。



『幾年月がかかろうとも、わたくしは必ずやこの世界を――――』




◆今回で三百話目だったのでちょっと特別なお話を。

次回からはまた食べ物関係のお気楽な話になりますので。

◆また百回とか二百回の時みたいにお題募集の記念企画でもやりたいんですが、需要ってありますかね?

もしご希望の方がいらっしゃいましたら、感想欄か活動報告のコメント欄にでも『(キャラ名)&(料理名)』を書き込んでいただけたら、そのお題でSSを書かせていただきますので。

ただし、全てのリクエストにお応えできるとは限らないので、その点はあらかじめご了承ください。次回はとりあえず通常更新で。

◆ここまで応援ありがとうございました。

これからも気長にお付き合いくださいませ。

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